物価上昇と新型コロナの感染再拡大への懸念強まる…2022年7月景気ウォッチャー調査
現状は下落、先行きも下落
内閣府は2022年8月8日付で2022年7月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、持ち直しに足踏みがみられる。先行きについては、持ち直しへの期待がある一方、価格上昇の影響などに対する懸念がみられる」と示された。
2022年7月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス9.1ポイントの43.8。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」が減少。原数値DIは43.5。
→詳細項目は全項目が下落。「飲食関連」のマイナス31.2ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス4.8ポイントの42.8。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」が減少。原数値DIは42.6。
→詳細項目は「製造業」以外の全項目が下落。「サービス関連」のマイナス13.4ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年7月では新規感染者数急増で新型コロナウイルスへの懸念は強まり、さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争などでコスト上昇が大きな影響を見せており、景況感は後退を示している。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2022年7月では新型コロナウイルスの感染再拡大による影響はまだしばらく続くと見る動きが強く、さらに原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足、ロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安もあることから、景況感は後退を示している。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの再流行が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。その後、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の影響による新規感染者数がワクチン接種の進展などで減少を示していることで、景況感の回復の動きが見られた。しかし今回月の2022年7月はロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなっており、さらに新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張っぱる結果となった。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「雇用関連」のみ。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の猛威に対する不安は強まり、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念もまた景況感の足を引っ張っている。
目に見える新規感染者数の増加とコスト高という不安
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・7月に入り、新型コロナウイルスの新規感染者数が急増したが、客の購買意欲や来客数にはそれほど影響がないと感じる。高額品の動きも相変わらず順調である(百貨店)。
・円安を背景とした物価上昇もあり、客が外食やレジャーにかける費用を節約する傾向にある。新型コロナウイルスの新規感染者数の急増で、来客数が落ち込むと予想したが、政府の行動制限がなく、足元の人出などは変化がない。また、宿泊やレストランの個人客利用も安定している(都市型ホテル)。
・生鮮食品の相場の上昇や、メーカーの値上げによる商品単価の上昇がみられるものの、1人あたりの買上点数が減少している。結果的に、買上単価は前年よりも低下する動きが続いている(スーパー)。
・7月前半は、大人数の宴会が入っていたが、新型コロナウイルスの新規感染者数が増加するにつれ、キャンセルも増え、宴会も減少している(高級レストラン)。
■先行き
・新型コロナウイルス感染拡大第7波の収束を、約1か月半後と想定している。9月以降、感染が一定レベルに落ち着いてくれば、来客数や売上も好転していくと考えている(百貨店)。
・客もコロナ禍の生活に慣れてきたようで、以前ほど敏感になっていないような様子の人が多い。今後、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う行政からの行動制限がなければ、来客数も少しずつ増加してくる。秋からは外国人の団体予約も入ってきており、このままキャンセルがなければそれらの上乗せも期待できる(一般レストラン)。
・納期の長さの問題は営業方法の変更で解消しつつも、車体価格の上昇が新たな問題になりつつある(乗用車販売店)。
・新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない状況のなか、客も自粛生活を強いられることが予想される(家電量販店)。
新型コロナウイルスの変異株による感染再拡大への懸念が非常に大きい実情がうかがえる。また物価上昇が消費を抑える動きに作用しているようだ。さらに原材料不足・コスト上昇への懸念は強い。
企業動向でも物価上昇・原材料不足・コスト上昇への影響が多々見受けられる。
■現状
・国内向け出荷数量に大きな変化はないが、海外は東南アジアや中国向け輸出入数量が増加してきた(輸送業)。
・自動車やオートバイ用の電装関連の生産減少により、出荷量が減少している。また、建築関連の出荷量も少ないほか、化学品の原材料や鉄製容器の値上がりが激しく、利益が大きく減っている(化学工業)。
■先行き
・物価高は止まらず、販売価格への転嫁を求めなければならない。ただし、円安の恩恵で受注量が5~10%上昇しているので、打ち消されていくのではないか(精密機械器具製造業)。
・工事受注は例年並みに上向くとみている。しかし、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響から、アスファルト合材の材料や燃料価格が高騰し、それが販売価格に転嫁されることで工事原価が上昇するため、設計価格の見直しまでの数か月間は採算が悪くなると考える(建設業)。
物価高・原材料不足・コスト上昇が大きなマイナス要素となっている状況。
雇用関連でも物価高・原材料不足・コスト上昇による悪影響の足音が聞こえている。
■現状
・製造業からの派遣依頼は増えているものの、人材不足の状況が続いている(人材派遣会社)。
■先行き
・住宅関係では建築資材費、飲食関係では食材料費や電気料金など、各業界で予想を超えたコストの上昇を販売価格に転嫁できず、先行きの不透明感が増しており、求人への影響も懸念される(職業安定所)。
特に先行きで、物価高・原材料不足・コスト上昇は雇用関連にも大きな影を落としているのが分かる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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