食道がんのリスクを"ほぼ確実"に低下させる…最新研究で分かった"長生きするために必要な食べ物"の真実
健康と食事には深い関係がある。女子栄養大学の林芙美准教授は「国立がん研究センターなどがまとめた『日本人のためのがん予防法』のひとつには、『食生活を見直す』が含まれている。野菜と果物を食べることはがん予防効果が期待されており、特に食道がんのリスクをほぼ確実に減らすことがわかっている」という――。(第1回) 【写真】林芙美氏 監修『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社) ※本稿は、林芙美(監修)『間違いだらけの「野菜」の食べ方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。 ■野菜と果物を食べるとがん予防が期待できる 2023年、日本人の死因の第1位はがんでした。日本人の2人に1人は、一生のうちで一度はがんになるというデータもあります。がんをいかに予防するかということは、多くの人にとって重大な関心事です。 国立がん研究センターをはじめとする研究グループは、日本人を対象とした研究結果に基づき、科学的根拠に根ざしたがん予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法(5+1)」を提唱しています。同ガイドラインで提唱されている予防法は次の通りです。 ---------- ①禁煙する ②節酒する ③食生活を見直す ④身体を動かす ⑤適正体重を維持する ⑥感染症の検査を受ける ---------- ③の「食生活を見直す」については、「減塩する」「野菜と果物をとる」「熱い飲み物や食べ物は冷ましてから」の3項目が推奨されています。野菜と果物の摂取はがんの予防にも効果が期待できるのです。 がんの原因となりうる物質を発がん物質といいます。野菜や果物に含まれるカロテン、葉酸などのビタミンやその他の機能性成分には、発がん物質のはたらきを弱める酵素の活性を高めたり、がんの一因とされる活性酸素を消去したりする作用があると考えられています。実際、野菜・果物を摂取すると、いくつかのがんの発症リスクが低くなることが報告されています。
■食道がんのリスクを「ほぼ確実」に低下させる そのひとつが胃がんです。 胃がんは日本人に多いがんのひとつです。これは、ピロリ菌による感染が多いことと、食塩摂取量が多いことが関係しています。かつては日本人に最も多いがんでしたが、診断方法と治療方法の向上で2022年は罹患率・死亡率ともに男女合わせて3位です。 野菜・果物の摂取により、胃がんの発症リスクが下がる可能性があります。国内で行われた4つの前向きコホート研究データを統合して、胃がんと野菜・果物の摂取について調べた研究(*1)ではをもとに胃がんと野菜・果物の摂取について調べた研究では、野菜を摂取すると胃がんの発症リスクが低下することがわかりました。特に男性では、下部胃がんの発症リスクが低下しています。 食道がんも同様です。野菜・果物摂取と食道がんとの関係について調べた国内の研究(*2)では、野菜・果物の合計摂取量が1日あたり100g増加すると、食道がんの発症リスクが約10%低下することが明らかになっています。 国立がん研究センターのまとめでは、野菜・果物を摂取することは胃がんの発症リスクを抑制する「可能性がある」、そして食道がんについては「ほぼ確実」にリスクを低下させるとしています。 (注) (*1)Shimazu T, Wakai K, Tamakoshi A, Tsuji I, Tanaka K, Matsuo K, Nagata C, Mizoue T, Inoue M, Tsugane S, Sasazuki S; Research Group for the Development and Evaluation of Cancer Prevention Strategies in Japan. (2014) Association of vegetable and fruit intake with gastric cancer risk among Japanese: a pooled analysis of four cohort studies. Ann Oncol, 25(6) , 1228-33. (*2)Yamaji T, Inoue M, Sasazuki S, Iwasaki M, Kurahashi N, Shimazu T, Tsugane S; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. (2008) Fruit and vegetable consumption and squamous cell carcinoma of the esophagus in Japan: the JPHC study. Int J Cancer, 123(8), 1935-40. ■果物・アブラナ科の野菜は、肺がんのリスクを下げる 日本人でがんの死亡率が最も高いのは、肺がんです(2022年)。肺がんの最大の危険因子は喫煙です。喫煙率は男女とも減少傾向にありますが、いまだに男性は24.8%と4人に1人は喫煙しています(令和4年)。女性の喫煙率はあまり高くありませんが、非喫煙者でも肺がんになる可能性はあります。 野菜・果物の摂取と肺がんとの関係では、特に果物について、国立がん研究センターのリスク評価で肺がんの予防効果が「可能性あり」という結果になっています。野菜では、特にアブラナ科の野菜が肺がんのリスクを下げる可能性があると報告されています。 アブラナ科の野菜の摂取と肺がんについて調べた国内の研究(*3)では、一度も喫煙したことのない男性は、アブラナ科野菜の摂取が多いと肺がんリスクが51%も低くなることがわかりました。過去に喫煙していた人も、肺がんリスクが41%低くなっていました。 残念ながら、喫煙する男性については、アブラナ科野菜の摂取と肺がんのリスクに関連は見られませんでした。また、女性については、喫煙習慣の有無にかかわらず、アブラナ科野菜の摂取と肺がんリスクに関連は見られません。 (注) (*3)Mori N, Shimazu T, Sasazuki S, Nozue M, Mutoh M, Sawada N, Iwasaki M, Yamaji T, Inoue M, Takachi R, Sunami A, Ishihara J, Sobue T, Tsugane S. (2017) Cruciferous Vegetable Intake Is Inversely Associated with Lung Cancer Risk among Current Nonsmoking Men in the Japan Public Health Center (JPHC) Study. J Nutr, 147(5), 841-849.