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「安田純平さん解放」の報道を受けてーバッシングは控えて、身代金支払いの可能性は低い

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
戦争報道についてのトークイベントに登壇していた安田純平さん(中央・筆者撮影)

 シリアで反政府武装勢力に拘束されていた、ジャーナリストの安田純平さんが解放されたようだ。カタール政府が日本政府側に伝えたとのことなので、おそらく本当なのだろう。非常に喜ばしいことだ。筆者も安田さんとは、イラク戦争等の取材でお世話になったし、共通の友人の家で一緒に会食したりした縁もあり、安田さん解放の報は嬉しい限りである。安田さんの件について、筆者にもメディア関係者から問い合わせがいくつか来ているので、現在、語れる範囲で、自分なりの所感を述べたい。

〇安田さん解放をめぐる動き

 昨晩遅く、安田さんが解放されたらしい、という情報が入ってきたのは、筆者にとっても、意外なことであった。というのも、外務省等、日本の政府関係者が安田さん解放のため、いろいろと動いていたことは事実ではあるし、関係者の尽力には頭が下がる思いではあるものの、一方で安倍政権について安田さん解放にかなりネガティブな話も漏れ伝わってきたからだ。おそらく、どちらも事実なのであろう。外務省職員が中東各国の政府関係者と接触していた形跡があったが、一方で日本政府関係者が直接、安田さんを拘束している実行犯と交渉していた形跡は、少なくとも筆者が知る限りでは確認できなかった。

〇バッシングやメディアスクラムが心配

 安田さんが本当に解放されたとして、今、筆者が気がかりなのは、日本に帰ってきた時のバッシングやメディアスクラムだ。安田さんは精神的に非常にタフな人ではあるが、とは言え、約3年4カ月の拘束で著しく消耗したことは間違いない。今年に入って、安田さんが精神的にかなり追い詰められているという情報もあり、それを裏付けるような別の情報もあった。安田さんが帰国した際、様々な反応があるだろうが、筆者としては、安田さんの精神的・身体的な消耗に配慮してもらいたい。イラクでの日本人人質事件(2004年)の被害者の方々やそのご家族も帰国後のバッシングにより、精神的に追い詰められ、回復するには、数年を要した人もいる。忘れてはならないのは、批判されるべきは、安田さんを誘拐・拘束した実行犯グループであり、安田さんは事件の被害者である、ということだ。

 安田さんも2004年のイラク中部アブグレイブ近郊で現地武装勢力に一時拘束された後、帰国後に激しいバッシングを受けた。批判の材料とされたのは、「安田さんの解放のため身代金が支払われた」というデマ情報だった。だが、イラクでの拘束の件は、厳密に言えば「人質事件」ではない。現地武装勢力は日本側に具体的な要求をすることもなく、誤解で拘束したことを認め、安田さんに謝罪し解放した。日本政府は安田さん解放のための身代金を支払っていないし、イラクから帰国するまでの飛行機代やホテル代も安田さんは自身で精算している。

〇身代金支払いの可能性は極めて低い

 今回のシリアでの拘束事件でも、この間の水面下の動きから考えても、安田さん解放のため日本政府が身代金を支払った可能性は極めて低い。日本政府自体も身代金支払いを否定している。ネット上では、早くも身代金絡みで安田さんを批判するSNS投稿も見られるが、デマ情報を拡散しないよう、ネットユーザーの皆さんには自重していただきたい。

 

 何はともあれ、安田さんやご家族には、この間の疲れをゆっくり癒してもらいたい。御疲れ様でした。(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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