熱海土石流の象徴的な“赤い酒店”公費解体 ~固定資産税路線価に見る傾斜地の注意点
昨年7月の大雨で、熱海市伊豆山地区で土砂災害があり、未だに爪痕が残る中、建物の解体が進められているそうです。
ちょっと前ですが、筆者は2月21日に静岡県磐田市での不動産鑑定に赴き、翌日の帰り午後3時に熱海駅に降り立ち、レンタサイクルを借りて現地を訪れました。
ここでは、不動産・税務の専門的見地から、「固定資産税路線価」に着目しつつ、傾斜地での不動産選びの注意点について考察してみたいと思います。
※この記事の写真は全て令和4年2月22日筆者撮影。なお、出典を明記していただければ転用して構いません。
■ 現地に行ってみた
坂道ではところどころ歩いたりしつつ、熱海駅から15分程度で現地につきました。
まず、現地を見るに、「その場所だけ爪痕が露骨に残っている」のが一目瞭然です。
ここで、不動産鑑定士としては「この地域の土地の相場はどの程度なのだろう」という点が気になります。
一般財団法人資産評価システム研究センターの全国地価マップの固定資産税路線価によると、令和3年1月時点の国道135号線沿いで46,400~54,700円/平米、その上流側で、道路の系統にもよりますが、概ね約15,000~33,000円/平米前後と、市中心部と比較してもかなり低額との状況でした。
固定資産税路線価は土地の固定資産税額を計算するためのものですが、建前は概ね市場価格の7がけとされています。しかし、地方の地価水準の低い土地は実態として市場価格は、それよりもう少し低いことも多いでしょう。
実際、国土交通省の不動産取引価格情報を見てみても、令和2年以降で40,000円/平米を超える取引は見られません。と言うより、そもそも取引件数が少ないというのもあるのですが。
■ この土砂災害で筆者が感じた見解
①「ハザードマップを必ずチェックしましょう」
平成13年に土砂災害防止法が施行され、土砂災害が危険な区域については土砂災害警戒区域や、それの強化版である土砂災害特別警戒区域という範囲が定められました。
要するに土砂災害の恐れが高い地域につき、危険を周知し、警戒避難体制を整備の上で、土砂災害特別警戒区域については住宅等の新規立地等を抑制するものです。
まず申し上げたいのは熱海に限らず、「ハザードマップを必ずチェックしましょう」ということです。
特に、土砂災害警戒区域等に該当する場合は、危険に対処する必要があり、購入や賃借の場合の値引き交渉の余地があり得ますし、自宅であっても危険性が喚起されていれば、普段から何等かの準備はできるでしょう。
なお、ハザードマップは自治体のサイトで確認できます。
例・熱海市の土砂災害関連のハザードマップ
②場合によっては、固定資産税路線価や相続税路線価にも注視を
熱海のように実際に被害があった箇所はともかくとして、土砂災害防止法が比較的新しい法律のため、相続税路線価や固定資産税路線価にどこまで反映されているか、なかには微妙な場合もあると思います。
特に固定資産税路線価については毎年春ごろに縦覧期間があり、不服がある場合は固定資産評価審査委員会に審査の申出ができます。
例えば、最近、新たに土砂災害警戒区域に指定された等、指定区域外との比較で不利な場合は、場合によっては申出という線もなくはないと思います。
一方で、各自治体や課税当局においても、改めて土砂災害警戒区域その他のハザードマップとの照合を行って、災害の危険が高い土地の評価を見直す等を通じた課税の公平を図る必要性もより求められるでしょう。そして、できる範囲で各自治体に対して国民全体が牽制し、より改善を求めるべきとも思います。
■最後に
特に、本件のような比較的地価水準が低い地域の傾斜地では、採算性の問題があるため高額の造成費用をかけてまで防災する意識がどうしても抜けがちです。
もちろん法制度で一定水準の規制はかけていますが、本件の場合も土砂災害の大きな原因となった不動産会社の盛り土が法の規制の網目をすり抜けて、行政の再三の勧告にも拘わらず改善されなかったことが問題であったと思われます。
地価水準が安い地域にはそれなりの理由があります。
特に地価水準が低い傾斜地の場合は、災害にも意識を向けて、不動産に関する意思決定をすることが肝要と思いますが、いかがでしょうか。