【オニール八菜連載vol.2】ふたりのアルブレヒトと! 夢を叶えて初役で踊ったジゼル。
ジェルマンとユーゴ、ふたりのアルブレヒト。
「第2幕ではアルブレヒトへの愛、それだけを考えて踊りました。"幽霊"であることを忘れずに、だから生きている人間とは目が合うこともありません。愛する気持ちはいっぱいだけど、でも自分は死んでしまった"幽霊"なのだと......。ジェルマンも私が実体のない幽霊であることをすごく意識していて、たとえば手の触れ方ひとつにしてもしっかりではなくふわっとした感じにしていました。その点ユーゴは違ったので、ああ、彼はこれまで私とは違うジゼルと踊ってきたのだなとすごく感じました。鐘の音が鳴る時、ジゼルはミルタの前にいますね。私はミルタ役を踊っているせいでしょう、彼女はウィリたちの女王だという思いが強くあって、ミルタが去ってしまうまでジゼルは何もリアクションをしないものだと考えていました。このように反対側の役も踊っていると、役の解釈を興味深いものにしますね」 今回の『ジゼル』では、ジェルマン・ルーヴェとユーゴ・マルシャンというふたりのアルブレヒトと踊ることになった八菜さん。婚約者がいながら身分を隠して、ジゼルと愛し合うアルブレヒトである。どちらがより"プレイボーイ"だったのか。 「第1幕では、それもおもしろいところでした。ユーゴは最初からジゼルに嘘をついているというのがすごく感じられました。ジェルマンのアルブレヒトには騙すとかそういう気持ちはなくって......『ジゼル』の元となる話によると、ジゼルもアルブレヒトも踊るのが大好き。踊りがふたりを繋げ、そして愛となる。リハーサルはジェルマンとずっとしていたせいかもしれないけれど、彼のアルブレヒトは結果として"あ、騙すことになってしまった!"という感じなんです。それに対してユーゴは最初から自分は悪いことをしてるという意識があるのが感じられて......。ユーゴは体格がいいから身体的なこともあって感じるのかもしれないけれど、ジゼルに対して支配的な面があります。ジェルマンのアルブレヒトはジゼルと対等。どちらが良い悪いというのではなく、こうしてふたりのダンサーと同じ作品を踊るのはすごくおもしろい経験でした。次回踊る機会があったら? 『ジゼル』に限らず次はああしてみよう、こうしてみようといった仕事ではありません。たとえば2月に日本で踊った『白鳥の湖』を今回オペラ座で踊るわけですが、2月に日本で終わったところから稽古を始め、同じ方向でさらに次の段階に行けるように、という仕事をします。それがおもしろいんです。回を重ねるごとに、より高めてゆくというのが楽しみなんだと思います。コール・ド・バレエの人たちにしてみると、あ、また同じバレエとなるかもしれないけど、ソリストにとっては、過去に踊った作品に再び取り組めることがあるのはすごいチャンスだと感じています」
オニール八菜 東京に生まれ、3歳でバレエを習い始める。2001年ニュージーランドに引っ越し、オーストラリア・バレエ学校に学ぶ。09年、ローザンヌ国際バレエコンクールで優勝。契約団員を2年務めた後、13年パリ・オペラ座バレエ団に正式入団する。14年コリフェ、15年スジェ、16年プルミエール・ダンスーズに昇級。23年3月2日、公演「ジョージ・バランシン」で『バレエ・アンペリアル』を踊りエトワールに任命された。 photography: ©James Bort/Opéra national de Paris Instagram: @hannah87oneill
editing: Mariko Omura