「太郎さん」って業界用語? 身近で聞こえる「隠語」の世界
上記の引用は、bizSPA!フレッシュでの連載記事:知ってると自慢できる「業界用語」 の一部です。業界には様々な専門用語があります。一般には業界用語というのは、特に同じ職業内で通じる専門の用語を指します。しかし最近では、業界でもテレビ等を活躍の舞台とした芸能界の中だけで用いられる用語を指すことも多いようです。「ピン」(一人でという意味)とか「前フリ」(本番前の導入)といった芸能界やテレビでの番組作成のみで使われる用語もあれば、NG (No Goodの略、ダメ、やり直しの意味)とか「カンペ」のように通常の社会に溶け込んだ用語もあります。広い意味で業界用語と言われるものの中には、業界、あるいはその業界の仲間内で通じることよりも、その仲間内以外には通じないことに重きを置いた用語があります。上記の引用のような例です。
筆者が学生時代に大阪のデパートでアルバイトに赴いた際に、最初の研修で、トイレのことを「33(さんさん)」ということ、放送で「雨に唄えば」という曲が流れればデパート外で雨が降っている、映画「戦場にかける橋」のテーマ曲が流れれば、デパートの役員もしくは重要な見学(検査)者が来店している等、いろいろな約束事を教わりました。これらはもちろん店内の人に意味が通じることですが、それ以上に、来客の人にとって意味が分からないように店内の関係者だけに伝えることでした。接客業に類しますから、お客様に少しでも不愉快な思いをさせないようにとの配慮が主になります。フロア内に万引きの常習者が現れたとき、あるいは万引き自体が起こった際にも独特のアナウンス方法があったように記憶しています。
これらは専門用語というよりは、他社に意味が分からないようにすることに重点を置いたことから「隠語」に類されます。「隠語」とは仲間内だけで通じ、他者に意味を悟られない用語のことです。特に流通業や小売業では歴史的に「符丁」とも呼ばれます。同じような概念として「合言葉」があります。合言葉は仲間であることを確認する言葉です。日本では昔から「山」に対して「川」と答える例えが有名です。
隠語も符丁も合言葉も、一般には「暗号」の部類として考えられています。しかし、現在の暗号は隠語や符丁とは全く異なった概念です。「似て非なるもの」と考えてよいでしょう。サイバー社会における安全性の基盤は暗号であると言っても過言ではありません。身近なところでは、SuicaやICOCAでの電子マネー、そしてクレジットカードを使ったネット決済等、意識せずに暗号が用いられているのです。この暗号ですが、隠語や符丁と同じようなものと考えられがちです。しかし仕組みどころか原理的に異なるものであり、事実上、無理のない仮定の下での安全が証明されているのです。隠語のように、勘が良い人には推測出来たり、仲間内の知り合いから教えてもらったりしてばれてしまうような稚拙な仕組みでは、「暗号」とは決して言えないのです。