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土居麻紀子

結婚せずに子どもを育てる、「非婚シングルマザー」という選択

2019/04/04(木) 08:27 配信

オリジナル

結婚して、子どもを育てて、幸せな家庭を築く。あるいは、子どもを授かったから、結婚を選ぶ。ただ相手と2人で暮らしたいから結婚する場合もある。しかし、結婚はしたくないが、子どもは育てたいと考える人もいる。「結婚せずに親になる」という選択をした「非婚」の親たちは、どのような思いで、自らが信じる“幸せな家庭”を築いたのか。2人の「非婚シングルマザー」に話を聞いた。(編集者・吉田けい/Yahoo!ニュース 特集編集部)

5歳の子どもと2人で首都圏に暮らす平松繭子さん(撮影:土居麻紀子)

「結婚したいと思ったことがない」

「妊娠していると分かった瞬間、うれしくてうれしくて胸が高鳴ったのを今でも鮮明に覚えています」

首都圏に暮らす平松繭子さん(26)は大学4年生のときに妊娠し、出産した。相手の男性と結婚はしておらず、美術・デザイン業界でマネジメント職に就きながら、5歳になる子どもを1人で育てている。

厚生労働省の2016年の調査によると、日本の母子世帯数は約123万2000世帯。同年までの30年間で約1.5倍に増加した。母子世帯になった理由は離婚が79.5%を占め、未婚の母が8.7%、死別が8.0%と続く。結婚する意思のない“非婚”を含む未婚の母の割合は、2011年に死別を超えた。

公園に出かけるときは、お気に入りのレジャーシートを持って(撮影:土居麻紀子)

平松さんも、そもそも「結婚」という選択肢は考えていなかった非婚シングルマザーの1人だ。

「結婚したいと思ったことがないんです。自分を性的対象として見ている人が同居する家は、私にとって安心できる環境ではなくて……。そもそも、恋愛感情も性欲もほとんどないのが思春期からの悩みでした。当時は、恋愛や結婚をしないと子どもを持つことができないと信じ込んでいたので、このままでは子どもは望めないと思って。だから、興味はないけれど、自分なりに恋愛も頑張ってみようとしていたんです」

それだけに、妊娠の喜びはひとしおだった。1人で子どもを産んで育てていく覚悟もできていた。

「経済的な余裕がない」と言う相手に、認知も養育費も求めることをしなかった。むしろ、相手がいたから授かることができた命だと思うと、感謝の気持ちしかない。もしも要望があるならば応えたいという思いがあった。「でも、彼は何も言わなくて。念書なども作っていません」

とはいえ、卒業を間近に控えた大学生が出産するには、信頼できる人からのサポートが必要だ。就職して、落ち着くまでの約1年間、平松さんの覚悟を支えたのは両親だった。

あどけないしぐさと利発な受け答えが印象的だった(撮影:土居麻紀子)

結婚せずに親になることは自ら覚悟をもって選択したが、それでも思いがけなく、自分が社会においてマイノリティーなのだと感じることがある。

妊娠中のころ、飲食店で友人と食事をしていると、「妊娠しているのに、こんな夜遅くに出歩いて、だんなは何も言わないのか」と見知らぬ初老の男性に問われた。そこで、夫がいないことを伝えると、「子どもがかわいそうだ」「両親がそろっているのは当たり前」「頭がおかしい」と言われた。

「ショックでした……。子どもができたら結婚するのが当たり前、非婚シングルマザーは身勝手だという偏見が少なからずあるように感じました」

「申し訳なくて、泣きながら手続きをした」

煩雑な手続きも懸念事項だ。例えば児童扶養手当の支給申請。児童扶養手当とは「父(父子家庭の場合は母)と生計を同じくしない児童を育成する」家庭に支給されるものであり、母または父に配偶者(事実婚を含む)がいる場合は支給されない、と定められている。ふたり親世帯に比べて平均収入の少ない、ひとり親世帯の命綱ともいえる。

申請の際には、多くの自治体で、所得や家族の変化を伝えるための現況届を出す必要がある。平松さんによれば、窓口では「異性との交際はないか」「定期的に自宅を訪問する異性はいないか」「妊娠はしていないか」といったプライバシーに踏み込む質問が投げ掛けかけられることもあるという。ひとり親家庭が児童扶養手当を受給するには、事実婚ではないということが厳しく求められるからだ。親密な関係にある異性が存在すると金銭的な援助を受けていると判断され、手当を受け取れないケースもある。

小枝を「繭子に」とプレゼント。お互いに名前で呼び合い、まるで親友のような関係だ(撮影:土居麻紀子)

平松さんも、姉とそのパートナーとルームシェアをしていたころ、生計を全く別にしていたにもかかわらず、未婚の異性(姉のパートナー)が同居しているという理由で手当を受けることができなかった。窓口で「お姉さま方が婚姻届を出してくだされば、支給できるんですが……」と言われた。

その後、姉カップルとの同居を解消してから再申請の手続きに行くと、「事実上の婚姻関係を解消したことの申立書」を書くことになった。

「その書類には“事実上の婚姻関係にあった夫の氏名”を書く欄があったんです。姉のパートナーとは事実上も何も婚姻関係にあったことはないし、この欄に彼の名前を書くことはできないと訴えましたが、書かなければ手当は支給できないと言われて……。全く無関係の姉のパートナーの名前を書くことが申し訳なくて、その場で彼に謝罪のメールを送り、泣きながら書きました」

枯れ葉や小枝、虫など、公園で見かけるあらゆるものに興味津々(撮影:土居麻紀子)

こうした行政の対応には疑問の声もある。「児童扶養手当の窓口に行くのは憂うつだ」と言うシングルマザーは決して少なくないと、NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長の赤石千衣子さんは言う。

「(東京都)国立市でシェアハウスに住んでいたひとり親が、同じ屋根の下に異性がいたために事実婚と認定され、支給停止となったことがありました。その後、2015年に新しい通達が(厚生労働省から)出て、個室スペースに施錠が可能か、別世帯であることが賃貸借契約書で確認できるか、光熱水費が案分されているかなどの条件をつけ、シェアハウスでも受給を認められるようになりました。改善が見られるとはいえ、こういった厳しい対応が窓口嫌いを生んでいると思います」

自治体に相談しにくくなり、非婚だけでなく多くのシングルマザーが孤立してしまう恐れがあるという。

一緒に過ごすとき、平松さんは子どもと同じ目線に立つ(撮影:土居麻紀子)

平松さんは保育園の運動会の帰り道、当時3歳だった子どもにこう聞かれたことがある。

「なんで、うちにはお父さんがいないんだっけ?」

両親がそろって応援に来ていた友だちの様子を見て、不思議に思ったのだろう。

「私が一緒にいたいと思うのは、あなただけなの。それに、うちの“お父さん”になってほしいと思う人もいないんだよね」と平松さんは答えた。

子どもが生まれたとき以来、相手には会ってはいない。しかし、誕生日や七五三など、何かあるごとに写真をメールで送るようにしている。将来、子どもが「DNA上の父親の人」に会いたいと言ったときに会えるよう、お互いに連絡は絶たないようにしたいと思っているからだ。そして、恋愛感情もなく、結婚もしなかったが、「彼のことを人として好きで、尊敬しているのは確か」なのだと平松さんは言う。

「子どもには本当の自由を手に入れてほしいと思っています。本当の自由とは、自分の意思で、自分が納得できるものを選ぶこと。たとえ対価を支払うことがあったとしても、なんだって選べるんだよ、と伝えたい。自分が納得できる生き方をしてほしいんです。家族は流動的な組織で、子どもも、いつかは大人になる。そのときには、1人の人間として、思いやりをもって、自由に生きていってほしいと願っています」

単身で里親になる

養育里親として4歳の子どもを育てている菅原亜紀さん(撮影:長野由里江)

菅原亜紀さん(43)は、栄養士や保育士の卵を育てる短期大学に助教として勤めながら、九州地方で現在4歳の子どもと暮らしている。

30代も後半に差しかかってきたころ、周りの同年代の女性たちが「早くしなくちゃ子どもが産めなくなる」と一斉に婚活を始めた。しかし、菅原さんには“子どもを産むこと”にこだわる気持ちが、全く理解できなかった。

「みんなと同じように思えない自分は、人間として欠陥があるのかな……と思ったこともありました。でも、『自分は自分』『人と違っても大丈夫』という気持ちもあって」

それは、育ってきた環境によるものかもしれない。実家である寺には、いろんな人がひっきりなしに出入りしていた。遊びに来た友だちから「どこまでが家族?」と聞かれるほど、血のつながりなど関係なく、近所の檀家や親戚の子ども、ホームステイ中の留学生が、家族同様に食卓を囲んでいた。

しかも、子どもが大好きな菅原さんが最初に選んだ職業は保育士。子どもたちと触れ合う生活のなかで、「この子たちと一緒にいるだけで十分」という思いもあった。

家庭に来た当初は何にも興味を示さない子どもだった(撮影:長野由里江)

「同時に、自分は一生、結婚しないだろうという自覚もありました」

その理由は、人生の大切な選択を、タイミングを逃さず、自分自身で選んでいきたいという気持ちが強かったからだ。結婚をすれば、例えば家の購入や子育てなど、家族にとって大切な選択は、夫婦2人で決めることになる。もしも意見が合わなければタイミングを逃したり、実行に移せなかったりする場合もあるだろう。

菅原さんにとって、その大切な選択の一つが里親だった。

「結婚せずに1人でいたいけれど、生きるためには社会とつながっておく必要があるし、貢献もしていきたい。そんなとき、保育士の仕事や、キャリアアップのために大学院で福祉などを学んだ経験を通して、事情があって生みの親と暮らせない子どもたちの存在が見えてきたんです」

2017年3月に厚生労働省が発表したデータによると、生みの親と暮らせない子どもは約4万5000人おり、その81.7%が施設で暮らしている。9割以上が里親などに委託されるオーストラリアや、7割以上のアメリカ、イギリス、香港などに比べると、家庭で暮らす「要保護児童」の数はかなり少ない。

“甘える”という行為を知ったのも、家庭に来て半年が経ってから(撮影:長野由里江)

「家庭を必要としている子がいるなら、うちに来たらいいんじゃないかなって」

菅原さんは里親になるための研修を重ねた。子どもとともに暮らせる環境かどうかを審査する家庭訪問を経て、養育里親として登録した。自治体によっては条件を満たせば、単身者でも里親になれる。菅原さんの満たすべき条件は、自分以外に子育てをサポートできる人物が近くにいることだった。

菅原さんは、実家から徒歩15分の場所に一軒家を購入した。両親も、姉や弟たちも、誰一人として反対しなかった。「30代半ばから『結婚しないの?』って聞かれなくなりましたね(笑)。里親やるって言ったときも『あ、そう。いいんじゃない』って」

お気に入りの絵本は、“ぼく”と“おかあさん”が登場する最後のページばかりを読んでほしいとせがむ(撮影:長野由里江)

そうして昨年、子どもが里子としてやってきた。当初は、さまざまな困難があった。

その一つが、大人をわざと困らせて、どこまで受け入れてくれるかを試す“試し行動”だ。施設などで乳児期に一対一の心のつながりを得られなかった里子は、試し行動を取りやすい傾向にあると言われている。

テレビや空気清浄機を転倒させて壊す。夜中にベッドから起き出し、床に倒れて泣くことを朝まで何度も繰り返す。その状態が半年ほど続き、過労と睡眠不足のあまり、菅原さんは突発性難聴になった。

「私との絆を確かめたい時期だったんだと思います。子どもが一生懸命に感情をぶつけてくる場は、その瞬間しかない。その瞬間に応えられないと意味がないんです。逃げてしまったら、子どもは『見捨てられた』と思ってしまうかもしれない。つらいのは今だけ、絶対に手を離しちゃいけない、と何度も自分に言い聞かせました」

すっきりと片付けられた玄関には、家族2人分の靴が並べられていた(撮影:長野由里江)

菅原さんは、子どもがまだ言葉をよく理解できない時期から、自分たち親子の関係を少しずつ伝えてきた。「あなたにはママが2人いるんだよ」「このおなかから生まれてきたんじゃないけど、あなたは大事な家族で、大好きだよ」と。

「子どもは秘密にされることに対して、とても敏感です。里子であることを秘密にすると、自分自身を“隠さなければいけない存在”だと否定的に思ってしまうかもしれません。そうならないためにも、幼いころから真実を伝えていくことはとても大切だと考えています」

菅原さんはほかにも、普段は施設で暮らしている子ども2人を夏休みなどの長期休みのときだけ一時的に預かっている。

「将来、あの子たちが望むなら、みんなで一緒に住もうと思っています。養育期間が過ぎても、ここにいてくれて構わない。家族としての関係は一生続くと思っています。私がシングルのままでいるのは、家庭を必要としている子どもたちに都合のいい親であるため、ともいえますね」

近所を散歩するときは、2人と2匹の家族みんなで出かける(撮影:長野由里江)

そんな菅原さんも、非婚であり里親であることから、役所や病院などの窓口で、もどかしい気持ちになることがあるという。

子どもの住所変更に行くと、里親制度に関わる手続きに慣れていないためか「お待ちください」と言われてしまう。予防接種を受けようと病院へ行くと、里子である子どもは健康保険証を持っていないため、受診券を提出すると、そこでも「お待ちください」となる。

「お待ちください、は聞き飽きました。まだまだ里親制度は認知されていないんだなぁって……。そもそも、ひとり親が里親になれることさえ知らない人も多いと感じています。

私は、自分自身のことをとにかく積極的に周囲へ伝えていますし、こういった取材も、どんどん受けていきたいです。そうすることで、もっと多くの人に、結婚しなくても里親というかたちで親になれることを知っていただけるといいなぁと思っています」

恋人や友人の子どもを授かる。里子として子どもを迎え入れる。今回取材をした2人以外にも、精子バンクを利用するケースなど、非婚シングルマザーとなる経緯はさまざまであり、それぞれの思いがある。

平松さんは、子どもを“自分が生きる理由”だと言った。菅原さんは、1人で子どもを育てるために安定した職業に就き、家を購入した。

子どもと共に歩む人生を選択した非婚シングルマザーたち。家族が本当に幸せかどうかは、彼女らと、それぞれの子どもたちの笑顔が証明しているのではないだろうか。


吉田けい(よしだ・けい)
1976年生まれ。出版社勤務を経て、現在フリーランスの編集者として雑誌や広告で記事を制作している。主なテーマは食、住まい、家族、LGBT。2018年12月に構成・編集を手がけた書籍『LGBTと家族のコトバ』(双葉社)を出版。自らの不妊治療と養子縁組の体験を綴ったブログ「うんでも、うまずとも。」を更新中。

[写真]
撮影:土居麻紀子、長野由里江

最終更新:4/10(水)12時05分


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