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林建次

埼玉で暮らす在日クルド人 「ワラビスタン」のいま

2016/01/19(火) 10:42 配信

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JR京浜東北線で都心から約30分、埼玉県蕨(わらび)市。東京のベッドタウンであるこの地域は「ワラビスタン」とも呼ばれている。

蕨市とその周辺地域には、在日クルド人のおよそ半数の約1000人が暮らす。「クルド人の土地」を意味する「クルディスタン」と「蕨」をもじって「ワラビスタン」。彼らの多くが日本で「難民」の認定を求めているが、ほとんどが認められない。全世界に約3000万人いるとされるクルド人。蕨の地に生きるクルド人を取材した。(Yahoo!ニュース編集部)

蕨駅に隣接する繁華街。ここでは毎週日曜日、夕方4時を過ぎるとオレンジ色のジャンパーを羽織ったクルド人たちがパトロールをしている光景を目にする。

「通行人の邪魔にならないようにね」「ゴミを捨てないように」路上にたむろするクルド人たちに呼びかけていく。毎週1時間のパトロールはクルド人たちが、地域社会に受け入れてもらうためにボランティアで始めた活動だ。今日のパトロールに参加しているチョウラクさん(35)は日本に来て14年だ。

一番右がチョウラクさん(撮影:井上さゆり)

チョウラクさんは現在、家賃5万5千円、2DKのアパートに妻と3歳の娘の3人で暮らしている。それまではトルコで羊飼いとして生計を立てていたが、クルド人に対する職業的・精神的な差別に耐え切れず、先に来日していた兄を頼り、観光ビザでやってきた。日本に逃れてきたクルド人の9割以上がトルコ国籍と言われている。

現在、クルド人を取り巻く国際情勢は厳しい。もともとトルコ、イラン、イラク、シリアなどの中東の山岳地帯に居住していたが、第一次世界大戦の戦勝国により、居住地域が国境で分断された。その結果、散り散りになったクルド人たちは、「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるようになった。各国の政治状況により、人種差別にあったり、経済的に不安定な立場に置かれたりしている。そうした境遇から脱出するため、他国に逃れるクルド人も多い。

チョウラクさんは14年前から日本で難民申請をしているが認められていない。現在は、身柄を拘束されない「仮放免」と呼ばれる特殊な状態にある。仮放免とは正規の在留資格を持たない強制送還の対象者の中でも人道上の理由などで身柄の拘束を解かれた状態のこと。あくまで「一定の事情のもとに入国管理センターへの収容を免除されている」にすぎない。チョウラクさんもかつては9カ月間、入管で収監された。現在は、2カ月に1回、入国管理センターで更新の手続きを受けて仮放免の処分を延長している。

また、正式に受け入れが決まった難民とは違い、仮放免状態では健康保険などの社会保証もなく、就労も禁じられている。さらに入管に届け出た住所のある都道府県から出ることも原則として認められておらず、移動の必要が生じた場合は、入管局から「一時旅行許可」をもらわなければならない。違反すれば仮放免が取り消される可能性もある。そうなれば、最悪、強制送還されてしまう。

法的には働くことができないチョウラクさんだが、家賃や日々の生活費を稼がなければならない。そのため、クルド人コミュニティのLINEグループで紹介される建設・土木関係の仕事をこなして糊口をしのいでいる。日給は1万円ほどで、多い月は20万円ほど稼ぐというが、立場は不安定な状況にある。

国際的な重要課題

クルド人に限らず、難民問題は国際的な重要課題になっている。ドイツでは2015年だけで96万人(11月末時点)もの難民受け入れを決めたが、日本では2014年の間に11人。積極的に難民を受け入れている主要国と比較すると、日本の難民認定数は突出して少ない。

日本の場合は、難民の要件である「迫害」の範囲が狭いという。東洋大学社会学部社会福祉学科の荻野剛史准教授は、政府が難民認定に慎重な理由として「外国への門戸を広げることで、治安の悪化や人種対立が生じるから、受け入れ数を増やしたくないという見解にあるのではないか」と指摘する。

日本語を勉強する在日クルド人(撮影:林建次)

法務省は、難民と認定しなかった具体的な事例を発表している。「対立する政党の関係者から危害を受けるおそれがある」との申請は、迫害主体が本国政府ではなく条約難民の要件にはあたらないとされた。ほかにも「相続や借金問題など金銭トラブル」「スポーツ大会で勝った相手から命を狙われている」などが不認定の事例として挙げられている。

長年、難民支援活動を続けてきた「難民を助ける会」の柳瀬房子会長によると、難民申請者のうち難民条約の定義に当てはまらない人は多いという。「申請書に書いてある内容をきちんと答えられない場合も多く、母国でブローカーが書いているというケースもある」と話す。

現状では、日本で難民として認定されるにはハードルが高い。法務省入国管理局は、「最近では、難民条約における難民の定義から漏れるケースもある。今後有識者の意見などを参考に難民に対する解釈を変えていくかもしれない」と見通しを語る。

(撮影:井上さゆり)

前出の荻野准教授は、難民受け入れの方策の一つとして、2014年の欧州内のデータで総人口比の難民受け入れ数が最も多いスウェーデンのケースを挙げる。同国では難民申請者に対して、申請をした時点で国が最低限の生活費や住居の援助を行っている。生活最低限の保証を行うことで、治安は悪化せず、国民の受け入れに対する不安も拭えるのではないか、という発想だ。

日本クルド文化協会の事務局長は「難民申請を受けられない場合も、就業ビザや特別在留許可を出すなど、難民判定の基準そのものは変えるのは難しくても、実態に即した対応をしてほしい」と訴える。

(撮影:林建次)

チョウラクさんは、静脈瑠という持病を抱えており、長時間立っていることができない。医者は手術を勧めるが、その費用が工面できない。3歳の長女の教育問題も大きな悩みだ。

「僕は運転もできる、日本語もできる。もしちゃんと雇ってもらえたらみんなの役に立つことができる。なのに何で働くことさえ許されないのだろう」と、胸の内を吐露した。

(撮影:井上さゆり)

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