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24歳のコーチがキーマンに B1川崎が立ち上げるU18チームの体制と狙い

大島和人スポーツライター
山村亮介コーチ(左)と北卓也GM(筆者撮影)

24歳のコーチが立ち上げの中心に

男子バスケの育成環境は「戦国時代」に差し掛かろうとしている。バスケにもサッカーや野球のような小中学生年代のクラブチームは以前からあった。しかしメインストリームは部活だった。

Bリーグは2018年から、各クラブにU15チームの設置を義務づけた。2020年3月には中体連、Bリーグのユース、街クラブがカテゴリーの壁を超えて戦う「全国U15バスケットボール選手権」のプレ大会も開催される。

2021年からは「U18」の設置もB1ライセンスの条件に入る。川崎ブレイブサンダースは1年先んじて、2020年4月からU18チームを立ち上げようとしている。北卓也ゼネラルマネジャーとともにアカデミー組織の立ち上げ、指導に奮闘しているのが山村亮介コーチ。ドイツのケルン体育大学への留学経験も持つ、24歳の指導者だ。今回はその二人に話を聞いた。

U15に続いてU18もスタート

山村コーチは2019年春からこのクラブに関わっている。2018年度までU15の活動日数は「週1.5日(月6日)」というBリーグのライセンスが定める最低日数だった。2019年からは週4〜5回となり、スタッフの拡充が必要となっていた。そこで若き彼に白羽の矢が立った。

山村コーチはU18の立ち上げについて、こう説明する。

「今の中学3年生の行き場所がなくなってしまう。もしかしたら高校に行くかもしれないけれど、ユースで今までやってきたので、つなげる意味でU18も立ち上げようとなった」

川崎のU15は1学年10名程度で活動しているが、11月中旬の段階で進路についてはこのような状態だ。

「3年生は8人で、3人がU18 川崎ブレイブサンダースのセレクションを受けると決めています。2人はちょうど成績が出るとかで、進路をご家族で話し合っている。3人が高校進学で、ここへ行ってバスケをやりたいという明確な意志を持っています」(山村コーチ)

U18のセレクションは11月30日に予定されている。23日23時が締め切りだ。

U18 川崎ブレイブサンダース設立およびメンバーセレクション実施のお知らせ

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U12、U15の集合写真 (c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

ドイツ留学の経験も日本に還元

山村コーチは日本体育大学在学中からコーチとしての活動を行っていた。また英語、ドイツ語の面接などの学内選考を突破し、ドイツのケルン体育大に1年間の交換留学経験を持っている。彼は地元のU18チームでアシスタントコーチを経験したが、当時の経験をこう振り返る

「毎試合、ベンチで討論みたいになって、その統制を取るのがすごい難しかった。選手同士の中でもありますし、選手対コーチでもある」

プレー面でもやはり違いがある。

「バスケットの原理原則的なところは変わらなかったんですけれども、そこに至るまでの過程が違う。コンタクトの部分、ゴール下の激しさはすごい強かった。今のところはもう一歩いけたんじゃないかとか、そういう局面の弱さみたいなものは、日本に帰って改めて感じました」(山村)

「1学年8人」にこだわる理由

日本のバスケ界はBリーグ、学生バスケともにレギュラー5人が長くプレーする傾向がある。しかし激しいコンタクトを繰り返すためには、ベンチに下がって息を整える時間も必要だ。

山村コーチは述べる。

「ワンプレー、ワンプレーを本気でプレーするとなったときに、選手の体力的な面でどうしても限界がある。だから(ドイツは)本当にとっかえひっかえ出てくる」

先日のワールドカップでも日本バスケ全体の課題として皆が実感した部分だが、川崎のユースでも局面の強さを強調した指導が行われる。そのために活用されるのが積極的なタイムシェアだ。ただし選手の人数を増やせばいいというわけでもない。「8人」という1学年の人数には、このような理由がある。

「交代が3人いるので、上手くローテーションしながらできる。ただ10人だとどうしても一人一人に割く指導の労力、見る目が分散してしまう。なるべく少ないほうがいいけれども、1学年で試合ができるようなメンバー構成ということで、8人を考えています」(山村)

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ブレイブサンダースユースの練習風景 (c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

プロとつながる恵まれた体制

指導の専門性はプロクラブならでは強みだろう。東芝時代も含めてトップチームにも携わっていたコーチ、コンディションチームがユースの指導に関わっている。動画の撮影、編集をコーチが行い、選手と共有して指導に活かす手法も取り入れている。

育成年代は競技以外にも様々なものを吸収するべき時期だし、現実的に考えれば「バスケで大学に進む」こともかなりの高い壁だ。一方で高く具体的な目標は選手の可能性を引き出す。

北GMはこう述べる。

「バスケもそうなんですけれども、まずは人としてのところ。そういったところをU12からバスケットを通じて成長させたいという思いが根本にはあります。川崎ブレイブサンダースのトップチームでプレーする選手をひとりでも多く輩出できれば嬉しいですし、川崎だけでなく、他のBリーグチームに行っても通用する選手を育てたい。最終的にはやはり日本代表で活躍する選手を育てたい」

神奈川の全国予選は街クラブが優勝

Bリーグの各クラブはまずU15から育成組織の整備を行っていて、関東圏ではユースチーム同士で定期戦も行われている。一方で街クラブも熱心に活動を行っている。

U15選手権プレ大会の神奈川県予選は7月に終了した。神奈川の最終予選はクラブチーム、中体連から4チームずつ出してトーナメントを戦う予選形式だった。川崎はクラブ側のブロックで7クラブ中5位と4位以内に入れず、トーナメント進出を逃している。川崎は日本バスケを代表する名門、強豪だが、育成組織に関しては良くも悪くも伸びしろがある。

決勝で横浜ビー・コルセアーズU15に大勝したのは厚木Lustyというクラブチーム。ビーコルは15歳で日本代表入りした田中力(現IMGアカデミー)も所属した「名門ユース」だが、そこに勝つ街クラブがある。U15選手権にどんなチームが出てきて、どこが優勝するのかーー。想像すらできない戦国状況だ。

川崎はBリーグの枠で見れば「ビッグクラブ」だが、育成組織にかけられる金額はJ1のトップクラブに比べて何分の一、何十分の一というレベル。リソース不足という足元もシビアに直視しなければならない。

山村コーチはこの春、トップチームの佐藤賢次ヘッドコーチ(当時はアシスタントコーチ)とJリーグ川崎フロンターレの視察も行った。山村コーチはその感想を率直に述べる。

「各年代にゴールキーパーのコーチがいて、フィジカルトレーナーがいて、アスレチックトレーナーがいる。定食屋さんと連携して、練習が終わったら、選手はみんなそこでご飯を食べてから帰す。あとは各選手が通っている中学校の先生と、定期的に連絡を取り合って、学校生活はどうなのか、成績はどうなのかとか確認する。そんなところまでやっていると聞きました」

課題もあるが可能性は大

川崎の育成組織はJクラブのようなスカウト活動は行っておらず、もちろん寮の用意もない。練習環境も市内に建設構想がある新アリーナが実現すれば改善されそうだが、現状はトップチームが練習で使う小向体育館や、市内の公共施設を転々としている状態だ。

プロとつながっていて、高校在学中からでもトップの練習や試合に参加できることは傘下にあるチームのメリットだ。もちろん、その実現にはレベル的にまだ少し時間が必要だろう。

ただし立ち上がったばかりのBリーグのU18チームで、専門的な指導者から密度の濃い指導を受けられるメリットは大きい。街クラブも含めて選手に提示される選択肢が増えることも、率直に素晴らしい。

北GMは訴える。

「日本を代表するプレーヤーになりたい、トップチームに入りたい、スキルアップしたいーー。そういった目標を持った子に集まってほしいと思います。まずは川崎ブレイブサンダースでバスケットボールがやりたいという子が来てくれたらうれしいと思っています」

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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