AFP-Services/ Sébastien Millard

欧州と日本の「働くママ」 それぞれの現実

2016/12/30(金) 11:46 配信

政府が「女性が輝く社会」を成長戦略の柱として掲げる一方で、日本の働く母親たちが直面する問題は数多い。欧州に目を向けてみると、共働きが8割を占めるスウェーデンでは、早くから女性の社会進出を支援する制度が推進され、男女平等意識が根付いている。他方、欧州の中では「男性は仕事、女性は家庭」という役割分業意識が強いといわれるドイツでも、在宅勤務制度やフレックスタイム制を導入し、政策面でも男性の育児休業取得を勧めるなどして、ここ10年で少しずつ女性が働きやすい環境に変わってきているという。それぞれの現実を追った。(AFPBB News編集部/Yahoo!ニュース編集部)

【動画】スウェーデン、ドイツ、日本の「働くママ」に尋ねた(約5分)

「共働きでも困難を感じない」スウェーデン

「多くのスウェーデン女性は仕事をしたいと願い、働いています。私の周りでも、仕事を辞め、家庭だけを選ぶという人はまずいません」と答えるのは、スウェーデン・ストックホルムで2人の子どもを育てるカロリナ・ダーホフさん(42)。

「子育てが大変しやすい国です。共働きの家庭をサポートできる体制が整っています」

子どもとパソコンに向かうカロリナ・ダーホフさん。(AFP-Services/ Daniel Broden)

AFP通信によると、同国では約80%の子どもが 、共働きの親を持つ(2013年の統計)。スウェーデンでは、子どもが1歳になったら低額で保育所に預けることができるよう、政府が保証している。

また、子どもの送り迎えなどに合わせて働く時間を変えたり、在宅で仕事ができたりなど雇用主の理解もあるという。実際彼女の同僚もほとんどが男女ともに家庭持ちだ。

夫のサポートも欠かせない。ダーホフ家は、カロリナさんが空気清浄機メーカーのマーケティング担当管理職、夫のマークさん(42)が営業部長という、共働きの家庭。しかし「家庭と仕事の両立に、何ら困難を感じたことはありません」とカロリナさん。 7歳の息子と4歳の娘がおり、家事・育児は平等に分担する。子どもの送り迎えはそれぞれのスケジュールに合わせ、食事の用意は主にマークさんが担当する。

家族の時間を楽しむダーホフ一家。(AFP-Services/ Daniel Broden)

出産後、カロリナさんは1年間の育児休業を取ったが、マークさんも1年間にわたって週1日のペースで育休を取得したという。スウェーデンの父親の育休取得率は高く、「エコノミスト」によれば、約90%が育休を取得している。これは日本の2.65%(厚生労働省「平成 27 年度雇用均等基本調査」より)とはかけ離れた数字だ。

スウェーデンでは、母親が取得していた育休を、1974年に世界で初めて両親が取得できるように変更。導入当初の父親の取得率は低かったが、1995年以降「父親の月(Daddy Months)」制度を導入し、男性の育児休暇取得を推進してきた。

この制度は、両親が取得できる16ヶ月の育休のうち、父親だけが取得できる育休日数を設けるもので、現在は3ヶ月分の育休は父親のみが取得でき、父親が取得しなければ喪失してしまう。

子どもと遊ぶマーク・ダーホフさん。(AFP-Services/ Daniel Broden)

労働環境に詳しい、法政大学キャリアデザイン学部教授の武石恵美子氏によると、スウェーデンは、強固な財政基盤をもとに、保育や育児休暇制度などの両立支援を充実させ、女性の活躍を進めてきたという。

スウェーデンでは1970年代初めから女性の社会進出が進み、政府が長年働く女性を支援するための家族政策を推し進めてきた。実際、経済協力開発機構(OECD)が公表した加盟国34カ国の雇用情勢に関する報告書「雇用アウトルック2015」によると、日本の25〜54歳の女性の就業率が71.8%で加盟国34カ国中24位であったのに対し、スウェーデンの女性の就業率は82.8%と最も高い 。

スウェーデン社会はもともと、世俗主義、個人主義の価値観が根強く、女性が自立した個人として生きていくことが肯定的に受け止められてきた。

「『男性が仕事、女性が家庭』という意識は日本で意識調査をすると、肯定する割合が高い。これは男性だけではなく女性でも高い。日本だと男性も女性も半分が賛成という傾向がある。社会の中に性別役割分業をよしとする意識がある。一方、スウェーデンだと、8、9割と圧倒的多数が反対なんです」

カロリナさんは、女性にとって「子育て」と「仕事」の両方が大切なのだと語る。「子どもは私にとって全てです。子どもたちのいない人生は考えられません。仕事から帰ってきて、子どもたちと過ごす時が一番大切な時間です。でも一方で、社会の一員として仕事を通して成長し続け、他の大人と過ごす時間も大事なのです」

スウェーデン・ストックホルムのダーホフ一家。(AFP-Services/ Daniel Broden)

「近年、仕事と子育てを両立しやすい環境に変化」ドイツ

女性の社会進出については、他の先進国の中でも常に議論となってきた。実際、男女の収入差をみると、国連ウィメン(UN Women)によれば、いまだ世界の女性の収入の平均は、男性の収入の約60〜75%だ。男性が仕事、女性が家庭という性別役割分業意識が強い国は依然多い。

ドイツは欧州連盟加盟28カ国の中でも、比較的男女格差が大きい国といわれている。ドイツの調査会社によると、同国の2014年の女性管理職の割合は29%と欧州平均33%を下回っており、OECDの調査によると女性が家事に費やす時間は男性よりも1日平均2時間多い。

欧州議会の報告によれば、ドイツでは1960年代終わりに女性の自己決定権を求める社会運動が広がったが、西ドイツで初めて女性が夫の許可なしでの労働が認められたのは1977年。1990年の東西ドイツ統一の際にも、ほとんどの女性がフルタイムで働いていた東ドイツと、男性が主な稼ぎ手とされていた西ドイツとの統合に困難があり、今現在も東西間での違いが残る。

また、連邦政府では、男女平等政策があまり推進されてこなかった経緯や、議会、企業においても意思決定のできる地位にある女性が過小評価されてきたという歴史的背景がある。

ベルリンの自宅でパソコンに向かうフランジスカ・ナギーさん。(AFP-Services/ Sébastien Millard)

ベルリンの教育関連財団で働くフランジスカ・ナギーさん(35)には3歳の娘がいるが、子育てと仕事の両立に困難を感じることも多いという。

「難しいのは、仕事にも子育てにも100%を要求されること。働くママに対する期待が高すぎる」とフランジスカさんは言う。義理の母親が側にいて、娘の面倒を見てくれてはいるが、それでも息をつく暇もないくらい、毎日朝から晩まで子育てと仕事のことを考えているという。

ベルリンでチャイルドシート装備の自転車を押すフランジスカ・ナギーさん。(AFP-Services/ Sébastien Millard)

会社も比較的子育てに理解はあると感じてはいるものの、子どもを保育所から迎えに行くため早く帰る日が続くと、同僚から嫌味を言われることもある。「就労システムがもう少し柔軟になればと願っている」とも話す。フランジスカさんは正社員として働いているが、彼女の会社ではまだ時短勤務が認められていないため、子育てとの両立が厳しいのだという。

一方で、フランジスカさんは過去と比べたら「働くことを望む母親へのサポートは増えてきた」と感じてはいる。ドイツでは、2005年にアンゲラ・メルケル氏が首相に就任した頃から、働く女性に関する政策的議論が活発に行われるようになり、保育施設の増設や父親の育休取得を奨励する施策など、出生率の引き上げを目的に新政策が導入されてきた。

子ども部屋を片付けるフランジスカ・ナギーさん。(AFP-Services)

武石氏はドイツの状況について、こう語る。

「ドイツは少子化も進んでいるし、女性の労働力率も高い方ではなかった。しかし、ここ約10年間で、女性が働く状況が出てきている。もともとドイツは労働時間が短い国なのでベースは違うが、在宅勤務やフレックスタイムが有効に機能して、女性が仕事と家庭の両立をしやすい環境に変化してきた。制度を見直すことで、男性の育児休業取得も増えてきて、だんだん女性が働き、男性が育児をする社会に変わってきている」

「長時間労働が活躍を阻む」日本

日本は、他のOECD加盟国と比べて、女性の社会進出が進んでいるとは言えない。経済参加、教育、健康、政治参加の4つの項目に関して男女の格差を指数化した「ジェンダーギャップ指数」においても、2016年、日本の順位は144カ国中111位。女性の就業率を年齢ごとの推移で表すグラフは、出産・育児を機に著しく減少するM字カーブを描く。これは西欧諸国では1970年代に見られた現象で、今日はほとんど見られなくなり、台形型となっているものだ。

ただ、日本の育児制度は、海外と比較して劣るわけではないと、武石氏は指摘する。「1年間の育児休業、3歳までの短時間勤務は法律で義務付けられている。海外と比較すると、平均よりはよい水準」。日本の場合、大きな問題としてあるのは、社会で性別役割分業意識が高いことや、日本社会の「働き方」自体だと武石氏は言う。

東京で開催されたイベントで撮影された乳幼児。(AFPBB News/Hiromi Tanoue)

「結婚しても仕事を続けるからには、男性のようにバリバリと時間の制限なく働ける人ではないと使えないという会社の体制があった」と当時ホテル業で働いていた棟方綾子さん(35)は振り返る。たとえ出産、育児を終えて戻ってきても、同じ仕事ができる保証はなく、出産を機に退社する人がほとんどだったという。

日本の労働時間は1980年代以降、労働基準法の改正を受け、減少してきた。しかし、OECDのデータによれば、2014年時点の平均年間総実労働時間は、日本は1729時間と、フランスの1473時間やドイツの1371時間などに比べると、やはり労働時間が多い国といえる。

「日本の男性の働き方は長時間労働で、海外に比べると働く時間帯や場所にフレキシビリティーがない。欧米が個人単位で仕事をするのに対し、日本はチームで仕事をする。自分の中で仕事を完結できないため、残業が増え、育児のために早く帰ったり、休みを取ったりすることも難しい」と武石氏は指摘する。

東京で開催されたイベントに参加する母子。(AFPBB News/Hiromi Tanoue)

長時間労働を前提に人材を雇用することは、能力の高い人材を生かせていないことでもあると、武石氏は言う。「日本では、緊急時の対応や、夕方の会議に出られないことなどを考慮し、育児中の女性に一律的に責任の少ない仕事を与えてしまう場合が多い。しかし海外の場合は、能力の高い人に簡単な仕事をさせることは人的資源の無駄遣いだと考える。なので、組織が求めることと本人がやりたい仕事を、会社側は積極的にすり合わせていく」

「中核層が日本人男性」であった日本社会に必要とされるのは、「ダイバーシティー(多様性)」だと武石氏は訴える。人口が減少しつつある今日、「育児・介護などで制約がある人もパフォーマンスをあげられる人事管理や人事育成に転換していく必要がある」からだ。

東京で開催されたイベントに出席する親子ら。(AFPBB News/Hiromi Tanoue)

多様な人材の雇用の拡大は、企業の価値創造やイノベーションにつながる側面もある。「グローバル化の影響を受け、マーケットが変わるなかで、多様な人材のアイデアや意見が必要とされる」時代だ。

「働くママ」が家庭でも職場でも、それぞれの能力を活かすことができる社会へと、日本はシフトしていくことできるだろうか。

【動画】(約5分)


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[映像監修・テキスト]田之上裕美
[取材ディレクション]ジュリア・ザッペイ
[プロダクションマネジャー]河津レナ
[海外取材] AFP-Services

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