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「アイドルみたいに見られても嬉しい」インスタフォロワー100万人超男子バレー髙橋藍 海外で得た自信

田中夕子スポーツライター、フリーライター
男子バレー日本代表の高橋藍、アジア圏でアイドル並みの人気を誇る(撮影:平野敬久)

4月7日に今季の男子バレー日本代表チームの登録メンバー37名が選出された。パリ五輪出場権をかけた戦いが繰り広げられる今季、注目はフィリップ・ブラン監督も「中心選手として期待する」と名を挙げた21歳、アウトサイドヒッターの髙橋藍だ。現役大学生でありながら、世界と戦う強さを求め、2021-22シーズンからイタリアに渡る。日本のみならず世界でも人気を集める髙橋が、現地イタリアで独占インタビューに応じ、挑戦を続ける想いの強さの源を語った。

インスタフォロワー100万人超 日本、イタリア、東南アジアで人気絶大

 髙橋藍は、実にスマートでクレバーな選手だ。

 高さを誇るブロックを相手にしても、わずかな隙間を逃さず打つ。ここへ当てれば確実、というポイントを的確に狙って打ち、絶妙なブロックアウトをとる。いかなる時も冷静で、魅せるスパイクのテクニックの持ち主だ。

 プレーのみならず、コートを離れての振る舞いも然り。自分に何が求められているかを瞬時に判断し、一瞬でバシッと決めてみせる。現在髙橋が拠点とするイタリア、パドヴァの街中での写真撮影時も同様だった。

「バレーボール選手って、他競技に比べるとアイドル扱いされることも多いじゃないですか。人によっては、スポーツ選手はスポーツ選手として見られるべきだ、と思うかもしれないけど、僕は全然。それぞれの見方がある中で、僕をアイドルみたいに見てくれても嬉しいし、バレーボール選手として見てくれるのも、もちろん嬉しい。どう見られて、どう評価されようと、自分自身の芯はブレないので、全然気にならない。むしろ新しいことにどんどん挑戦して、新しく自分のこと、バレーボールのことを知ってもらえるならめちゃめちゃ嬉しいです」

 人気は日本のみにとど まらない。現在の拠点であるイタリア、さらにタイ、フィリピンといった東南アジアでも絶大で、インスタグラムのフォロワー数は116万人。

 昨年フィリピンで開催されたネーションズリーグでは、スパイクを1本打つだけで会場中に黄色い声援が響いた。バスへ乗り込もうと髙橋が動けば、群衆も動く。自国フィリピンが出場していない大会だったにもかかわらず、日本戦のチケットは完売した。

「フィリピンのバレー協会の人としゃべったら『君のおかげでチケットが完売したよ』と言われて(笑)。もちろん僕だけじゃなく、石川(祐希)選手や西田(有志)選手のように、実力も人気もある選手がいることや、漫画『ハイキュー!!』の人気もありますけど、あの熱狂、感覚は初めて。さすがにちょっとだけ、本当のアイドル になった気分でした(笑)」

188cmの身長は世界と戦うにはウィークポイント しかし19歳で五輪へ

(撮影:平野敬久)
(撮影:平野敬久)

 バレーボールの名門・東山(京都)で春高を初制覇した20年、髙橋は18歳で日本代表に初選出される。高校レベルでは無敵を誇る攻撃力はもちろん、サーブレシーブの技術も群を抜いている髙橋だったが、これまでは188センチの身長が、世界と渡り合ううえでチームのウィークポイントになると危惧され、アンダーカテゴリーでも日本代表に選出されることはなかった。

 そんな髙橋を抜擢した中垣内祐一・前日本代表監督は「あのレシーブ力と、レシーブから攻撃に入るスピードは抜群」とほれ込んでいた。だが、中垣内前監督の選出時点での評価はこうだった。

「4年後、パリ五輪では石川の対角に入るアウトサイドヒッターになるでしょうね」

 その期待は、いい意味で裏切られる。21年5月に五輪会場となる有明アリーナで行われた中国との親善試合で日本代表デビューを飾ると、合宿やネーションズリーグを通して飛躍的な成長を遂げる。そして1年の延期を経て開催された21年の東京五輪では、すでに“期待の若手”ではなく日本が取り組むべきバレーボールを展開する ために必要な戦力として選出。19歳で五輪の舞台に立つ。

 そして東京五輪の同年12月、日体大の現役学生でありながら、全日本インカレを終えるとイタリアへ渡り、パドヴァでプレー。今季もパドヴァと契約を結ぶと、22年10月の開幕にあわせ渡欧した。大学生なのだから大学の試合に出るべき、という見方もあるが、髙橋本人は「レベルアップするために不可欠な選択」と不退転の決意で臨む。結果も伴っている。シーズン途中からチームに合流した昨季は、本来のポジションではないリベロとして起用されたが、今季はアウトサイドヒッターの主軸となった。

自他共に認める「コミュニケーションおばけ」

 簡単ではない道を選択し、そこで結果を出す。持ち前の守備力や、抜群のテクニックを誇る攻撃力もさることながら、もう1つ、髙橋には大きな武器がある。

 コミュニケーション力だ。

 練習が始まる前、練習中、そして練習後も常にチームメイトと談笑し、ファンから呼び止められればサインや写真撮影にも気さくに応じる。それだけならば普通のことかもしれないが、髙橋の場合、自分からも積極的にコミュニケーションを取にいく。

「日本から来て下さる方とか、イタリアに住んでいる日本の方も多いので『どこから来られたんですか?』と、むしろ僕から聞きます。こっちの大学に留学していると聞いたら、どこの大学ですか? とか、何の勉強をしているんですか? とか。自分が知らないことを知ることもそうですけど、そもそも人と話すのが好きだから、その人に合わせて、いくらでもしゃべれますね」

練習中からチームメイトとのコミュニケーションも欠かさない(撮影:平野敬久)
練習中からチームメイトとのコミュニケーションも欠かさない(撮影:平野敬久)

 バレーボール選手に限らず、幼い頃から競技に没頭してきたアスリートの中には「人見知り」と公言する選手も多いが、髙橋はその真逆だ。日本からの来訪者に限らず、現地の人たちともイタリア語と英語を交えながらコミュニケーションを取る。カフェやレストランでも、店員にはただ注文をするだけでなく、ひと言ふた言、雑談も交わす。

「話しかけられたら話したいし、お店のやり取りが語学の勉強にもなる。『お前が来る時はいつでも 無料だから』とサービスしてくれる店長がいたり(笑)、結構楽しいんですよ。1人でイタリアにいるから、というだけじゃなく、普段からこんな感じ。僕、コミュニケーションおばけなんです(笑)」

 バレーボールの面でもその性格はプラスでしかない。どんなトスが欲しいか、どういう場面で自分がどう動きたいか。黙っていても察してくれる日本のチームメイトと違い、周囲は自己主張の強い欧州のプロ選手たち。待っていてもトスは上がってこない。結果を残すというのはもちろんだが、いかにアピールできるか。プレーも個性も、相手に伝えなければ理解してもらうことはできない。

海外に渡り自信を得た日本人のプレー パリ五輪に向け進化続く

「プレー自体は絶対、日本人のほうが丁寧だし、いろんな引き出しがあると思います。こっち(イタリア)ではチームメイトが僕のプレーを見て“ニンジャ”って言うんですけど、それも細かいプレーや動きをするからだ、と。そもそもニンジャ知っとんのか? 日本人の俺でもよう知らんのに、って思いますけど(笑)、日本人のイメージとして、レシーブができて細かいテクニックがある、と思われるのは光栄です」

(撮影:平野敬久)
(撮影:平野敬久)

 高さやパワーで劣っても、テクニックと巧さでは負けない。自身が目指すスタイルをイタリアでも貫き、十分に世界で渡り合える自信も得た。

「130キロのサーブを打ってきたり、とんでもない高さからスパイクを打つ選手はたくさんいるけれど、自分は自分、人は人。興味がないわけではなく、自分をつくりあげるのは自分だけだと思っているんです。だからこの人みたいになりたいと思うこともないけれど、世界のトップ選手がやっていることは、自分も当たり前にできる選手でありたい。この身長でも世界と戦えることを証明したいし、世界から認められる選手になりたいです」

 イタリアでのシーズンを終えれば、日本代表としてネーションズリーグ、そして今秋にはパリ五輪出場権をかけた予選大会が始まる。

「一つ一つ 、常に成長できている姿を見せることが大事だと思うので、見てくれる方々に『またうまくなったな』と思われるような姿をお見せできるように頑張ります!」

 目の前の壁を軽やかに飛び越え、また新たなステージへ。髙橋藍の進化は、まだまだこの先も続いていく。どこまでもスマートに。次なる世界へと飛びこんでいく。

イタリアで、日本で。髙橋の活躍はこれからも続く(撮影:平野敬久)
イタリアで、日本で。髙橋の活躍はこれからも続く(撮影:平野敬久)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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