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B1チームを撃破したB2奈良に意識改革をもたらし始めた元NBAコーチの人心掌握術

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンからバンビシャス奈良の指揮をとるトーマスHC(中央・筆者撮影)

【アーリーカップでB1チームを撃破したB2奈良】

9月14日からの3連休を利用して、Bリーグのシーズン開幕前の一大イベントともいえるトーナメント戦「アーリーカップ」が全国6都市で実施された。

同大会にはB1の18チームのみならずB2の18チームも参加しており、当然のごとくどの地区もB1チーム優位の試合が展開された。

そんな中2試合で、B2チームがB1チームを破る波乱が起こったのだ。特に関西では、B2のバンビシャス奈良がB1の滋賀レイクスターズ相手に102―80の圧勝劇を飾っている。

滋賀が主力選手を交えての練習時間が十分でなかったというハンディがあったとはいえ、B2チームがこれだけの大差をつけて勝利したのは、評価に値するだろう。

【今季から指揮をとる元NBAコーチ】

今シーズンから奈良のHCを任されているのが、クリストファー・トーマス氏、38歳だ。彼がBリーグで指揮をとるのは初めてのことだが、過去にはNBAのウォリアーズで2シーズンACを務めた他、カナダ、スロベニア、中国、マレーシアでコーチ経験を持つ人物だ。

そしてトーマスHCにとってBリーグで指揮をとることは、長年の夢だったようだ。

「自分は海外でコーチをするようになってから、ずっと日本に来ることを模索してきた。自分だけでなく、NBA選手以外の米国人選手は皆日本に来たいと思っている。

ウォリアーズを離れ、その後ジャズでスカウトをしていたのだが、とにかくコーチの仕事がしたかった。そこからエージェントがカナダでのコーチの仕事を探してくれ、そこから経歴を重ねていき、日本に来る機会を待っていた。

日本に来て2ヶ月だが、本当に住みやすいと感じている。日本のバスケットは素晴らしいし、選手たちも真摯に取り組んでくれる。またチームも全面的にサポートしてくれ、本当にこの機会を求めていた。自分は幸運だと思う」

【わずか2ヶ月で変化し始めた選手たちの意識】

まだトーマスHCが指揮をとってから2ヶ月しか経過していないが、今回の滋賀戦での勝利からも窺い知れるように、早くもチームにポジティブな風を吹き込んでいる。

滋賀戦勝利の後は、琉球ゴールデンキングスに66―91、大阪エヴェッサにも73―95で敗れてはいるものの、最後まで戦う姿勢を見せ続け、両試合とも第4クォーターではほぼ互角の戦いを演じている。

特に大阪とは8月31日に練習試合を行い48―83で敗れていたことを考えれば、わずか2週間余りで大きく改善しているのが理解できるだろう。

これはトーマスHCが目指している、選手たちの意識改革の成果に他ならない。

【一番大事なことは選手への信頼】

トーマスHCはこの2ヶ月間で全く別のチームのようになったと断言した上で、以下のようにその理由を説明している。

「これまでいろいろな場所でコーチしてきて気づいたことは、どの国の選手でも同じだということだ。

選手たちがコーチに対し、しっかりケアされ、常に選手たちのことを考えてくれ、選手が成長することを後押ししてくれると感じ取ることができたなら、彼らはコーチのために一生懸命やってくれるものだ」

コーチの言葉通り、彼は常に選手ファーストの姿勢で選手に接しようとしている。試合中も感情表現を表に出しながら、四六時中選手とのコミュニケーションを欠かすことはなかった。

試合中も常に選手たちに声をかけ続けるトーマスHC(筆者撮影)
試合中も常に選手たちに声をかけ続けるトーマスHC(筆者撮影)

【選手にも芽生えてきているコーチへの信頼感】

そんなコーチの思いは、確実に選手たちに届いている。キャプテンの本多純平選手が、選手たちの思いを代弁してくれた。

「方向性をはっきりしてくれるので、チームの雰囲気というのも全員が1つの方向を向いている状態ができています。

コミュニケーションのとり方がうまいですよね。選手のいいところを面と向かって言ってくれるので、そこは選手からすれば嬉しいじゃないですか。そういうところでコミュニケーションをとってくれるので、選手側もやりやすいんじゃないですかね。

(今シーズンに期待感を抱くのは)選手全員がそうだと思います」

【まずはB2での優勝争い】

これまで奈良は過去3シーズン、B2でも中地区4位、西地区6位、西地区4位――とすべて負け越しで一度も優勝争いをしたことがない。そんなチームを勝利チームに変えるのは簡単なことではない。それはトーマスHCも十分に理解している。

「今シーズンは今までと全く違ったことをしようとしている。昨シーズンは1試合あたり70点しか得点できなかった。今シーズンは違ったスタイル、違った方法でプレーしていきたいと考えている。

例えば昨シーズンは3点シュートの本数がリーグ最低だったが、今シーズンは積極的に狙っていきたい。

だが最も重要なことは、自分が選手たちを信じているということだ。彼らはいちいち自分の顔色を窺う必要はないんだ(自分から積極的にプレーしろという意味)。そしてそれは徐々に改善しつつある。

時間がかかることだが、チームにとって大きなことだ」

今シーズンの奈良は、何か期待を抱かせてくれる存在になりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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