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波紋広げる韓国大統領補佐官の「中国による核の傘提供」発言

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
「中国による韓国への核の傘提供」発言をした文正仁韓国大統領統一外交安保特別補佐官(写真:ロイター/アフロ)

韓国の文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官の「中国による韓国への核の傘提供」発言が物議を醸している。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の外交ブレーンとして、文政権の外交政策に影響力を持つ人物の発言だけに、内外に大きな波紋を広げている。

韓国紙の朝鮮日報によると、文補佐官は12月4日、国立外交院の外交安保研究所が開催した国際会議で、「もし北朝鮮の非核化が行われていない状態で在韓米軍が撤退したら、中国が韓国に『核の傘』を提供し、その状態で北朝鮮との交渉をする案はどうだろうか」と述べた。

会場には中国側参加者もおり、司会を務めた文補佐官は、彼らにこう質問を投げかけたという。

●発言の真意はどこに

文補佐官の発言の真意はどこにあるのか。韓国は現在、在韓米軍の駐留経費増額に絡むアメリカとの厳しい交渉に直面し続けている。トランプ大統領が在韓米軍の完全撤退を示唆してきた中、文補佐官の発言はアメリカ政府への単なるブラフ(こけ脅し)か。あるいは、アメリカを強くけん制するど真ん中の直球発言か。もしくは、約5年半ぶりに公式訪韓をしている中国の王毅外相に対するリップサービスか。それとも、常日頃の本心がポロリと出たか。

韓国は日本同様、アメリカの「核の傘」に依存し、核兵器禁止条約にも署名・批准していない状況だ。中国による韓国への核の傘提供は、あまりにも唐突で現実離れしているように受け取れる。

日本国内からも厳しい反応が出ている。自民党の佐藤正久前外務副大臣はツイッターで「まさに離米反日、親中通北を信条の有力者が少なからず文政権の中枢にいる」などと早速、批判した。

●中国の役割増大を求める文補佐官

実は、文補佐官が中国への“期待”を述べたのは今回が初めてではない。今年9月にも日韓対立に関連し、「中国は日韓の紛争の仲裁者として、より積極的な役割を果たしてほしい」と述べた。アメリカが仲介の役割を果たせないので、中国の出番が到来しているとの趣旨だった。

また、文補佐官は昨年5月にも、アメリカの外交誌「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で「(北朝鮮との)平和協定が締結されれば、在韓米軍の駐留を正当化することは難しい」と主張し、和平実現後の駐留継続に疑念を示した。これに対し、韓国大統領府(青瓦台)は当時、「在韓米軍は韓国とアメリカの同盟の問題」とし、「平和協定の締結とは何の関係もない」と強調した。青瓦台は今回も、文補佐官の発言の火消しに追われるのかどうか。

延世大名誉特任教授も務め、ポリフェッサー(政治に関与する大学教授)と呼ばれる文補佐官の基本的な考えは、北朝鮮を「普通の国」として認め、南北関係を深めていくことにある。文政権自体も優先順位として、北朝鮮の非核化より南北関係改善を重要視している。

韓国による日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄問題で具現化されたように、文政権が米韓同盟と日米韓の安保協力体制を抜け出る「コレグジット」への懸念が、ワシントンでも東京でもソウルでもいまもあちこちでくすぶっている。文補佐官の発言は、日米による韓国との今後の防衛協力への懸念をさらに高めるだろう。

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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