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ハリルホジッチはなぜ森重真人を代表から外したのか。その代役は?

小宮良之スポーツライター・小説家
ワールドカップ予選、日本代表として戦う森重真人(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

世界的に見て、日本人センターバック(以下CB)は物足りなく映るのか?

CBはフィジカル的に、メンタル的に相手の攻撃を跳ね返し、守りきる強靱さと忍耐力が必要になる。高さの点も含め、日本人はそのインテンシティで劣る部分があるのだろう。フィリップ・トルシエ、ジーコが日本代表監督として3バックを選択したのは、「2人のセンターバックで守るには物足りない」と判断したからだ。

「悪くはないが、サイズが小さい」

欧州のスカウトはしばしば眉をひそめるが、Jリーグから海外に打って出る日本人CBが少ないのは、一つの必然なのだろう。

しかし、本当に単純な高さや強さが懸案なのだろうか?

日本代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチが、代表常連CBだった森重真人(FC東京)を外した理由は、その答えにもつながる。

マルディーニの守備者としての資質

守備者は攻撃者によって上達する。裏を掻く、自分の想像を超えるような攻撃者と対することで、守備者はその失敗も含めた積み重ねによって、成長を遂げる。むしろ、失敗を糧に一流となるのだ。

守備芸術の国イタリアが生んだ至高のディフェンダー、パオロ・マルディーニのルーツを取材していたときだった。父親のチェーザレに話を聞いた。

「パパ、心配することないよ。僕はただプレーを続ける。失敗だって受け入れる覚悟がある」

息子パオロは父に言ったという。

マルディーニは父がイタリア代表選手だったことから、十代の頃はそれを揶揄する声は絶えなかった。父がU―21代表監督でもあったことから、飛び級で選ばれたときには「親の七光り」と批判を浴びた。息子はそれでも粛々と「運命」を受け入れ、守備を極めていったという。

夏のバカンス、多くの若者たちがビーチで気楽に過ごしているときも、フィジカルメニューを怠ることはなかった。運命を受け入れる、とはそういうことなのだろう。ベストを尽くすことで、自分を裏切らない。謙虚に向き合い、自分を高める、克己心というのか。それによって、目の前のアタッカーに立ち塞がるだけでなく、世間の外圧にも、何より自分自身にも打ち克つことができた。

マルディーニは特別なプレーヤーだったが、自省するキャラクターは守備者としての資質と言えるだろう。

一流のCBはとにかく用心深い。ステップを踏み続け、相手を警戒する。どこが危険なのか、集中を切らさず、察知し、たとえ何が起きなくても準備をする。それを90分間続けられる。

そこで、森重の話になる。

招集外は、ハリルの親心か?

森重は高さ、強さ、速さ、うまさ、どれも高いレベルにある。技術的にも申し分ない。センターバックとしての能力スペックでは、Jリーグナンバー1といっても過言ではないだろう。

しかしながら、海外の一流センターバックと比べると、"茫洋"としている。

例えば、相手チームが前線に長いボールを蹴る予備動作で、しばしば突っ立ったまま。半身になって、ステップを踏んで、動きを読んで上回るべきところ、その動作に及ばない。なぜなら、Jリーグでは動きを読まなくても、対処できる力があるからだ。

ただし、高いレベルでは、相手はそのディテールをついてくる。ブラジルワールドカップで、森重がしばしば裏を取られることがあったのは、その"緩慢さ"が出てしまったからだろう。才能を授かったことで、それに満足している。そのせいで、弱点を克服できていない。例えば、彼は左のステップターンが鈍く、一時はそれを強制するトレーニングをしたが、また顔を出しつつある。能力が高いからこそ、自分を追い込むことができないのか。

「森重はもっと高いレベルのアタッカーを毎週のように相手にしていたら、成長を遂げられた」

そう説明する関係者は少なくない。たら、れば、だが、納得のいく推論ではある。

「(自分が若手だった頃の)Jリーグには、対戦がぞくぞくするような外国人選手たちがいた。浦和(レッズ)のエメルソンとか、すごいスピードのアタッカーで。あいつらと戦うことで、俺は成長できたと思っている」

日本代表CBとして日韓W杯でベスト16進出に貢献した松田直樹が、そう洩らしていたのを覚えている。

森重に代わって定位置確保が予想される昌子源(鹿島アントラーズ)は、昨年のクラブW杯を戦い、目覚ましい成長を見せた。試合を重ねるごとに逞しくなった。緊張感のある駆け引きの中で、精神も研ぎ澄まされた。

森重は、自分が打ちのめされるようなレベルでプレーするべきなのだろう。

例えば彼はキックも秀でているが、フィードに優れているわけではない。首を振りながら、長いボールが入れられる場所を探す姿が多く見られるのは、ロングパスを武器と自負しているからだろう。だが、本当に優れたCBは難しいフィードより、迅速にボールをボランチにつけ、攻撃を促す。自己顕示欲をそこで見せない。試合中に1、2本しかないフィードを極めるより、迅速にボランチにつけて5回チャンスを作る方が効率的だからだ。

皮肉なことに、この弊害も森重が能力的に優秀だから起きている。もし彼がスペイン代表セルヒオ・ラモスのように、どんな敵も圧倒できるフィジカルとメンタルがあって、リーガのタフなストライカーと毎試合、向き合っていたら――。それで押し切れたかもしれないが。

CBとしての森重は岐路にある。

あるいは今回の招集外は、ハリルホジッチが奮起を促そうとする親心なのかも知れない。

<派手な武器に頼るのではなく、ディテールを突き詰め、試合を読み、己に打ち克ち、勇敢に挑めるか>

そこにCBの眼目はある。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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