『西園寺さんは家事をしない』『1122』の漫画家が考える“いい夫婦”とは? ふたりの漫画家が見つめなおす、恋愛作品の描き方【実写ドラマ化の原作漫画家対談】
「問題意識があるところが、渡辺さんの個性であり魅力」「ひうらさんの描く物語に、そもそも包容力がある」
【渡辺】 女性が男性を支えるというと、内助の功というか、尽くして世話を焼いてあげるイメージがこれまでは強かったと思うんですけど、西園寺さんはそうじゃないんですよね。楠見くんだけでなく、男女問わずみんなが頼りたくなる人としての包容力がある。新しい男女の姿を描いているな、と思いました。 【ひうら】 実際、独身の友達で家を買った子がいるんですよ。犬を飼うことにして、引っ越さなきゃいけないんだけど、高いからどうしようと悩んでいたと思ったら、ローンを組めば何とかなるかなと思って、と。クックパッドで働く方々に取材したときも、みなさんけっこう低体温というか、仕事はバリバリやるけれど帰り道は誰とも目を合わせずにひっそりしている、みたいな割り切りをしているのが印象的だったんですよね。うじうじすることなく日々を前進しているリアルな女性像を描きたい気持ちもありました。 【渡辺】 ひうらさんの描く物語に、そもそも包容力があるんですよね。おおらか、というのかな。キャラクターたちがみんな、ゆったりと構えているから、何があっても彼女たちはきっと大丈夫、と信じられる陽のオーラに溢れている。そして読んでいる私たちも、きっと大丈夫だと信じられる安心感があるんです。私はどうしても、登場人物たちを問い詰めて、厳しい状況に追いやってしまいがちだから(笑)。 【ひうら】 その問題意識があるところが、渡辺さんの個性であり魅力だなと思います。しかも、ただ問答をするだけじゃなくて、ウィットに富んだセリフまわしで、心地よく進んでいくところが好き。たとえば『1122』の第1話で、主人公のいちこが女友達3人と語りあう場面は、ずっと読んでいられます。「お母さん私の性欲どこに行ったんでしょうねえ」とか強く共感できるのは、言葉だけでなく、ユーモアのある絵とコマ運びで展開していくから。そうして、セックスレスの話なのかなあと思わせておいて、「夫には外に恋人がいる」という告白で締める。テーマを物語に落とし込んでいく構成も巧みですよね。 【渡辺】 ありがとうございます。うれしい……。 【ひうら】 おとやん(夫)にセックスを拒否されたいちこが頭を打って「匿名ではてなにも書くからね」って言うところとか、状況としては厳しいんだけど、どこか笑ってしまうユーモラスさに満ちていて、何度も読んじゃいます。あそこも笑ったなあ、おとやんが一人、公園でブランコに乗りながら「俺ってクズなのでは?」って気づくところ。今:interrobang:って(笑)。 【渡辺】 あれは、ネットの感想でクズと書かれまくっていたのが、影響した気がします(笑)。 【ひうら】 おとやんのいいところと悪いところが全部詰まっていますよね。なぜだか憎めないっていうか。女性用風俗に行ったいちこに「自分だって1年以上不倫してたくせに」みたいに言われて、自分とは状況がちがうって責めるのもクズなんだけど、いちことどんな関係になっても本当に辛いときには駆けつけてくれる姿をみると、まさにいい夫婦だなって感じられる。お互いに、最後まで諦めない関係、というのがいいですよね。