《追悼・鳥山明》『ドラゴンボール』で世界中を虜(とりこ)にした、希代の漫画家が描き続けたワクワクドキドキの冒険心
堀田 純司
『ドラゴンボール(DRAGON BALL)』を世に送り出した漫画家・鳥山明(とりやま・あきら)氏が、3月1日に逝去した。実質的デビュー作『Dr.スランプ』でいきなり一世を風靡(ふうび)し、2作目の『ドラゴンボール』で世界中の読者を虜にした漫画家の半生を振り返り、その作家性の核心にあった少年漫画の本質を解き明かす。
“少年漫画の心”が満ちた「かめはめ波」
両手を上に。まだこの段階では力はこもっていない。次に片手は天に向けたまま、もう片方を地の方向に回す。そして向かい合った掌(しょう)と掌の距離を縮めながら「か……め」とつぶやき、全身の潜在パワーを凝縮させていく。 まだ早い。放つにはまだ早い。 掌と掌は、すでに接触しているはずだ。ひとつに合わさった掌を腰のところで構える。「は…め…」と声が漏れる。漲(みなぎ)るパワーを完全に制御する。身体が熱い。衝撃に備えて片足を引く。そして「波(は)」の掛け声とともに、対象に向けて一気にエネルギーを放出するのだ。 張り切り過ぎると、山をも消し飛ばすという技。武天老師こと亀仙人(かめせんにん)が編み出した「かめはめ波」だ。 漫画『ドラゴンボール』に登場する技だが、「ある年代の男子であれば、世界中の誰もが一度はその型を演じたことがある」と言っても過言ではないだろう。筆者もある。『ドラゴンボール』に満ちた「少年漫画の心」は、それほど強く広く、読者の心をとらえた。
その偉大な作品の作者、鳥山明氏が3月1日、急性硬膜下血腫のために亡くなった。まだ68歳だった。訃報は全世界で報じられ、ファンも、クリエーターたちも突然の知らせに呆然とし、悲しみの言葉を捧げている。 鳥山明氏が漫画家としてデビューし、『Dr.スランプ』、『ドラゴンボール』などの作品を連載した「少年ジャンプ」の公式サイトでは、鳥山氏と親交の深かった人たちの追悼の言葉が掲載されている。そのひとり、『ワンピース』の作者、尾田栄一郎氏は、鳥山氏の残した業績について、こう語っていた。 漫画なんて読むとバカになるという時代からバトンを受け取り 「大人も子供も漫画を読んで楽しむという時代を作った一人でもあり 漫画ってこんな事もできるんだ 世界に行けるんだ、という夢を見せてくれました。 突き進むヒーローを見ているようでした。」