諸国の固定電話と携帯電話の普及率推移をさぐる(新興国編)
国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)では定期的に主要国(ITU加盟国)の携帯電話やインターネットに関する統計資料をまとめ、各国の動向を推し量れるデータを公開している。今回はその中から「新興国における、固定電話と携帯電話の普及率の推移」を2017年の時点で抽出し(収録されている値は前年2016年分まで)、状況の精査を行う。
「新興国」との言葉には色々な定義、区分があり、さらに国数も多い。すべてを追いかけていては雑多に過ぎるので、今回はG20各国のうち目に留まった国、具体的にはロシア・インド・インドネシア・ブラジル・フィリピンにスポットライトを当てる。
なお今件の「固定電話普及率」は、世帯ベースではなく個人ベース。普通一世帯に固定電話を複数台契約する状況はあまり想定できないことから、100%到達は困難な値であることを留意しておかねばならない。
それでは最初にロシア。
元々の固定電話普及率は低め、そして2000年からしばらくは携帯電話の普及率が低迷しているのが印象的。そして固定電話の普及率はあまり変化せず、携帯電話が急激な伸びを示している。
そして2003年から2004年に渡って携帯電話の普及率は加速し、2005年以降は天井知らずの伸び率を見せている(もっとも2011年においては一度失速が見られる。これは同年からロシアにおける契約者数のカウント方法をSIMカード周りで変更したからに他ならない。同国の携帯電話事情がダイナミックに変わったわけではない)。
携帯電話は他人との音声における情報のやり取りができるだけに限らない。SMSでのメッセージの相互交換、そしてマルチメディアフォンやスマートフォンのようにインターネットアクセス機能がある携帯なら、インターネットへの窓口を携帯電話が有していることを考えれば、この普及率の増加がロシアの社会にもたらした影響の大きさが改めて確認できる。
続いてインド。
インドでは元々国土の広大さに加えて経済的な問題や地形の関係などから、電話系インフラの普及率は低いものだった。2000年当時の普及率は携帯で0.3%、固定でも3.1%でしかない。
それが固定電話は横ばいから漸減し、携帯は2005年あたりから急激に伸びを見せている。総務省のデータベース【「世界情報通信事情」のインドの項目】を見ると状況がある程度把握できるが、複数会社による競争の激化が、携帯電話普及率の向上に拍車をかけたと考えられる。
一方、2012年では携帯電話の普及率が大きなダウンを示している。これは人口が急増したからではなく、加入者数が急減したのが原因。具体的にはプリペイド式SIMカードのうち長期間利用が無く、新規入金もされていないものについて、回線を切断(契約破棄)の措置をとったため。収益率改善の動きの一環とされている。もっともその後再び増加を示し、87.0%に達している。
次はインドネシア。
インドネシアは多くの島々で構成されている国土の構成上、固定系インフラの普及には困難が伴う面がある。それでも固定電話の普及率は2010年にはピークとなる17.0%を計上するほどとなったが、その後は減退。他方、携帯電話の普及率上昇率は加速度的な動きを見せているのが分かる。技術革新や競争激化によるサービス料の値下げ、サービスそのものの向上など、裏付けする材料には事欠かない。ただし2014年以降は伸び率はやや鈍化。どうやら天井が見えてきた感がある。ところが2016年には大きく跳ねて、一段上に届く状況となった。2014年12月以降、大手各社がLTEサービスを開始していることや、国ベースで4G網の整備に力を入れているのが奏功したのだろう。
次はブラジル。南米諸国ではBRICsの中で唯一含まれる国であり、日本との関係も深い。
ブラジルは2000年時点ではロシアに近い固定電話普及率を示している。一方で携帯電話はすでに1割超え。その後の伸び方は他国と比べるとやや緩やかなようにも見えるが、2016年時点では118.9%に達している。固定電話はほぼ横ばいで、2割強を維持。他国と比べると減少する動きを見せなかったのが特徴的。これについて「世界情報通信事情」では、ケーブルテレビ事業者の躍進でシェアを拡大し、加入者数はむしろ漸増傾向にあると解説している。
ただし2015年以降は、携帯電話の普及率は大きく減退している。カウント方法が変わったとの説明も無く、詳細は不明。景況感の後退が影響しているのか、あるいは先行記事で言及している通りLETサービスの導入展開に伴い、契約数の整理が行われているのかもしれない。
最後にフィリピン。
伸び方のスタイルとしては、ブラジルやロシアよりは、インドネシアやインドに近い。固定電話の普及率は元々低く、時代を経てもさほど変化は無い。一方で携帯電話の普及率は上昇を継続中。同国の情報伝達のスピード、そしてそれに伴う社会構造へ確実に変化を与えているのは間違いない。
興味深いのは、他国のように2003年や2005年のような「節目」が無く、一様に上昇していること。インドネシア同様に島々で国が形成されていることもあり、携帯電話の必要性は昔から高かったものと考えられる。もっとも2013年の携帯電話の値は失速。これについて元資料でも「世界情報通信事情」でも特に解説は無く、詳細は不明。2016年も大きく落ちているが、こちらは「稼働している契約数の見積もり」と説明にあるので、低い見積もりを行ったか、実利用数のみをカウントするように変更した結果かもしれない。
携帯電話の普及率においては、グラフの形を見ると一部では緩やかさを見せつつあるものの、多くの国ではさらに上昇する気配が感じられる。また、数字の上では判断が出来ないが、SMSのみの携帯電話からスマートフォンに切り替え、インターネットに「はじめの一歩」を踏み出す人も確実に増加する。
この流れが各国にどのような変化をもたらすのか。少なくとも各国国内はもちろん、世界に向けた情報のやり取りの窓口が大きく開いたことは間違いない。ビジネス様式や各国の社会情勢にも小さからぬ、そして確実な影響を与えることだろう。
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