日本を訪れる外国人が増える中、「タトゥー」があることで外国人観光客が入浴を断られる問題が生じている。温泉は観光立国を目指す日本にとって重要な観光資源。条件付きで入浴を認める動きもある。タトゥーをタブー視してきた日本で、海外文化としてのタトゥーにどう向き合うべきか。
(Yahoo!ニュース編集部/AFPBB News編集部)
「日本人はタトゥーが嫌いなのよ」
「温泉に入って10分くらい経つと、年配の女性が歩み寄ってきて、『日本人はタトゥーが嫌いなのよ』と言われました」
ポーランドから日本に来て3年が経つスタニスワヴァ・ホレヴァさん(25)はこう語る。日本に来て数カ月経ったころ、埼玉県秩父に日本人の友人と向かい、初めての温泉を楽しみにしていた矢先だった。
18歳で初めてタトゥーを入れた。今は、背中、肩、太ももにかけて、こけし、金魚、だるま、桜、つばめ、セーラームーンのシンボルマークなど日本的なデザインが散りばめられている。しかし、ホレヴァさんは日本では夏にも長袖を着用しているという。自分のタトゥーが周囲からの視線を集めることが気にかかるようになった。
実際、日本では、刺青やタトゥーから、暴力団をはじめとする反社会的勢力のイメージを抱く人が多いのは事実だ。刺青・タトゥーをしている人の入会、利用を禁止しているコナミスポーツクラブでも、特に利用者の多数を占めるシニア世代からの理解を得ることは容易ではないという。関東弁護士会連合会が2014年6月に、20〜60代の男女1000人を対象に行った意識調査でも、「イレズミを入れた人を実際に見たときに、どのように感じましたか」の質問に対して、「不快」と答えた人が51.1パーセント、「怖い」が36.6パーセントだった。
しかし近年、タトゥーは広くファッションとして受け止められつつあり、海外ではその傾向は顕著だ。フォックス・ニュースが2014年に行った電話調査によれば、アメリカ国民の5人に1人がタトゥーをしているという。
ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさん、アメリカのポップシンガーのレディー・ガガさん、ブラジル出身のサッカー選手ネイマールさんなど、多くの著名人のタトゥーを目にする機会も増えた。
フランス人のモンテラ・ディビッドさん(32)は、背中に中国語で「苦しみ尽きて楽あり」という意味の「苦尽甘来(くじんかんらい)」のタトゥーを入れた。フランスでのタトゥーの受け止めた方について「フランスではタトゥーはかっこいいものです。体や顔などにタトゥーをするし、たくさんの人がいれていますよ」と話す。
韓国や香港などのアジアの国々でも、日本と同様に、タトゥーに犯罪組織のイメージを重ねる人が多かったが、香港のタトゥーアーティストのジョーイ・パンさんによれば、タトゥーをしている人、タトゥーショップの数も年々増加してきているという。
また、タトゥーは必ずしもファッションに限ったものではない。ニュージーランドのマオリ族、フィリピンのカリンガ族、カナダ・ブリティッシュコロンビア州に在住するハイダ族などのトライバルタトゥーといった、宗教的、民族的な意味合いや慣習から入れるタトゥーも存在する。
「タトゥーの知識がないから誤解している人もいます。メイク用や医療用、芸術的なタトゥーなど、色々なタトゥーがあるのに混同しているのだと思います」とジョーイ・パンさんは語る。
増加する外国人観光客
しかしながら、日本ではこうしたタトゥーを受け入れる体制は整っているとはいえない。昨年10月に観光庁が実施した、全国のホテル・旅館対象のアンケート調査(約3800施設に調査票を送付し、約600施設からの有効回答)によれば、タトゥーがある人の入浴を禁止している施設は56パーセント、シール等で隠す等の条件付きで許可を始めている施設は全体の13パーセントだった。
2020年の東京オリンピックに向けて、この問題がより顕在化してくるだろうと、ニッセイ基礎研究所の研究員、土堤内昭雄氏は語る。今日本を取り巻く情勢は、日本人が海外に出て行くアウトバンドの国際化から、外国人が日本の社会に入り込んでくるインバウンドの国際化へと変化しつつあるからだという。
「日本が経済成長を続けていく上で、インバウンドの風はすごく大きな力になっている。2020年オリンピックもあるし、それにむけてますます海外からいろんな人が入ってくる。オリンピックのあとその流れが続くには、異文化を受け入れるような仕組みや対応をどう取っていくかにかかっている」
日本を訪れる観光客は今急増している。昨年日本を訪れた外国人旅行者数は1974万人に達し、前年に比べて約47パーセントも上昇した。これを受けて、政府は2020年の東京オリンピックまでに2000万人としていた当初の目標を年間3000万人に上方修正するという。
そして中でも、「温泉」は、訪日外国人にとってかかせない観光スポットだ。観光庁の「訪日外国人の消費動向」についての報告書によれば、「日本食を食べること」(70.1パーセント)、「ショッピング」(53.6パーセント)などに続き「温泉入浴」(29.2パーセント)が挙がる。
異文化のおもてなしは
タトゥーという異文化と日本の温泉文化とが共存しうる道は何か。新たな対応策を模索する動きもある。
ALAE社は6年前から、入浴施設やプールでの利用のため、タトゥーを隠すためのカバーシールの販売を始めている。防水加工を施した素材で、肌色に合わせてシールを着用すると、タトゥーを他人に気付かれないまま入浴が可能だ。昨年秋頃からは、メディアで取り上げられたのをきっかけに、インターネットでの個人の顧客だけでなく、量販店や旅館等の施設からの問い合わせも増えているという。温泉ツアーなどで入浴できない人がでないよう、タトゥーカバーを購入する旅行会社もあるのだと話す。
こうしたタトゥーカバーシールを、全国で温泉宿泊施設などを運営している星野リゾートも昨年10月から試験的に導入を始めている。タトゥーをしていても、8センチメートル×10センチメートルのシールの範囲で隠れる大きさであれば、シールを使用して温泉入浴を楽しむことができるという。最近では、月に1、2件ほど、利用を要望するケースが出てきているそうだ。
また、タトゥーをした人も入れる温泉やジムなどの施設を集めた店舗を掲載する「タトゥースポット」などのサイトも存在する。当サイトは2014年2月にリリースされ、昨年12月25日時点では、タトゥーを許容する施設の登録掲載数はすでに1300件を超えている。日本についてのブログを持ち、ソーシャルメディアで活発に発信するホレヴァさんは、海外からタトゥーをしていても入れる温泉施設についてよくメールで質問されるが、その際もこうしたサイトが非常に便利だと語る。
「たくさんの人が普通のタトゥーをしているんです。だから温泉やその他の施設にも入れるべきです」とホレヴァさんは訴える。日本の温泉は母国では味わえない特別な体験なのだ。「でも、日本では難しい問題なんだと思います」。ホレヴァさんは最後にこう付け加えた。日本で、タトゥーと今後どのように向き合うのか、その対応が問われている。
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[映像監修・取材・テキスト]田之上裕美
[取材ディレクション]ジュリア・ザッペイ
[スチール撮影]穐吉洋子