解説紛争当事者が交戦する期間が長引き、類似の事件が繰り返し発生しているの解説や指摘も繰り返しになりがちですが、イスラエルという政体なり社会なりの存在意義にもかかわる重大な展開です。これまで、イスラエルはアラブ側との紛争の過程で捕虜はもちろん、遺体や消息情報に至るまで、自らに所属する人員の身柄について大変な執着を示してきました。それが、今般の戦闘では捕虜が死んでもかまわない、遺体や消息情報もほとんど意に介さないかのように作戦を進めています。これは、イスラエルという政体・社会はそれに所属する人員を決して見捨てないという、従来の原則をぶち壊しにする行為であり、大局的には人類がイスラエルという共同体に属することに対する意欲ややりがいを大きく損ないます。世界中から「仲間」をかき集めることで成り立っている側面もあるイスラエルの存亡にかかわる禍根を残すでしょう。
コメンテータープロフィール
新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。
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