Yahoo!ニュース

49.6度カナダの異常熱波は日本でも起きる「人為的な温暖化が原因」放置すれば千年に1度が5年に1度に

木村正人在英国際ジャーナリスト
カナダを襲った異常熱波に池で体を冷やす犬(写真:ロイター/アフロ)

最高気温が一気に4.6度上昇

[ロンドン発]記録的な熱波に襲われたカナダ西部ブリティッシュコロンビア州で6月25日から7月1日の1週間に777人の突然死が報告されました。同州リトンでカナダ史上最高気温の摂氏49.6度を記録した6月29日には295人が突然死しました。これまで同国の最高気温はサスカチワン州で1937年に記録された45度でした。

米北西部オレゴン州ポートランドでも46.6度、ワシントン州では各地で47.7度という記録的な暑さを記録しました。2つの州では熱中症などで計1100人超の人が病院で治療を受けたそうです。

世界の異常気象を分析する民間コンソーシアム「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」の分析によると、カナダとアメリカの一部で起きた記録的な熱波は人為的な地球温暖化の影響がなければ起きる可能性は事実上ありませんでした。

温室効果ガスの排出で温暖化が進む今でも、起きる確率は1千年に約1回と推定しています。人為的な温暖化で異常熱波が発生するリスクは150倍増えた可能性があります。

今回のようにこれまでの最高気温を一気に4~5度も上回るような異常熱波は例がありません。平均気温はすでに産業革命前(1850~1900年)から約1.2度上昇し、温暖化の進行によって起きやすくはなっているものの、それでも非常に起きる確率が低い現象です。

異常熱波はどうして起きたのか

異常熱波が発生した理由は2つ考えられるそうです。

まず、それまでにあった干ばつと「ヒートドーム」として知られる異常な大気循環が温暖化と組み合わさって非常に高温になったという説明です。気候変動の影響がなければ、異常熱波の最高気温は約2度低くなっていた可能性があります。

もし現在のまま温室効果ガス排出量が減らず、2050年に平均気温が今より0.8度上昇して産業革命前比で2度上昇すると、今回のような異常熱波は5~10年に一度起きるようになるそうです。

もう一つの説明は、気候における非線形の相互作用がこれまでに観察されたような気温上昇をはるかに超えて、異常な気温上昇をもたらした可能性があるというものです。この説明が当たっていると、今回のような異常熱波が気候モデルの予測よりも頻繁に発生する可能性がすでに高まっていることを意味します。

異常熱波は日本でも起きる

今回の異常熱波は、北緯50度以南に位置するアメリカ、フランス、ドイツの一部、中国、日本でも異常な気温上昇が起こり得ることを示しています。

英オックスフォード大学環境変化研究所のフリーデリケ・オットー准教授は「私たちが目の当たりにした現象は前例がない。最高気温の記録が一気に4度から5度も上昇する異常熱波はこれまで想定されていなかった。それが現実に起き、例外的な出来事が起きる可能性をもはや否定できなくなった。温暖化はさらに進んだと言わざるを得ない」と警鐘を鳴らします。

英オックスフォード大学環境変化研究所のフリーデリケ・オットー准教授(筆者がスクリーンショット)
英オックスフォード大学環境変化研究所のフリーデリケ・オットー准教授(筆者がスクリーンショット)

日本の集中豪雨や鉄砲水について、オットー准教授は「日本でも2018年に記録的な猛暑になった。豪雨や洪水も頻繁に起きる。経済的なリスクも大きい。今回の異常熱波に対する研究に日本は耳を傾けるべきだ」と指摘しました。

オランダ王立気象研究所のヒヤ・ジャン・ファン・オルデンバーグ氏は「熱波がより頻繁かつ激しくなると予想しているが、カナダのような緯度の高い地域でこんな高温の熱波が観測されるとは予想外だった。気候変動が熱波をより高温に、より多くの死をもたらすかどうかを本当に理解しているかどうかは深刻な問題だ」と厳しい表情を浮かべました。

オランダ王立気象研究所のヒヤ・ジャン・ファン・オルデンバーグ氏(筆者がスクリーンショット)
オランダ王立気象研究所のヒヤ・ジャン・ファン・オルデンバーグ氏(筆者がスクリーンショット)

「石炭は多くの人を殺している」

英南西部コーンウォールで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は「30年までに温室効果ガスの排出を半分に抑え、遅くとも50年までの実質排出ゼロにコミットする」と宣言。「石炭火力発電が温室効果ガス排出の唯一、最大の原因」として「政府による新規の国際的な直接支援の今年末までの終了に今コミットする」とうたいました。

電気事業連合会の「主要国の電源別発電電力量の構成比」(2018年時点)では、日本の石炭依存度は32%。国際的な環境団体「エンドコール(脱石炭)」の石炭公的海外支援トラッカーによると、最大の海外支援国は中国で5万6135メガワット、第2位が韓国で8430メガワット、第3位が日本で4600メガワットです。

日本政府は「国際協力機構(JICA)がこれから本格支援をしようとしているバングラデシュのマタバリ2石炭火力発電所とインドネシアのインドラマユ石炭火力発電所の2つの政府開発援助(ODA)案件をやめること」(環境団体「気候ネットワーク」)が求められています。

しかし日本はこれまで国内では福島原発事故で原発稼働率が急激に下がる一方で、国外では中国や韓国に石炭火力発電所の市場を奪われることを恐れて「脱石炭」に舵を切れませんでした。

オットー准教授は「石炭を燃やすと最も多く温室効果ガスが出る。最終的にわれわれは化石燃料の使用を完全に止めなければならない。もし熱波で亡くなる人のことを考えることができるなら石炭を燃やすのを止めるべきだ。今は石炭の代わりに再生可能エネルギーが使えるようになった」と日本に厳しい視線を向けました。

オルデンバーグ氏も「石炭は多くの人を殺している。脱石炭を実現するプライオリティーは非常に高い」と話しました。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事