『西園寺さんは家事をしない』『1122』の漫画家が考える“いい夫婦”とは? ふたりの漫画家が見つめなおす、恋愛作品の描き方【実写ドラマ化の原作漫画家対談】
渡辺「エモーショナルな結びつきを重視しすぎることには懐疑的だった」
――以前、渡辺さんもおっしゃってましたよね。子どものころから異性恋愛至上主義の空気が醸成されていて、美しく描きすぎたことで起きた問題もあったのではないか、と。 【渡辺】 そうなんです。私も、若いころは、恋愛はするものだと思い込んでいたし、一生懸命やってはいたけれど、振り返ると全然向いていなかったなって思うんですよね。読み手としては楽しんでいたけれど、どちらかというと恋愛が必ず結婚に帰結することや、エモーショナルな結びつきを重視しすぎることには、懐疑的だったなあって。向いていない人に向けて、恋愛以外の物語も必要なのではないか? という気持ちが、最近では強くなっています。ひうらさんのおっしゃるとおり、現実はエモーショナルな勢いだけでは解決できないことだらけだし……。 【ひうら】 できないですよねえ。 【渡辺】 とくに結婚って、生活というか人生のすべてに関わってくることだから。できる限りシラフな状態でかわしたほうがいいよなって思うんですよね。酔っぱらって大事な契約をかわさないのと同じで、恋愛の脳内物質がどばどば出ている状態で突っ走ってしまうのは危険なのかな、と。 【ひうら】 ただ、これまでずっとエモーショナルで描いてきたから、『西園寺さんは家事をしない』で、恋愛から始まらない関係を描くのは、けっこう難しかったです。西園寺さん自体、描いたことのない主人公でしたからね。これまではコンプレックスをバネに一生懸命がんばる子が多かったけど、彼女は仕事ができるし、犬を飼うために家を買っちゃうくらい経済力も決断力もある。美人で、自分に自信があって、トラブルが起きても冷静に対処できるし。 【渡辺】 ものすごい安定感がありますよね。本来、物語というのは、主人公を通じて多少の揺るぎを描かないといけないんだけれど。 【ひうら】 全然、揺るがない。パニックにならない(笑)。でも、そういう彼女だから、年下のシングルファザー・楠見くんを娘のルカごと引き受けるという展開にも、偽家族という関係にも、説得力をもたせられたんだろうなと思います。西園寺さんの気持ちは、同居するうちにだんだん恋愛に変わっていくんだけど、これまでの主人公と違って相手を「守りたい」と思える人として描けたのも、新鮮でした。世間にプレゼンするような名前を自分たちの関係性につける必要なんてない、という結論にたどりつけたのも、きっと彼女だったから。