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スペインのクラブは本田圭佑に興味を示しているのか?現場が見せる難色。

小宮良之スポーツライター・小説家
ACミラン退団が決定的と言われる本田。(写真:アフロ)

「スペイン、レバンテが本田圭佑に獲得打診か?」

そんなニュースが日本で流れた。

きっかけは、レバンテのあるバレンシア州の地方スポーツ紙「Superdeporte」(スーペルデポルテ)がトップ記事として紹介したことにある。

「ACミランの本田は国際的に知名度の高い選手で、今シーズン限りで自由契約。来季は1部昇格が決定している2部レバンテ(5試合を残して首位で、週末のジローナ戦に2点差以上の勝利で優勝が濃厚)にとって、悪くない強化になる」

同紙はそう言って、移籍金なしで獲得できるメリットを強調している。クラブ強化関係者が、イタリアのマーケットでアタッカーを中心に選手を探しているのは事実。今シーズン、レギュラーCBとして活躍したスペイン人、ポスティガはセリエB(イタリア2部)から獲得した選手だ。

では、本田がレバンテに移籍する可能性はあるのだろうか?

クラブとしての本気度は低い?

スペイン、リーガエスパニョーラは世界最高峰のリーグだ。

過去4シーズンのチャンピオンズリーグ決勝、すべてでスペインのクラブが勝ち残っている。2度はスペイン勢の直接対決。ヨーロッパリーグでは過去3シーズン、セビージャが3連覇だ。

「リーガでプレーしている選手の"銘柄"は高く売れる」

そう言われるほど、欧州では突出したリーグとして認められる。プレミアリーグと比べられるが、プレミア勢は過去6年のCLで決勝のピッチには一度も立てず、今シーズンはベスト8に1チーム残っただけ。リーグを制したチェルシーは「スパニッシュ・チェルシー」と言われ、主力の半数がスペイン人だった。

逆説すれば、スペインのクラブは売り手市場で、世界中の選手がプレーを望んでいる。

セリエAで中位のミランでベンチに座っていた日本人に、はたしてレバンテは本気で興味を示したのだろうか?

まず、獲得の可能性がないわけではない。

「ザッケローニ監督が『本田は一般的な日本人っぽくはない』と表現」

「ポジションはMEDIAPUNTA(トップ下)」

「2015年にはバレンシアの獲得候補に入っていた」

Superdeporteは、その可能性を膨らませるような要素を様々に伝えている。二度のワールドカップに出場し、CSKAモスクワでチャンピオンズリーグの決勝トーナメントまで戦い、ACミランの10番を背負った選手を、もし移籍金なしで獲得できるなら――。

しかし現時点では、クラブとしての「本気」は見えてこない。

記事の中身は「本田の代理人に訊いたところ、レバンテやエスパニョールの獲得リストに名前が挙がっていることを肯定も否定もしていない」という遠回しな表現をしている。日本ではオファーが届いた!という表現になっているが、現状では、クラブからは何のオファーもない、とも受け取れる。

実際、Superdeporte以外のメディアはこの話題を大きく扱っていない。

MARCAやasなどの全国スポーツ紙は、静かにその報道を基に記述している程度。「Superdeporteのスクープ」とも取れるが、現時点で他のメディアは信憑性を感じていないのだろう。つまり、代理人からの売り込みはあって、それをリークしているだけ、という可能性が高い。ザッケローニの発言の引用やバレンシアの獲得候補の話、そしてポジションをMEDIAPUNTAとしているところなど、本田サイドからの情報である証左か(ミランでは右サイドを主戦場とし、トップ下は本田側のポジションのリクエストだろう)。

もちろん、売り込みやマスコミへの情報リークは、欧州や南米の選手移籍で頻繁に使われる交渉テクニックである。虚々実々の移籍市場で、瓢箪から駒ということも十分にある。創り出された事実や状況が一つの流れができることは日常茶飯事だ。

では、レバンテは本田を必要としているのか?

監督が匂わせる難色

レバンテは昇格を懸けて1シーズンを戦い、独走状態で首位を走っている。6シーズンに渡って守ってきた1部リーグから2部に降格した際、主力選手を引き留められたたことが功を奏したと言えるだろう。チーム予算は年間2600万ユーロ(約35億円)で2部トップ。裏を返せば、もし昇格に失敗したら大きな赤字を出し、底なし沼にはまっていた。リスクを冒した挑戦に、彼らは勝利したのだ。

「(来季に向けては)まだ話し合っていない。現状に満足せず、野心的に成長し続けることは必要だろう。しかし、すでにチームとしてのベースはできている」

実はファン・ムニス監督は、来季の補強について釘を刺している。来季はチーム予算が2倍以上の6000万ユーロ(約72億円)になる予定だが、現場は今のチームを成長させる方針を支持しているのだ。

「21人の契約選手がいて、補強に関しては急ぐべきではない。(移籍マーケットが閉まる8月末に近い)8月20日には好選手が自由契約で市場に出ているだろう。我々はドラスティックな補強は求めておらず、現時点でもチームは競争力があり、質も高いと考えている」

少なくとも、現場が本田を望んでいる空気はない。

さらに言えば 4-4-2のダブルボランチが基本で、トップ下を使うシステムでもないのである。

攻撃の中心としては、レバンテの下部組織育ちのFWロジェール・マルティが今シーズンは台頭。37節終了現在で、22得点とゴールランキングトップを走っている。同じくFWのハソンも下部組織育ちで10得点。中盤中央は、ムニス監督が昨季指揮した2部のアルコルコンから連れてきたナチョ・インサ、カンパーニャの二人が陣取る。他に本田と同じ左利きのアタッカーで、クラブ生え抜きのモラレスがいる。2部で最強を誇ったチームのベースはできているのだ。

そこにACミランの10番というネームバリューで入ろうとすれば――。現場の反応は推して知るべしだろう。

もっとも、本田が悪くない「商品」であることは間違いない。フロントとしてはマーケティング面での計算も立つ。本田サイドの売り込みに応じる形で、今後もレバンテだけではなく、様々なスペインのクラブが「興味を示す」という報道が流れるはずだ。

ちなみにSuperdeporteのネット調査では、「本田の獲得を望む、望まない」というアンケートで前者が7割を超えている。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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