アベノミクスの総括、アベノミクスが円安株高の主因ではなかった
アベノミクスとはいったい何であったのか。いろいろと成果とされるものが指摘されることがあるが、最も効果が出たのは金融市場における円安とそれに伴う株高とされている。しかし、円安株高もアベノミクスが直接の要因とは考えられない。タイミングが良かったという見方もできる。
2012年末の安倍自民党総裁の輪転機発言が、急激な円安株高のきっかけとなったと思われたかもしれない。しかし、実際には円安株高を加速させた面はあったが、アベノミクスが円安株高を招いたわけではない。
2011年10月31日にドル円は75円32銭という過去最低を記録した。円相場が過去最高値を更新、つまり円高が進んだ。これはこの年の3月に起きた東日本大震災も影響したとの指摘もあった。日本の震災で円高というのもおかしいが、多額の保険金の支払いが予想される保険会社や復旧のための資金が必要な大企業が外貨建ての資産を売却して円資産を確保するのではという思惑もあったとされる。
この際の円高の根本的な原因は日本のデフレとか、日銀の緩和が足らないからではない。最大の要因であったのは、リーマン・ショックと呼ばれる金融不安と、それに続いて起きた欧州の信用不安によるものである。
ギリシャの債務問題が深刻化するとともに、欧州の債務危機がイタリアにも波及するのではとの懸念が出るなか、世界的なリスク回避の動きが強まった。外為市場では、リスクオフの動きからスイスフランや円が買い進まれたのである。
新たな危機に対して、日米欧の中央銀行は積極的な政策を取ってきた。ECBは、LTROと呼ばれる資金供給を行い、2012年7月にはユーロ存続のために必要な、いかなる措置を取る用意があると表明した。2012年9月のECB理事会では、市場から国債を買い取る新たな対策を打ち出し、このあたりをきっかけに欧州の信用不安が次第に後退してきた。
欧州の信用不安が円高の原因であるならば、その原因が解消されれば、当然反動が起きて元の水準に戻ることも予想される。つまり75円台まで円を買い込んだ向きが、そのポジションを元に戻すことが予想されるのである。
アベノミクスがひとつのきっかけとなり、この動きが加速されるとみたヘッジファンドたちがここで仕掛けてきた。このため、本来であればもう少し時間をかけて戻るはずのところが、短期間のうちに急激な動きとなった。株高も同様のいわゆるアンワインドと呼ばれような動きであった。
ドル円は結局、120円台まで買い戻され、リーマン・ショック前の水準に戻ったところで止まった。これはアベノミクスの効果がここで薄れたからとかではなく、世界的なリスクの後退によって、ドル円は元の水準に戻っただけといえる。