牛丼御三家の店舗数動向を探る
伸びるすき家、現状維持の吉野家、大きく変化する松屋
日本国内の牛丼チェーン店としては大手三社となる吉野屋・松屋・すき家を「牛丼御三家」と呼んでいる。店舗数の変遷は短期的には大きな変化はないが、中長期的な流れを見ると、各社の店舗展開戦略が透けて見えてくる。そこでその店舗数の推移などを確認し、状況を把握していく。
まず各社の月次公開値を基に該当する値を抽出し、グラフとして生成したのが次の図。
グラフ左端、2006年1月の時点では、店舗数は吉野家が一番多く、次いで松屋、すき家の順だった。「吉野屋が牛丼業界では一番メジャーで、店舗数も一番」としてよく喧伝されていた時代である。一方、2006年6月にすき家と松屋の店舗数が逆転し、すき家が第2位につく形となった。そして2008年9月には吉野家とすき家が逆転し、すき屋が店舗数ではトップの座に収まる。
その後、吉野家は2009年中は漸増だったが、それ以降はほぼ横ばい。新店舗が無いのではなく、採算の取れない店舗は整理統合・リニューアルなどを続け、あくまでも効率の良い、時勢にあった店舗の展開を維持している。いわゆる新陳代謝を続けながら店舗数規模をキープしている次第。
すき家は店舗数の継続的な拡大を見せており、この傾向はいまだに変わらない。ただしこの1、2年では上昇率はやや頭打ちとなっている。そして松屋は2011年半ばから店舗数の大幅な拡大戦略に転じたものの、2013年に入ってからはぴたりとその動きを止め、店舗数維持政策に移行することとなった。
この数年に限った変化を明確にするため、グラフ生成範囲を2008年以降に限定したのが次の図。
すき家の店舗数拡大戦略は相変わらず。吉野家の「微増から2010年頭以降は数の拡大を休止」、松屋の「微増から2011年半ばから拡大ペースを加速化。2013年からは突然その動きを止めて店舗数維持」との動きがよく分かる。特に松屋はこの2、3年に大きな戦略転換を2度行ったことになる。内情までは把握できないが、外部からでもその鱗片は推し量ることができるというものだ。
これらの動向を把握しやすくするため、各社店舗数の前月比(前年同月比にあらず)を折れ線グラフにしたのが次の図。
すき家は一貫してプラス1%内外を維持。ただし単純な店舗数グラフではつかみにくかったが、2012年に入ってから一段階、さらには2013年以降になるともう一段階の形で増加ペースを落としている。2013年に入ると明らかに前月比0.5%の領域に留まり、店舗数そのものの推移グラフでカーブがゆるやかになった状況を把握できる。
松屋はプラマイゼロのラインよりやや上なものの、その値もわずか。2010年半ばから、ややグラフの動きが上向きとなり、2012年に入ってからはむしろすき家以上の伸び率を示していた。そして2013年に入るとぴたりとその動きを止め、プラスマイナスゼロを行き来する。他方吉野家は2010年こそ大きなぶれがあったものの、2011年以降はゼロ付近でのもみ合いに終始している、つまり店舗総数に大きな変化が無い。
そして3社とも2013年後半以降は、店舗の増減数に大きな動きは無く、収束の形を見せている。店舗数の積み上げによる領域拡大戦略や、リストラによる店舗数の削減ではなく、適切な新陳代謝による市場規模の維持に舵とりを変えたようにも見える。
客単価や客数推移
牛丼御三家の月次報告では店舗数以外に、客単価・客数・売上の3項目についても報告されている。売り上げは何度か言及したこともあるので(例えば「起死回生策が次々に成果を見せ始めた吉野家」)、店舗数動向と同様に、客単価と客数推移を確認していくことにする
客単価では2011年3月の震災前までの数年間、主力商品の牛丼における(期間限定)値引きが繰り返されたことで、大いな下落が起きている。その後は牛丼の価格がやや高めな吉野家が100%超の領域を維持し、メニューの多彩さでは御三家中一番のすき家が一時的に盛り返すもその後失速、松屋はほぼ均一を維持している。
そして吉野家が牛丼を値下げし、御三家の牛丼単価が横並び状態になると、吉野家がその影響を受けて大きく下落することになる(前年同月まで高値だったため)。すき家もほぼ同じタイミングで落ちているが、これは単に前年の反動でしかない。そして直近で吉野家が大きく戻しを見せているが、これは牛丼値下げ開始から1年を経過し、消費税率改定に伴いいくぶん価格を上乗せしたことが影響している。
一方客数推移だが、震災前までの値下げ競争で大いに盛り上がったものの、その成果はすき家が1番、松屋が2番となり、吉野家はあまり大きな恩恵を受けていないことが分かる。その後、牛丼値下げ競争も終息し、震災を経て、消費者の消費マインドの変化や競合他業界のシェア浸食により、2012年以降は客足は概して軟調。前年同月比で100%未満、つまり客数の減退が続いている。
しかし吉野家は上記にある通り、主力商品の牛丼値下げが功を奏し、さらには鍋メニューの爆発的なヒットを受けて、他の2社から抜きんでる形で大いに客数を伸ばしている。なお直近の3社の下げのうち吉野屋は、前年同月の牛丼値下げ開始による上昇の反動によるところが大きい。
今後の御三家の動きは?
今年の御三家の動きとしては、これまでに「鍋定食による一喜一憂と販売終了」「消費税率改定に伴う牛丼などの価格差再び」「すき家の人員問題」などが挙げられる。今後は牛丼御三家各社ともそれぞれの独自のスタンスによる歩みが見られそうだ。
すき家ではいわゆる「ワンオペ」問題に代表される労働環境を起因とする人手不足など、業務運営上の問題が露呈している。大規模な店舗リニューアル施策の実行など、言葉通りの意味のリストラクチャリングを遂行している最中で、大きなうねりの渦中にある。先日「すき家の「全店」「既存店」売上動向から見る「リニューアル店舗」の多さ」」でも指摘したが、リニューアルなどで一時休業している店舗は売り上げの既存店ではカウントしないことから、すき家の売上においてここ数か月の間、既存店と全店の値が逆転するという、非常に奇妙な動きも確認されているほど。
上記にある通り、店舗数では各社とも収束の動きを示している。その店舗数の動向は企業の施策を示す一つの指針に違いない。店舗数はそのまま企業の商用エリアの大小を表すからだ。これが大きな動きを見せる時、その企業に新しい施策が導入されたことを感知するシグナルになりうる。
今年は各社がどのようなかじ取りを見せるのか。夏を前にそろそろ新たな施策を打ち出してくることが予想されるだけに、各社のIRを注視すると共に、店舗数の動向にも気を配りたいところだ。
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