なぜ西武”恐怖の8番”木村文紀の逆転満塁弾が炸裂したのか?
辻監督が表情を綻ばせたのは、ただ単に勝ったからではない。北海道日本ハムファイターズとの開幕戦で昨シーズンから続く連勝を12に伸ばしたエース、ザック・ニールが先発する試合は、パ・リーグ3連覇を目指す上でも「不敗神話」を継続させたい。実際、6回まで1失点とこの日も粘投した。 しかし、先頭の上林誠知にレフト前へ運ばれた7回表に状況が一変する。一死後に牧原大成が放った一塁ゴロを、二塁封殺を焦った山川がまさかの後逸。甲斐拓也を歩かせた一死満塁で左腕・小川龍也が救援するも、1番・栗原陵矢にこの試合3本目となるヒットをレフト前へ放たれて同点とされた。 たまらず平井克典をマウンドへ送るも、二死から3番・柳田悠岐にセンター前へ弾き返されて逆転されてしまう。勝ちパターンの投手リレーを繰り出しながらも、ソフトバンク打線を抑えられなかった。加えて、このままではニールが負け投手になってしまう。ベンチ内に漂い始めた暗い雰囲気を木村のひと振りが一掃した直後に、辻監督はマネージャーから嬉しい報告を受けている。 「あの瞬間にベンチでヤマ(山川)が一番喜んでいた、と。そういう気持ちが、チームにとって一番いい形なんですよ。全員が必死に戦っているなかで、他の選手が(ミスを)カバーし、それに対して心からありがとうと言えるようなチームでありたい。その意味でもチームを救ってくれた一発でした」 「ホームランについては何もありません。あのエラーで全部台無しです」 試合後にこんな言葉を残した山川が起死回生の一発で救われ、次なる戦いへ心を奮い立たせていることは、ベンチへ凱旋してきた木村とハイタッチを交わすポーズを取りながら、満開の笑顔で「ありがとう!」と叫んだ姿が何よりも物語っている。殊勲の木村も山川と思いをシンクロさせた。 「今日はたまたま満塁ホームランになりましたけど、こういう助け合いを何度でもしていきたい」 3月に生まれた第一子の長男の記憶に残すためにも少しでも長く野球を続けたいと望む木村が、確実性と得点圏打率を上げる目標を成就させて、“恐怖の8番”となるきっかけをつかんだだけではない。トップでペナントレースを制し、2008年以来となる日本一を目指していく上でも必要不可欠となる、チームの一体感が一気に高まった点でも価値ある満塁弾と逆転勝利となった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)