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進まぬ電子版新聞購読率、有料版は2%未満

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ タブレット機で新聞購読。なかなかスタイリッシュに見えるのだが

場所も取らず逐次更新され音声や映像も取得できる利点を持つことから、情報取得手段のトレンドは紙媒体からデジタル媒体に移行しつつある。それと共に従来4マスのうち紙を用いた新聞や雑誌は、その勢いは衰え、代替手段となるインターネット媒体、特に機動力に優れたスマートフォンやタブレット機に取って代わられつつある。

無論新聞などでもそれらの新世代媒体に向けてアプローチを続けている。新聞各社では自社新聞のダイジェスト版の記事を伝えるニュースサイトを運営し、「お試し版」的なプロモーションを続けているし、スマートフォンの普及拡大後には積極的に新聞の電子版を展開するようになった。

次のデータはライフメディアのリサーチバンクが2010年10月に発表した、新聞に関する調査結果によるもの。PC(パソコン)やスマートフォンで閲覧できる新聞の電子版(ここでは紙媒体の新聞と同等のデザイン・レイアウトによるもの、少なくとも記事内容が紙媒体と同じ量であるものを指す。記事の一部を掲載する、自社運営のニュースサイトは含まれない。ただし有料版で全文が読めるものは「新聞の電子版」扱いとする)について、利用意向を尋ねているが、現在利用中の人は6.5%に過ぎなかった。

↑ PCやスマホで閲覧できる新聞の電子版があるが利用したいと思うか
↑ PCやスマホで閲覧できる新聞の電子版があるが利用したいと思うか

現在使っていないが、有料でも使いたい人は2.0%。それ以外は7割近くが「無料ならば使いたい」。「紙媒体と同デザイン、あるいは同等文章が無料で読めるのなら、新聞の電子版を読むのもアリ」と考えている。無料版を使っているうちに「この内容ならば有料版でもっと多機能に使いこなしたい」と考える事例も多分に考えられるが、有料購読を期待できるのは、今調査対象母集団では2.0%しかいない。

それでは現在利用中の人のうち、どれ位が有料版を用いているのか。

↑ 現在利用している新聞の電子版は有料版か無料版か(電子版の新聞利用者限定)
↑ 現在利用している新聞の電子版は有料版か無料版か(電子版の新聞利用者限定)

新聞の電子版で有料版を使っている人は、電子版利用者では 20.5%+5.1% で 25.6% 。そして電子版利用者は調査対象母集団全体比では6.5%なので、25.6%×6.5%=1.7%。これが調査対象母集団全体比における、現在有料版を購読している人の割合となる。今調査の別項目で、紙媒体の新聞購読率は66.8%と出ているので、それの1/40程度でしかない。直上の「有料版有望層」2.0%が仮に全員有料版を購読したとしても3.7%、1/18程度に留まる。

紙媒体版の需要が無くなることはありえないが、セールス減退に伴い、各新聞社では電子版の普及・売り上げ増に期待する面が強い。勢いが出れば高いコストパフォーマンスが得られるため、低い損益分岐点での運用となり、早期黒字化もありえる。しかし現時点では有料版の売上のみではとても支え切れそうにない。現時点では、需要は大量にある「無料版利用希望層」からいかに売り上げを挙げるかを考えた方が賢明なようだ。

しかし無料版の品質・内容量を紙媒体版に近づけ、あるいは同等のものにすると、今度は紙媒体版の需要減退に拍車がかかる可能性が高い。そりゃそうだ。スマートフォンを持つ人が「紙の新聞と同じ内容を無料でスマホを使って読めますよ」と言われたら、多くの人が新聞は買わずに手元のスマホで読むに決まっている。

電子化は進めたいが、その挙動が自らの首を絞めかねない。このジレンマこそが、新聞社が今一番抱えている問題に違いない。今のところはそのジレンマに対し「紙版を購読してくれれば電子版はグンとお安くしますよ」という手段を用いているが(現時点では「当面の間」という表現で産経新聞のみがiPhone版は無料で公開している)、反発も強いのが実情である。海外ではその多くが、紙媒体版を購読していれば無料で利用できるというのに……。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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