Inside2024.03.05

子どもの安全や安心を考える――Yahoo!ニュース「#こどもをまもる」の取り組み

提供:fujiwara/イメージマート

近年、車内置き去りや高所からの転落、性被害など、子どもに関する痛ましい事件や事故が後を絶ちません。子どもたちの安全を守るために私たちができることは何があるのだろうと、Yahoo!ニュースで続けてきたシリーズ企画があります。それが「#こどもをまもる」です。ユーザーの関心にもとづく特定の社会課題やトピックに焦点を当てた「ホットイシュー」という取り組みの一つで、どんなことを行ってきたのでしょうか。約1年間制作し続けて気づいたユーザーへの届け方などを、制作担当者に加え、「Yahoo!ニュース エキスパート」で「#こどもをまもる」への記事を執筆している小児科医・山中龍宏さんに聞きました。(取材・文/Yahoo!ニュース)

トラブルの未然防止に「#こどもをまもる」を発信

企画の発端を、制作全体をリードした杉岡佑子(以下、杉岡)に聞きました。

杉岡:2022年、幼稚園バスで園児が置き去りにされて熱中症で亡くなった事故やベランダからの幼児転落事故など、子どもに関する悲痛な出来事が続いたことがきっかけでした。こうしたニュースを受け、コンテンツを制作する複数のチームから「子どもの安全」をホットイシューとして取り組むべきでは、という声が上がるようになりました。チームを横断して一つのテーマを扱うことで、問題に対する啓発・社会的議論がより多くのユーザーに伝わるのではないかと思ったんですね。「#こどもをまもる」の記事をまとめて見られるように、2022年12月に特集ページ「子どもの安全」(現在は「子どもをめぐる課題」にタイトルが変わっています)も立ち上げました。

特集ページ「子どもをめぐる課題」ではさまざまなテーマを扱う

Yahoo!ニュース エキスパートの協力で特集ページを素早くリリース

子どもをめぐる事故は、いつ起きるかわかりません。日常のなかで大人や子どもがどう備えることができるかが大切ではないか。杉岡ら制作チームはこう考えたといいます。

杉岡:中身もさることながら、届ける上で重視したかったのはスピードです。ですから立ち上げ当時は、「Yahoo!ニュース エキスパート」に参加されている専門家・有識者のお力を借りています。「子どもの安全」というテーマで、小児科医や教育関係者、子どもに関する問題に深く関わっているオーサー(書き手)の方々に記事を執筆いただきました。当時は学校の冬休み前。この期間は、子どものSNS利用で普段よりも多くのトラブルが起きたり、家庭での虐待が報告されたりすることもあるといいます。子どもに起き得る危険に対して、周囲の大人はどうやったら気づけるのか、子どもの様子を丁寧に見るポイントなどを書いてもらいました。

加えて、わかりやすい図解制作にも注力しました。車内での置き去り、ベランダからの転落事故などを予防するために必要な情報を届けています。たとえば子どもは思わぬところに登ったり遊んだりするので、窓やベランダ、階段などで注意すべきポイントを紹介しています。

一目で注意したいことがわかるように図解にした

■転落事故に関する記事(一部)
子どものベランダ転落事故どう防ぐ 「高さ1.1メートル以上」戦後から変わらない法規制#こどもをまもる(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)
日本でも「こどもは飛べない!」幼児の転落死をなくすには #こどもをまもる(山中龍宏)

「不慮の事故」は子どもの死亡原因の上位をしめている

Yahoo!ニュース エキスパートのオーサーで小児科医の山中龍宏さんは(以下、山中)、NPO法人Safe Kids Japanを2014年に設立。長年子どもの傷害予防のために啓発活動を続け、「日本の子どもの1歳~19歳の死亡原因の上位は予防できる事故」といいます。

山中:人口動態統計(厚生労働省)では、「不慮の事故」による子どもの死亡数は減少傾向がみられますが、日常生活における事故の発生数はほとんど変わりません。これまで「保護者が注意していれば、乳幼児の事故は防げる」と考えられていましたが、親であっても子どもに24時間目を配ることは不可能です。つまり、人の努力だけでは事故を予防することはできない。「少し目を離しても、子どもにとって安全な製品や環境を作る」ことを優先しなければなりません。

ある製品や環境下で事故が起これば、必ず同じ事故が起こり続けます。その事実を何度でも報道することによって、新たな対策の必要性を社会に示すことができます。繰り返し起きている痛ましい事故は、指摘だけして終わりにするのではなく、事故の発生状況を詳しく調べて、該当する製品や環境を変える必要があります。

出典:厚生労働省「令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況


痛ましいといわれる事故が繰り返し起きている。「痛ましい」と指摘して終わりにするのではなく、具体的な予防方法を示すこと――山中さんは、大人が子どもと一緒に考えて取り組むことの意義を説きます。

山中:小学生以上の子どもには、周囲を観察して「危ないこと」に気づいてほしいですね。学校や家庭、地域の環境や身の回りにある製品のどこがどうなったときに、自分にとって危険なものになり得るのかと。そのためには、大人の働きかけが欠かせません。なかでも学校教育は大切です。

ある中学校の行ったアンケート調査で「学校内でのケガを減らすために、あなたができることはどのようなことだと思いますか?」というものがありました。多くの中学生から返ってきた回答が「気をつける」「よく注意する」といったものでしたが、事故を予防するにはこれでは足りません。より具体的かつ科学的なアプローチで、それが有効だという考え方を子どもたちに伝えなければなりません。

テーマを広げ、子どもをめぐる課題へ

1年以上続いてきた「#こどもをまもる」という取り組みで注力したのは、傷害予防の啓発だけではないといいます。杉岡に改めて聞きました。

杉岡:新学期を迎える春や夏休み前には、通学路の交通安全や防犯に関するものや水難事故を未然に防ぐための記事を出しました。ただ、企画を進めるうちに「子どもの安全を守るためには、これだけで十分なのだろうか」という声が上がってきたんです。つまり「#こどもをまもる」が扱うべきテーマは他にもあるではないかと。たとえば就労家庭で子どもが保育園から小学校に入学する際に、子育てと仕事の両立に悩む「小1の壁」をはじめ「いじめ」や「性被害」などです。保護者や子ども本人にも届けようとテーマを広げて、2023年5月には特集ページのタイトルも「子どもの安全」から「子どもをめぐる課題」に変えています。

■交通安全や防犯、水の事故対策の記事
歩行中の子どもの交通事故低減のために:大人の私が“今”できること。#こどもをまもる(大谷亮)
「走って逃げる」「叫ぶ」は子どもには無理?「襲われたらこうする」を考える困った習性 #こどもをまもる(小宮信夫)
水の事故防止に「目を離さない」では不十分――マンガでわかる水辺のヒヤリ体験 #こどもをまもる(Yahoo!ニュース オリジナル 特集)

子どもにも届くように、性の問題をイラストや図解で解説

現在、子どもの性被害に関するニュースがクローズアップされるようになりました。「子どもをめぐる課題」でも反響を呼んだ記事があります。それが「チャイルドグルーミング(性的手なずけ)」に関するものです。企画を担当した安田はつね(以下、安田)はこう話します。

安田:2023年は子どもに対する性加害のニュースが多く取り上げられました。そのなかで被害側が加害側を擁護する言動があって、被害に遭っているのになぜ擁護するのだろうと違和感を覚えました。大人からの性加害に遭う子どもたちがいるけれども幼い子どもたちは、自分の遭っている状況が「わいせつ行為」だとわからないこともあり得るのではないかと。この年の7月には法改正で、性的同意の年齢が13歳から16歳に引き上げになりました。子どもの性被害が多いという夏休みに、記事は親などの大人が読むことを想定する一方、子どもにも届くことも考えました。

やさしい言葉に潜む「魔の手」 性的手なずけ、どう防ぐ #こどもをまもる
子どもにもわかるようにビジュアルを用いて解説(提供:Yahoo!ニュース オリジナル)

ユーザーの声を反映して「プライベートゾーン」をイラストに

安田:記事を作る際、最初に取り組んだのはユーザーからコメントを募ることです。コメント募集の記事(【みんなで考えよう】大人が子どもをわいせつ目的で手なずける行為、気をつけていることはありますか?)を制作し、質問の中身は「チャイルドグルーミング(性的手なずけ)」を知っていたか? ご自身の子ども、または周囲にいる子どもが被害に遭わないように気をつけていることは? 子どもへの被害を防ぐために効果のあった工夫や、危険を回避できた経験などがあれば教えてほしいというものでした。

センシティブな話題ですし、何度も推敲をするなど、質問文言には注意をしました。おかげさまで、たくさんの方からさまざまなコメントがありました。コメントに目を通して感じたのは「誰にでも起こり得る可能性がある性犯罪である」ということでした。

記事は子どもにもわかるように親しみやすいイラストを用いて、専門家による解説や対策、万が一被害に遭ってしまった時の相談先や対処について載せました。ユーザーのコメントのなかには、ケガの手当て以外の目的では子どもの「プライベートゾーン」(他人に見せたり触らせたりしない自分だけの体の大切な場所)を触らないことを徹底している方の声があり、体のプライベートゾーンについて詳しく解説しました。


プライベートゾーンはどこかをイラストで解説している(提供:Yahoo!ニュース オリジナル)

安田:ユーザーの声から極めて身近な問題であることを実感しましたが、子どもが自分の身を守るにはどうしたらよいのか。自分で考えて判断できるようになってもらいたい、記事にはそんな願いも込めています。

ホットイシュー「#こどもをまもる」は、これからも続きます。子どもにフォーカスすることで見えてくる社会課題は数多くあり、チャイルドグルーミングのようになかなか明るみに出ない話題もあります。ただし、これから被害に遭う人が一人でも少なくなるように。また、大人が身の回りにいる子どもに気を配れるようになるために――Yahoo!ニュースはこれからも子どもをめぐる課題を追い続けていきます。

お問い合わせ先

このブログに関するお問い合わせについてはこちらへお願いいたします。