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週末の有馬記念に出走するアーモンドアイ。香港回避、そして現在を国枝調教師とルメール騎手が語る

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
国枝栄調教師。右手後方で馬房から顔を出しているのがアーモンドアイ

熱発で香港遠征を断念

 「朝も普通に乗って、午後に検温をしたら38.5〜6度くらいありました」

 11月29日の事だった。調教師・国枝栄はそう述懐する。香港遠征を前に義務付けられていた検温。しかし、それがなくてもルーティーンだったと言う国枝は更に続ける。

 「アーモンドアイの体温は普段38度くらい。だから微熱程度でした。咳をするわけではないし、鼻水が出ていたわけでもない。検温しなければ気付かない程度のモノだったかもしれません」

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 熱発の兆候は見られなかったのか? ちなみに香港へ行く直前、検疫厩舎に入っている際の追い切りではグローリーヴェイズに先着を許していた。同馬を追いかけて、最後まで捉える事なくフィニッシュした。当時、京都から駆けつけ、未明の追い切りに跨ったC・ルメールは次のように述懐する。

 「アーモンドアイの具合が悪くて先着されたわけではありません。だいぶ後ろから追いかけたのでかわしに行けばオーバーワークになると思い、無理をさせなかっただけです。それにグローリーヴェイズの調子も良かった。それが証拠に彼はその後、香港で楽勝しました」

 香港を回避する事になったものの、状態自体は良かったとパートナーは言う。

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 熱発した翌日の30日、午後4時前後、現役最強牝馬は香港へ向けて厩舎を発つ予定でいた。出発予定当日の朝に再び検温。いくらか下がってはいたが、まだ平熱よりは僅かに高い38.2度だった。

 「日本での競馬なら予定通り使えたと思います。熱発がもう1日早くても、予定通り出発していたでしょう」

 弁慶の泣き所にクリティカルヒットするように出発前日というタイミングが最悪だった。飛行機に乗せてから熱がぶり返す可能性があると獣医師に言われた。ここまで大事にしてきた素晴らしい馬。断腸の思いで諦めた。幸い、脚元の故障などではなかったため、すぐにリカバリー出来た。

 「その日のうちに検疫厩舎から出して自分の厩舎へ入れました。翌日の日曜には軽いところを乗りました」

 この時点で香港国際レースを主催する香港ジョッキークラブからはまだ勧誘が続いていたと国枝は言う。

 「『軽症なら、直前輸送で良いから来てくれないか?』と言われました。最初からそんな手もありと分かっていれば考えていたかもしれません。でも、一度断念してしまい、その後から言われたので、そこから再度予定を変更するのは無理でした」

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新たなるターゲットはグランプリ

 そこで、新たなる標的は国内戦にした。すると自ずと中山芝2500メートルのグランプリレースが浮かび上がってきた。

 「水曜(12月4日)には15-15、日曜(同8日)には5ハロン71秒くらいを乗りました。幸い良い感じだったので次の水曜にはクリストフに乗ってもらう事にしました」

 こうして有馬記念の1週前となる11日にはC・ルメールを背に1週前追い切りが行われた。手綱を取ったルメール、追い切り後に言った。

 「言われなければ中間に熱発があったなんて分からないくらい良い動きでした。息の入りも良かったし、力を発揮出来る状態にあると感じました」

11日に行われたアーモンドアイ、有馬記念1週前追い切り。鞍上はルメール
11日に行われたアーモンドアイ、有馬記念1週前追い切り。鞍上はルメール

 実際に双眼鏡越しにその追い切りをみた国枝は言う。

 「『前に1頭いるからいつも通り終いだけやってください』と指示しました。その通りに乗ってくれたので良い調教が出来たと感じました。これなら状態面に関しては何の不安もなく有馬記念へ向かえると思います」

双眼鏡越しにアーモンドアイの1週前追い切りをみる国枝師
双眼鏡越しにアーモンドアイの1週前追い切りをみる国枝師

 “状態面に関しては何の不安もなく”という事は、他の面で何か心配事があるのだろうか?

 「そういうわけではありません。ただ、競馬ですから何があるかは分かりません。実際、安田記念では不利を受けて負けてしまっていますからね……」

 小回り中山でクルクルと回るようなコース形態も、過去に数多の名馬達を呑み込んできた。このあたりについて伺うと、次のように答えた。

 「確かに中山はアクシデントの起こりやすいコースと言えるでしょう。ましてこれだけ好メンバーの揃ったレースとなれば、ほんの少しの事が命取りとなりかねません。でも、そのあたりは心配し過ぎてもしかたのない事です。自分達の仕事としては、力を発揮出来る状態にして送り出すだけなので、そういう意味では現在のところ申し分なく来ています」

 枠順に関しては「内で包まれる心配のない真ん中より外がベター」と言い、早い段階で外へ持ち出せるような競馬が理想と続けた。

 このあたり、ルメールは次のように語る。

 「序盤の位置が後ろでも問題ないです。ただ、中山競馬場という事を考えると、直線一気は考え辛い。だから3~4コーナーではある程度、好位置に上がっておきたいです」

アーモンドアイとルメール騎手
アーモンドアイとルメール騎手

 彼女なら4角最後方でも勝っちゃいそうだけどね?と言葉を投げると、ルメールはニヤリと笑った後、真顔になって次のように言った。

 「でも、ここは素晴らしいメンバー構成のG1です。あまり後ろだとさすがのアーモンドアイでも厳しいと思います」

 油断の色が微塵も感じられないその表情と答えに、現役最強馬がまた一つ勲章を手に入れるシーンが目に浮かんだ。ルメールは18日の水曜日にも美浦入りし、最終追い切りの手綱を取る予定。これに関する指揮官の言葉を最後に記そう。

 「1週前追い切りに乗ってもらった後『じゃ、来週も頼むね』と声をかけると、クリストフは『え?また?』という感じの表情をしていました。実際、今さら彼が乗ろうが乗るまいが、大きな変化はないと思います。ただ、実戦へ行ってメンコ(覆面)を着けているのと同じように、成績を残せている形を踏襲しようというだけです。せっかく良い結果を出しているのだから、あえて違う形にする事はないでしょう。これまでG1を勝ってきたのと同じ臨戦過程で有馬記念にも挑みます」

 今年の有馬記念は12月22日。アーモンドアイがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。楽しみにしたい。

馬房から顔を出すアーモンドアイ
馬房から顔を出すアーモンドアイ

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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