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唯我独尊のシューターへ 28歳ながらも覚醒を感じさせる狩野祐介が秘める爆発力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
チームからもその得点能力が期待されている狩野祐介選手(中央・筆者撮影)

 滋賀レイクスターズから開幕から厳しい戦いを強いられている。シーズン第9節が終了した時点で3勝12敗と、西地区5位に低迷。リーグ全体でもワースト2位タイという状況だ。

 とはいえBリーグが誕生してから過去2年間は、2016-17シーズンが21勝39敗で地区最下位、2017-18シーズンも地区3位ながら24勝36敗と大きく負け越しており、端から見れば現在の成績に何の驚きもないのかもしれない。だが今シーズンのレイクスターズは“何か”が違うのだ。

 ここまでの3勝は、新潟BBアルビレックス、川崎ブレイブサンダース、栃木ブレックス──の3チームから挙げたもので、現在地区上位をを走る強豪チームから奪った勝利ばかりだ。また試合内容も上位チームを相手にしても試合途中までしっかり接戦に持ち込む試合展開が多く、決して単純に弱小チームとは言い切れないのだ。

 就任2年目のショーン・デニスHCも今シーズンのチームに期待を寄せるとともに、現在は苦しみながらも弱小チームから脱皮しようと喘いでいる時期だとして、以下のように現在のチーム状況を説明している。

 「このチームは常に全力で戦っているし、何があってもポジティブに対処してくれ、彼らの戦う姿勢は素晴らしいと思っている。コーチとしてこのチームに寄せる期待は大きい。まだ結果に結びついていないが常にハードワークをしていき、ここを堪え忍び努力し続けるしかないし、必ずいい結果に結びつくと信じている。

 このリーグでは日本人選手が外国籍選手に頼ってしまうのが習慣化しているように思うが、チームとして成功するためには日本人選手の貢献、働きというのが不可欠だと思っている。長期的に見ても日本人選手が成長できるように働きかけているところだ。これまで優勝したチームも栃木では古川孝敏選手が活躍していたし、東京も田中大貴選手の活躍があった。やはり日本人選手の活躍が必要になってくる。我々も有望な選手がおり、コーチとしても彼らの活躍に期待している」

 デニスHCが指摘するように、外国籍選手だけに頼らずに彼らをサポートする日本人選手たちの活躍は必要不可欠になってくるし、レイクスターズとしても日本人選手の中から安定的な得点を期待できる選手の台頭が必要になってくる。そういった意味でここまでの活躍をチェックしてみると、チームキャプテンを務める狩野祐介選手が明らかにシューターとして覚醒し始めているように感じている。

 まず開幕2戦目のアルビレックス戦でキャリアハイとなるチーム最多の26得点を挙げチームを勝利に導くと、今月10日の富山グラウジーズ戦ではさらにキャリアハイを更新する31得点を叩き出し終盤まで接戦を繰り広げている。この2試合とも現地で取材しいるのだが、コート上を縦横無尽に走り回り、少しでも相手選手のマークが外れると積極的にシュートを放ち、いとも簡単にリングに沈めていった。まだ試合によって得点にばらつきはあるものの、リズムを掴んだ時の狩野選手はまったく手のつけられない爆発力を発揮できることを証明している。

 28歳ながらもシューターとして成長をみせる狩野選手。本人は今シーズンの自身のプレーについてどう感じているのだろうか。

 「去年は並里選手がいて彼のプレーに合わせて動いたりだとか、そういうことをやりつつシュートを打っていたし、シュートを打つ本数も少なかったですけど、そういった選手がいなくなり、今年はみんなでバスケットをしようという選手が多いので、そこでたくさん打てるようになってますし、自分が点数をとろうと思ってプレーしています。ただここ何試合かは警戒されプレッシャーをかけられて苦しい思いをしていたので、今日(11月10日)は切り替えて外れても打とうという気持ちでやった結果だと思います」

 昨シーズンまで並里成選手(現琉球ゴールデンキングス)という大黒柱がいた。彼がPGというポジションだったこともあり、狩野選手も並里選手の動きに合わせるプレーを心がけていた。だが今シーズンは選手として独り立ちする環境になり、デニスHCからも積極的にシュートを打っていく姿勢を求められたことで、シューターとしての才能が開花し始めたのだ。

 今シーズンもここまで得点部門は外国籍選手が上位を独占し、日本人選手では川村卓也選手が21位が最上にランクしている状態だ。なかなか日本人選手が毎試合ハイスコアを記録するのは簡単ではない。だが狩野選手は現時点で日本人選手の中ですでに得点部門で4位にランク入りしており、着実に日本人のトップシューターに仲間入りしているように思う。

 「(日本のトップシューターたちに)近づいているとも思ってないですし、何も思ってないですね。そういった選手たちに勝ちたいとは思ってますけど、別に近づいているとは全然思ってないです。ああいった選手たちは勝ちに繋げているので、僕はまだまだですね」

 狩野選手が控えめとも思える発言をしているのは、それなりの理由がある。前述の31得点を挙げたグラウジーズ戦でのパフォーマンスだ。第3クォーター終了時点で狩野選手はチーム最多の26得点を挙げ、チームも67-57と10点差のリードをつけていた。しかし第4クォーターにグラウジーズの猛反撃を受け逆転負けを喫した。この試合の流れが変わってしまったクォーターで狩野選手はわずか3本しかシュートを打たず、得点したのもほぼ勝敗が決した後のことだった。

 「そこがダメなところですね。(第4クォーター序盤で)パスミスしたのも、僕が自分でフローターなりバンクショットなり打てるところをパスを選択してしまってカットされたので、あそこは打つべきだったと思います。

 慎重にいっちゃったのかもしれないですね。打てる場面があったんですけど、打ってなかったですね。まだまだってことですよね。でもまだまだ点数がとれると思うし打てるかなと思います。

 やっぱり貪欲さじゃないですかね。僕じゃなく見ている人が『あそこ打てたな』と思われている時点でダメだと思うので、そこをいち早く自分が気づいて打っていくべきだと思います。そこの強気という部分がまだまだ足りないですね。外したら自分の責任で、自分が入ると思ったらシュートを打つという強気でいくしかないですね」

 タイトルにある『唯我独尊のシューター』というのは決して悪い意味で使っているのではない。NBAの世界でいえばかつてのマイケル・ジョーダン選手、現在のステファン・カリー選手のように、また漫画の世界でいえば『スラムダンク』の流川楓のように、自分が打てると思ったら迷うことなくシュートを放ち、当然のようにそれらを決め続け完全に試合を制圧してしまう選手のことを指すものだ。

 もし狩野選手が第4クォーターも強気の姿勢を崩さず、シュートを打ち続け、チームを勝利に導いていたのなら、たぶん40得点前後を記録していたはずだ。そんな夢のような日本人シューターがBリーグに登場するかもしれないと想像しただけで何ともいえない高揚感を覚えてしまう。

 これからも狩野選手の更なる覚醒に期待したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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