Yahoo!ニュース

マドリーを震撼させた鹿島MF、柴崎はスペインで通用するのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
マドリー戦でロナウドを追尾する柴崎岳(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

12月18日、横浜。クラブワールドカップ決勝で、鹿島アントラーズは欧州王者レアル・マドリーを相手に互角以上の戦いを演じている。延長120分間で2-4と敗れはしたものの、その不屈さは感動的だった。

そして2得点を決めたMF柴崎岳はブロンズボールを獲得。その名前は一夜にして、世界中を駆け巡ることになった。

「柴崎はあと13日間で自由契約選手になる。ドイツからのオファーはあるそうだが、彼の夢はスペインでのプレーすること。夏にはラージョ・バジェカーノ、ヘタフェからオファーが届いたが、本人は1部リーグでのプレーを望んでいる」

スペイン大手スポーツ誌、マルカも大きく記事で取り上げている。

では、殊勲者である柴崎のスペインへの道は切り開かれるのか?

柴崎のポジション適性は?

まず、柴崎の適性ポジションはどこなのか?

クラブW杯では、攻撃的MF(主に左サイド)とボランチで併用されていたが、後者でプレーする時間が多い選手であることは間違いない。

(ボランチの)三列目で自由にボールを持ち、両足でパスを弾いて、するすると持ち上がるプレーを好む。技術力と活写力に優れるため、見えないパスコースを見つけられ、そこにボールを打ち込める。想像力も旺盛。敵が密集した二列目(トップ下)では強いプレッシャーを受けるため、一つ下がった位置(もしくはサイド)をスタートポジションにすることが多い。

しかしマドリー戦は、攻撃的MFとしてプレーした時間帯が秀逸だった。

柴崎の特性は「バックラインの前」で濃厚に出る。スペイン語でPASILLO INTERIOR(扉のある回廊)と呼ばれるゾーン。そこで前を向いてボールを持ったとき、鍵の開いたドアを探し当てられる。マドリー戦の2得点はどちらもそれだった。1点目はバックラインの空いたスペースに的確に入って、ボールを受け、左足でフィニッシュ。2点目もPASILLO INTERIORでプレスバックを受けながら、スキルの高いボールコントロールを見せ、扉を開けた。精度の高い左足シュートで、名手ケイロル・ナバスを破ったのだ。

一方で、ボランチとしては一発で相手を仕留めるようなパスを狙いすぎる。マドリー戦も後半にボランチに入ってからは、その傾向があった。一か八かを続けては、高いレベルでは必ずカウンターを食らう。また、身体的な強度が強い選手ではなく、相手を跳ね返す守備力に欠ける。なにより守備のポジションを取り忘れ、3列目(相手にとっての二列目)に易々と入られてしまうことがある。マドリーの3点目はポジションを留守にした状態だった。

2013年に出版した共著「日本サッカースカウティング127選手」でスペイン随一のスカウティング力を誇るミケル・エチャリが、こんな評価を与えている。

「柴崎はボールを運びながら相手のバランスを崩せる選手で、ボールを持ったときの落ち着きとアウトリダ(威信、権限)は特筆に値する。ボールを動かしながら、サイドバックとセンターバックの間に決定的なラストパスを送るなど、ゴール前でのビジョンと技量は舌を巻く。個人的には、ボランチよりも攻撃的MF、もしくはトップ下に特性を感じる。バイタルエリアで相手を混乱に陥れられる、非凡な才能を持っているからだ」

エチャリは約20年間、名門レアル・ソシエダで強化部長や育成部長を歴任。デ・ペドロ、エチェベリア、シャビ・アロンソなど数々の有力選手を発掘している。その慧眼はジョゼップ・グアルディオラやエメリら名将をも唸らせるほどだ。

「柴崎はボランチとして、後方からのプレーメイクもやってのける。しかし、残念ながらディフェンシブな才能の持ち主ではない。ボールを奪い取る技術は、ひいき目に見てもほどほど。そもそも、トップ下のオフェンシブな決断力と技術力は、誰もが持ち合わせるものではない」

エチャリはそう言って、柴崎のポジション適性を明確に示している。

実は日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督も、柴崎をトップ下として試している。定着しなかった理由は明らかだろう。トップ下としては、強いパーソナリティが見られなかった。トップ下の選手は、試合を左右する決定力、もしくは決定的なプレーをする必要がある。プレッシャーが厳しいポジションで踏ん張り、仕留めるプレーに取り組まないとならない(ボールを受けに下がってきてしまっては)。

しかしクラブW杯での柴崎は、トップ下としての強いパーソナリティが出ていた。敵ゴールに近づくにつれ、怖さが増幅。二列目でのプレーの質は高かった。アトレティコ・ナシオナル戦も、足が止まったバックラインをドリブルで突っ切っている。このときはボランチだったが、やはり二列目に入ったときに彼の持ち味は出る。

では、今の柴崎が世界最高峰スペインの1部リーグで活躍することはできるのか?

正直、その道はかなり険しい。

まず、ボランチとしてはリーガのレベルに達していないだろう。トップ下としては大いに可能性を感じさせる。左サイドハーフで、PASILLO INTERIORを攻め立てるプレーも評価されるだろう。しかし、プレーリズムの順応や言葉の壁は高い。2,3試合は悪くないだろうが、シーズンを戦いきる力はないだろう。

そこで2部でも、昇格の可能性のあるチームなら挑戦する価値は大いにある。例えば年内日程を終えたヘタフェは3位。半年、そうしたクラブでプレーしながら適応し、1部昇格も見込めるはずだが・・・。さもなければ、乾貴士のようにドイツ、ブンデスリーガでプレー経験を積んでからの方がベターだ。

リーガでの適応を考えた場合、鹿島では金崎夢生、昌子源により可能性を感じる。やはり、二人もいきなり1部でのプレーは厳しいが、世界との遭遇の中で確実に進化していた。スケールの大きさを感じさせる。

いずれにせよ、鹿島は世界に日本人選手の可能性を知らしめた。それは祝福するべき快挙である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事