北朝鮮領海での中国船団のイカ釣り操業で被害を被る日本
上限を超す石油精製品の輸入や外国金融機関へのサイバー攻撃(ハッキング)、さらにはマネーロンダリングなど北朝鮮による国連安保理制裁決議違反事例が取り沙汰されているが、北朝鮮の東西の海域で中国の漁船数百隻が国連制裁決議を無視し、不法操業していることが、国際非営利団体「Global Fishing Watch」(GFW)が22日に発表した論文で明らかにされた。
北朝鮮は2017年に中長距離ミサイルを乱射し、核実験を強行したため国連安保理から都合4回、経済制裁を掛けられた。
水産関連では2017年8月5日に採択された決議「2371」によって海産物(3億ドル)の外国への販売(輸出)が禁じられ、また、同年9月12日に採択された「2375」では外国船舶との海上での物資移送(瀬取り)も禁じられた。さらに同年12月23日の「2397」では漁業権の売買も禁止された。
外貨事情が苦しい北朝鮮は自国領海での操業権を5千万ドルで中国に売り渡していた。これにより中国の漁船は多い年で西海(黄海)に1500隻、東海(日本海)に1000隻が操業していたが、これも「2375」によって禁止行為に定められた。
「GFW」の報告書によると、中国漁船は少なくとも2017年に900余隻、2018年には700余隻が北朝鮮領海に進出し、イカを大量捕獲していた。中国の捕獲量16万トン以上に上り、「市価で計算すれば、4億4千万ドルに上る」と推算されている。
北朝鮮の領海で不法操業しているのは黒塗りの中国の漁船団で、船舶位置確認スイッチを切って北朝鮮海域に入って、操業をしているため肉眼で発見するのは容易ではないとされている。「GFW」は自動識別システム(AIS)、レーダー画像, 夜間画像, 高解像度光学画像など4つの衛星総合技術を駆使し、黒い船団の実態を把握できたとしている。
報告書の作成者の一人である「GFW」のパク・ジェユン専任分析官によると、船団規模は「中国の遠洋漁船の全体の3分の1にあたる」としており、一国の漁船が他国の海域で不法操業するケースとしては「大規模である」と指摘している。
報告書は、韓国と日本のイカ釣り漁が2013年以降、年々急減しているのは中国の黒い船団による北朝鮮海域での不法操業にも関係があるとみており、また、北朝鮮の漁船が燃料や食料、装備不備のまま日本の排他的経済水域(EEZ)にある大和堆にまで進出し、操業し、海難事故に会うのも中国の船団から締め出され、自国の領海で操業ができなくなったことに原因があると分析している。
今年1月8日に公表された海上保安庁のデーターによると、昨年(2019年)日本の好漁場である「大和堆(やまとたい)」で違法操業していた北朝鮮漁船は1308隻に及んでいた。
日本にはこの5年間で約600隻の北朝鮮漁船が漂流、漂着し、2019年までの3年間で合わせて54人の遺体(白骨体)が漂着している。
漂着した木造船や遺体の処理費用これまでは漂着した先の自治体が負担していたが、年々数が増えていることから今では日本政府が拠出している。
北朝鮮の漁船は日本のEZZだけでなく、ロシア沿海にも出没しており、2018年の1年間で3000隻がロシアのEEZで違法操業していた。
ロシアと北朝鮮との外交問題にまで発展し、北朝鮮はロシアに規制することを約束したが、今でもロシア国境警備当局による拿捕が後を絶たない。
ロシア連邦保安局(FSB)のクリショフ国境警備局長がタス通信に語ったところによると、昨年1年間に拿捕された北朝鮮漁船は344隻、身柄を拘束された漁民は3754人に達している。