鬼頭志帆

リアル書店は消えるのか、模索する現場の本音

2016/11/16(水) 12:04 配信

インターネット通販と電子書籍の普及から、経営に行き詰まった多くの書店が街から姿を消している。1999年に2万2,296店あった書店数は、2014年には1万3,943店に急減。「リアル書店」はこのまま消えていく運命にあるのか? 現場はどう生き残り策を模索しているのか? 立場の異なる書店の声を聞いた−−。
(ライター・三橋正邦/Yahoo!ニュース編集部)

やれることはすべてやっている。しかし……
工藤恭孝・丸善ジュンク堂代表取締役
「いかに付加価値をつけるか」がすべて
友田雄介・アマゾンジャパン合同会社Kindle事業本部コンテンツ事業部事業本部長
集客装置としての力はまだまだ強い
内沢信介・TSUTAYA BOOK部部長/田島直行・蔦屋書店事業本部本部長
「書店員が売りたいもの」を売る強さ
上林裕也・ヴィレッジヴァンガード、書籍・コミック統括バイヤー

やれることはすべてやっている。しかし……

日本有数の老舗大型書店であるジュンク堂。その選書や棚作りは、多くの「本好き」から愛されている。丸善ジュンク堂代表取締役の工藤恭孝氏に、現在、日本のリアル書店が置かれている現状をどう捉えているかを聞いた。

工藤恭孝・丸善ジュンク堂代表取締役

撮影:菅井 淳子

ネット通販や電子書籍が普及したことは、私どもリアル書店を経営する立場からすると、とても「厳しい変化」です。

雑誌の読み放題サービスの普及は、店頭での雑誌販売に大きなダメージを与えていますし、書店で立ち読みしているお客さんがその場でスマートフォンを取り出してネット書店で注文し、手ぶらで帰宅される姿を目にすると、私どものビジネスが、非常に厳しい状況に置かれていることを痛感します。

ただ、書店も、そうした状況を手をこまねいて見ているわけではありません。販売情報を管理するPOSシステムの開発や流通センターの整備もそうですし、出版社に頼らずかつての名著をPOD(プリントオンデマンド)で一冊から復刊させて商品の充実を図ったり、文房具売り場やカフェとの併設を進めたり、「ネットで買ったほうが便利だよね」と言われてしまわないように、できるかぎりの工夫は重ねてきています。

ジュンク堂としても、2014年から「本屋に泊まろう」という企画を行っています。閉店後から翌朝まで店内に泊まっていただき、店内の本を自由に読んでいただく。おかげさまで、今年に至るまで、たくさんの応募をいただいておりますが、これは、書店という場所が「本を買う」だけにとどまらず、「そこにいるだけで楽しい」と人に感じさせる力を持っているからだろうと思います。

そのほかにも、大学や高校の先生方を呼んで、図書館に入れる本を選書してもらうための「選書ツアー」も行っています。これは、検索だけではなかなか出会うことができない本を一覧できる、リアル書店の強みを生かした取り組みだと考えています。

ただ、当然のことながら、こうした試行錯誤には、人的にも金銭的にもコストがかかり、そのコストを捻出するのにも四苦八苦している現状があります。そして、正直に申し上げて、書店というビジネスが置かれた厳しい状況を根本から覆すような妙案は、いまだに見いだせていません。

書籍以外のグッズを併売するなど、様々な工夫は行われているが……(撮影:鬼頭志帆)

こうした現場の状況にあって、中小書店を中心に、書店の廃業には歯止めがかかっておりません。20年後には、書店数が今の1/10程度まで減っていても不思議ではない。「そうは言っても大型店は残るだろう」と予想される方もいらっしゃいますが、そんなに甘くはない。私どものような全国にチェーンを持つ大型店では、ライバル会社の動向だけでなく、人口減少なども大きな影響を受けるのですが、少子高齢化が進む中で、店舗経営を続けるのが難しい地域が増えてきています。

「リアル書店の社会的な役割は終わった。これが時代の変化だ」と言われればそれまでですし、今の流れは、電子書籍や読み放題サービスに積極的な出版社の方々にとってはポジティブな変化という見方もできるでしょう。しかし私は、中小の書店が淘汰され、街から消えてしまった時、日本が誇る豊かな出版文化を維持できるのか、危機感を覚えています。本格的な学術専門書から、ビジネス書や自己啓発本や実用書、それから漫画や小説まで、読者の年齢や要望に応える形で細かく細分化され、ここまで多種多様に出版されているのは、日本だけでしょう。

大型書店のシェアは業界全体の1〜2割程度。成長していると言われるネット書店の売上を加えても、中小書店が廃業していくことによって生じる書籍や雑誌売上の落ち込みをカバーするには至りません。もしこのまま地域の中小書店が消えてしまうようであれば、出版業界全体の売上は激減し、今の半分程度の規模になるでしょう。

では、そうした市場規模になった時、出版社は作りたい本を作ることができるのか。読者のみなさんが満足するような質と量の本を提供できるのか。私は難しいと思っています。「書店の危機」は、「出版文化全体の危機」です。日本の出版文化が崩壊する日を何としてでも止めたい。そう考えて、私どもは必死にあがいている。これが、リアル書店の現実です。

「いかに付加価値をつけるか」がすべて

リアル書店が苦境に陥る原因として、オンライン書店の台頭を挙げる人は多い。今年に入り、電子書籍読み放題サービスをスタートし話題となったインターネット通販最大手のAmazon。その日本法人であるアマゾンジャパン合同会社Kindle事業本部コンテンツ事業部事業本部長の友田雄介氏に話を聞いた。

友田雄介・アマゾンジャパン合同会社Kindle事業本部コンテンツ事業部事業本部長

撮影:安部俊太郎

出版不況と言われますが、私どもは、本のマーケットは決して縮小していないと捉えています。電子書籍が伸びているからということもありますが、Amazonでは紙の本の売上もまだまだ伸びているんです。

それは私どもが常に顧客目線に立ち、「欲しいものがすぐに手に入る」という基本姿勢に沿って、やるべきことを愚直にやってきた結果だと考えております。専門書など刷り部数が少ないものもきちんと揃える。購入する前に中身を確認しづらいネット書店の弱点を「なか見!検索」といったサービスで補う。開店当初から改善を積み重ねてきたレビューやリコメンド機能……様々な側面から、顧客のために努力を重ねてきました。

確かに今は、紙の本よりも電子書籍市場の拡大の勢いは目立ちます。電子書籍が支持される理由は、注文と同時に読むことができるという即時性と、在庫切れや絶版がないことにあります。紙の書籍はたとえ何万冊在庫していたとしても、それが売り切れてしまったら次に入荷するまでは在庫切れです。年に1冊しか売れないような本であれば、重版がかからず、出版社の在庫が売り切れたら絶版になる。しかし、電子書籍であれば、どのような状況であっても確実に入手できるわけです。

しかも面白いことに、こうした電子書籍のメリットは、紙の本のマーケットにも好影響をもたらします。たとえば、しばらく売れ行きが止まって店舗から姿を消していたタイトルであっても、電子書籍があれば何かのきっかけで突然火がつくこともある。そうすると「電子で売れているから、紙でも重版するか」ということが起きる。例えば、文藝春秋の『チェ・ゲバラ伝』は元々1971年に発行された本で、Amazonでも在庫がなかったのですが、2014年にKindle版を出したところ、大きな反響があり、紙でも増補版を発売することになったのです。

米国・ワシントン州のAmazon Books(アマゾンジャパン合同会社提供)

私どもはリアル書店がなくなるとは考えていないし、軽視しているわけでもありません。実際、米国・ワシントン州のシアトルでは、2015年11月にリアル書店「Amazon Books」を立ち上げました。この書店では、ワシントン州の売り上げランキングに沿って棚を作るなど、オンライン書店とリアル書店の融合について実験を続けています。

そもそも、電子書籍と競合するのは「紙の書籍」ではなく、「ゲーム」や「メッセンジャー」などのスマートフォンアプリです。2016年8月にサービスを開始した読み放題サービス「Kindle Unlimited」も、「本を読むことのハードルを下げる」ことによって、ユーザーがこれまでゲームなどで使っていた時間を、書籍に向けていただくことが狙いです。

オンライン書店でもリアル書店でも、生き残るために必要なことは「付加価値」です。お客様のニーズをいかに的確に捉え、新たな付加価値を作っていくか。書店が生き残っていくために必要なことは、その一点なのではないでしょうか。

集客装置としての力はまだまだ強い

厳しい経営環境に置かれるリアル書店の中でも、独自のアプローチで活路を見出す取り組みがある。「本屋」というイメージからはかけ離れたお洒落な外観。豊富なメニューを備えたカフェ。近年、従来の書店のイメージを覆す書店を展開するのが蔦屋書店だ。TSUTAYAブックネットワーク担当の内沢信介氏と蔦屋書店担当の田島直行氏に話を聞いた。

内沢信介・TSUTAYA BOOK部部長

撮影:安部俊太郎

本が売れない時代になったと言われていますが、電子書籍や図書館貸出、雑誌の読み放題、ネット上のコンテンツなどをトータルすれば、市場全体での「文字を読む量」はむしろ増えていると捉えることもできます。つまり、日本人は「文字離れ」をしたわけではなく、従来の「本」という形だけでは満足しなくなっているということですよね。では、どういう形で「文字」を提供すれば、お客様に満足していただけるか。そこを考えるのが、これからの書店に求められていることだと思います。

弊社では、2014年12月から、紙の雑誌を買うと電子版が無料で付いてくる「AirBook」というサービスを始めています。これも「読者のニーズとは何か」を考える中で生まれたサービスです。旅行計画を家で立てる場合は、紙の雑誌のほうが、ゆっくりとページをめくれるし、大きな写真でイメージも膨らむ。でも、旅先では荷物を減らしたいので、スマホで読みたいという方は多いと思うんです。そういう読者の新しいニーズに応える。そしてそのサービスに対して対価をいただくということですね。

またTSUTAYAの全国のフランチャイズ店には、力のある名物書店員さんがいます。彼らの持つ地域の書店ならではの情報を私どものネットワークで共有し、お客様に新しい本との出会いを作るということにも取り組んでいます。目利きの書店員さんたちに「絶版にするのが惜しい本」を厳選してもらい、復刊する「復刊プロデュース文庫」は、そうした書店員さんのネットワークを作ることによって可能となった企画ですね。今4作目ですが、おかげさまで非常に売り上げが良く、年内には第一弾『九月の恋と出会うまで』の売上が10万部を超える見込みです。

新たなコンテンツを作り、それを紹介し、買っていただいた後のサービスも提供する。これが新しい書店の姿だと考えています。

田島直行・蔦屋書店事業本部本部長

撮影:安部俊太郎

代官山の店舗に代表される蔦屋書店は、単に本を売るお店ではなく、本を通じてライフスタイルを提案する「生活提案型施設」です。たとえば、「湘南T-SITE」は、生活の中でも食に特化した店舗です。八海山・千年こうじやさん、石見銀山群言堂さん、合羽橋の釜浅商店さんなど有名店が出店されていますが、それらが書籍売場とシームレスに展開されており、料理教室も開催されています。料理の本を見ていたら自然と釜浅商店さんの鍋を手に取るような動線になり、そのまま群言堂さんの雑貨に行き着くという、「スローライフ」の世界観をお客様の回遊動線で設計しています。

店舗を訪れる人の回遊同線を意識して設計された「湘南T-SITE」の店内(蔦屋書店提供)

リアル書店が生き残っていくには、単に「本を売る」ことだけではなく、カフェや他の店舗と組み合わせることによって、収益化を図ることが必要です。本屋さんには多くのお客さんが訪れますし、集客装置としての力はまだまだ強いんです。

ただ、安易な組み合わせもうまくはいきません。どのような品揃えで、どんな空間を作るか。それによって「お店に来ていただく価値」を作ることが必要です。僕らはそれを「居心地」と呼んでいます。本屋として来ていただく方だけではなく、散歩にいらっしゃる方、仕事場としていらっしゃる方など様々なお客様が居心地の良さを感じる空間を作ること。それこそが、リアル書店ならではの価値ではないでしょうか。

「書店員が売りたいもの」を売る強さ

たくさんのポップや個性的な雑貨とともに山積みされた書籍。多くの若者が訪れる「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードは、ここまでの大型書店とはまったく異なる販売戦略を取っている。ヴィレッジヴァンガード書籍企画課企画開発部、書籍・コミック統括バイヤーの上林裕也さんに話を聞いた。

上林裕也・ヴィレッジヴァンガード商品本部企画開発部書籍企画課、書籍・コミック統括バイヤー

(撮影:安部俊太郎)

僕たちは、全国津々浦々の全店で、どの環境の店舗でも年間1億円売ることを目標にしており、それを実行可能な戦略だと考えています。

なぜそれが可能かというと、うちは各店舗の従業員たちが一般的な売れ筋とは無関係に、自分の売りたい本、そして、来店されるお客様に売れそうな本を自由に仕入れる環境ができているから。入ったばかりのアルバイト店員も、全員が「バイヤー」です。スタッフが一人ひとりお客様に接する中で、自分の売りたい商品を選んで発注をかけ、商品一つ一つにコメントのPOPを書いています。この姿勢は創業当時から変わっていません。

所狭しと貼り付けられた、店員の魂が込められたポップの数々(撮影は編集部)

だから当然、店舗によって品揃えは違います。お客様との密なコミュニケーションが各店舗独自の売れ筋発見につながっているんですね。つまり、僕たちヴィレッジヴァンガードの強みは、地域に密着し、お客様と密なコミュニケーションを取るなかで、きめ細やかに「売りたい本」を選んでいることなんです。

本部としては、一般的に売れている本、たとえば文学賞などを取った本は置きたいという考えも正直あります。ただ、多くの店長たちはやりたがらない。受賞作ではなくて、最終選考まで残ったけど負けた本を売りたがったりする。だから、一般的な売り上げランキングでは上位に来ない本が、うちではダントツに売れていたりして、出版社さんがびっくりされることも多いです。たとえば、芥川賞を取った『コンビニ人間』よりも、雑誌「暮しの手帖」の編集長だった松浦弥太郎さんの『センス入門』が売れちゃうんです。

「僕たちが最終的に売りたい商品は、間違いなく本なんです」(撮影:安部俊太郎)

僕たちは雑貨やCDも扱っていますが、書籍はそれらをつなぐ「接着剤」という側面があります。雑貨だけだと商品が並んでいても通り過ぎてしまう。しかし、そこに音楽が流れていて、書籍を開くことで立ち止まる。書籍と雑貨、CDの3つで初めてコーナーが成立するんです。

そして、僕たちが最終的に売りたい商品は、間違いなく本なんです。ただ、今は雑貨感覚で門戸を広げて本を売っています。雑貨も本も等しく情報提供することによって、店舗を訪れてくれた人に手に取ってもらいやすいように工夫しているんです。

リアル店舗で本を売ることについて、僕たちが今脅威に感じているのは、やはりネット書店ですね。ネット書店では新品本と中古本を選べるのに、店舗では、在庫として持っている書籍を、価値があるうちに値段を安くしてでも売り切る、という選択肢がない。

もちろん、こうした業界の仕組みは変わっていかざるをえないと思いますが、そうした環境のなかでも、ネットにないリアルショップの魅力を伝えていく日本一の書店でありたいと社員全員が考えている。それがヴィレッジヴァンガードという会社なんです。


三橋正邦
1961年富山県生まれ。フリーランスとしてゲーム会社でのプログラミング及び作曲、シンクタンクでの報告書作成、専門学校講師、都議会議員秘書などを経てライター活動を始める。主な執筆協力に『eラーニング白書』(OHM社)、『完全保存版THE芸能スキャンダル』(徳間書店)など。

[制作協力]
夜間飛行
[写真]
撮影:鬼頭志帆、安部俊太郎、菅井淳子

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