改憲発議、ダブル選は? 2019年の日本政治を展望する
憲法審査会の審議は進むか
いずれにせよ重要なのは改憲案の審議がどのように進むかであるが、見通しは必ずしもクリアではない。 第一に、安倍首相の手法に批判的な声が自民党内にも一定程度存在する。昨年の総裁選で首相の対抗馬となった石破茂氏がその代表である。そのため、安倍政権が性急に改憲手続を進めようとした場合、党内からそれを牽制する動きが出てくるかもしれない。 第二に、連立与党の公明党は、平和主義を重視しており、9条改正に対して慎重である。そのため、来年の参院選などで改憲が争点になることを好んでいない。公明党の意向を無視して改憲スケジュールを進めるのは容易ではないだろう。 第三に、野党第1党の立憲民主党は、安倍政権下での改憲には反対の姿勢である。従来、憲法審査会での議論は野党第1党の理解を得ながら行ってきたが、安倍政権はこうした慣行を軽視する構えを見せている。もし憲法審査会で強行採決が行われることになれば、世論の批判が強まるかもしれない。 第四に、来年5月に予定される皇位継承は静かな環境で行うべき、との声も強い。皇位継承の最中に憲法論議が行われることについて、世論はどう見るだろうか。 第五に、国民投票の実施に漕ぎ着けたとしても、仮に否決されると内閣の命運が危うくなるリスクがある。実際、英国のEU離脱の国民投票では、残留案を否決されたキャメロン政権は退陣を余儀なくされた。しかも国民投票によって英国民が分断されてしまい、英国政治はいま混乱状態にある。 憲法改正を政権のレガシーとしたい安倍首相は、以上のようなハードルとリスクをあえて乗り越え、改憲手続を進めようとするかもしれない。「国のかたち」を左右する憲法改正の議論にどのように向き合うか、政治家だけではなく、私たち自身も問われている。
------------------------- ■内山融(うちやま・ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など