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「金日成」から「金正恩」の時代になっても変わらぬ北朝鮮の状況

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金日成銅像(写真:ロイター/アフロ)

7月8日は金日成主席の命日にあたる。亡くなって早、22年の歳月が過ぎたが、北朝鮮を取り巻く環境、状況は当時も今とほとんど変わらない。

孫の金正恩委員長は「核を開発する意思も能力もない」と公言していた祖父をまるであざ笑うかのように核とミサイル開発に拍車を掛け、その結果、北朝鮮は未曽有の孤立と外圧に直面している。

対米関係では祖父の悲願である平和協定の締結は依然として見通しが立たず、南北関係も凍結状態にある。祖父が苦心した中国との同盟関係にも亀裂が生じ、ロシアとの間にも溝が生じている。加えて肝心の経済、中でも食糧問題は未解決のままである。

では、祖父の金主席の時の状況はどうだったのか?当時、何を考え、どうしようとしていたのか?

労働新聞など北朝鮮のメディアには建前しか報じられないが、実は、第二次大戦後の同じ分断国であった東ドイツ(ドイツ民主共和国)のエーリッヒ・ホーネッカー国家評議会議長だけには本音を語っていた。

ドイツ統一後、ドイツ連邦文書保管所に保管されていた金日成-ホーネッカー対談記録によると、金主席とホーネッカー議長は過去3度会談している。1度目はホーネッカー議長が訪朝した1977年12月9日、2度目は金主席が東ドイツを訪問した1984年5月30日、そして3度目はホーネッカー議長が再訪朝した1988年10月19日。以下、主な発言を拾ってみる。

中ソ対立の狭間にあって

「我々が中国と友好関係を結んでいるのはソ連に反対しているからではない。社会主義建設のためだ。ソ連と中国さえ団結すれば、すべての問題が解決する。こうした話をソ連に伝えてもらいたい。実際に我々も中国の文化大革命の間には関係が良くなかった。中国は1,500kmに及ぶ国境線に拡声器を設置して、我々を『修正主義者』として非難した。そのため我が人民はゆっくり眠ることができなかった」(1977年12月9日)

中国との関係について

「1969年に中国とソ連の国境紛争が起きた時は大変だった。中国の兵士らが我が国境を越えて、攻めこんできたからだ。現地ではどう処理してよいかわからず、私のところに指示を仰ぎに来た。私はその時に『発砲せずに逮捕しろ』との命令を出した。幸いにもそれ以上、大事にいたらなかったが、衝突一歩手前までいった。また、それから5年間、両国の間で一切の対話がなかった。1974年にト小平が登場してから関係が改善された」(1984年5月30日)

米韓合同軍事演習について

「米韓合同軍事演習(チームスピリット)が終われば、我々は全国的に非常がかかり、労働者は軍隊に召集されるので、1か月半も生産がストップしてしまう。その打撃によって、農業と生産に大きな支障を来している。米国の軍事圧力のため人民が死にかけている。私の考えでは、駐韓米軍は共和国だけでなく、社会主義圏全体を脅かすために駐屯している。しかし、そう簡単に撤収しそうにもない。我々をやっつけるならば核兵器1個ないし2個もあれば十分だ。1千発も配備している理由は何か?結局、中国とソ連に対する圧力だ。我々の軍事力は相当に拡張されている。米軍の兵器を持っている南朝鮮(韓国)よりも我々が強い筈はない。我々には南侵の意思もなければ、できない」(1984年5月30日)

平和協定の提案について

「現在のように米軍が南朝鮮に駐屯している状況では統一は不可能だ。南朝鮮は米軍の植民地であり、軍事基地と変わらない。我々は軍縮など平和の提案を引き続き行っているが、朝鮮半島の緊張解消のためには3者(北朝鮮と米中)会談を開くべきだ。会談が開かれれば、米国に対して休戦協定を平和協定に移行すること、韓国に対しては不可侵条約の締結と10万~20万の線に兵力を相互削減することを提案するつもりだ。しかし、米国は中国を含めた4者会談を提案しており、中国がこれを拒否しているため実現できないでいる」(1984年5月30日)

食糧問題について

「我が人民が食べられるためには最小限で200万ヘクタールの農地が必要だ。ところが、現在、150万ヘクタールしかない。今後30万ヘクタール補充できれば、食糧を輸入しなくて済む。このため灌漑工事をやっているが、絶対的に土地が不足し、生産性も上がってない。我々はまだ深刻な経済問題を解決できないでいる。コメは共産主義で、第一の目標だ。生産性向上のための機械化に貴国の協力を求めたい」(1984年5月30日)

「我々はまだ、衣食住の基本問題を解決できないでいる。また、既存の軍事力を維持するうえでも経済的問題が多い。しかし、現在計画中の30万ヘクタールの農地開拓事業が成功すれば、食糧を輸入しないで済む。現在、南浦ダム工事に30万人も動員している」(1986年10月19日)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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