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保育無償化は、本当に「タダ」なのか? 本田圭佑選手のツイートに触発されて

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
(写真:アフロ)

「タダは逆に人をダメにする」

プロサッカー選手の本田圭佑氏が、一昨日(11月25日)、次のようにツイートした。

無料は反対。特に今の資本主義においては。100円でも1000円でも取るべき。

タダは逆に人をダメにすると思う。

「3~5歳、認可保育無料 認可外3.5万円上限に助成へ」という見出しの当日の新聞記事を引用しながらの発言だった。

さっそくスポーツ報知が報じるなど(「本田圭佑、認可保育園の全員無料などの政策に『無料は反対。タダは逆に人をダメにする』)影響力ある方の発言だし、大事な論点を提起してくれていると思うので、この発言について少し考えてみたい。

タダはこわい

タダでサービスを提供することは人をダメにする(堕落させる)という考え方は、多くの人の中に根強くあると思う。

人は安易に手に入れたものを大切にしないし、サービスを享受する以上、たとえ100円でも1000円でも、対価を支払うことでその価値を実感すべきだというのは、きわめてまっとうな考え方だ。

タダに慣れてしまうと、人は努力しなくなる。

だから現金を給付する施策は、しばしば「バラマキによる人気取り」と批判されてきた。

保育は、現金ではなく現物によるサービス提供だが、タダにすることには似たようなリスクがあるという考えも、十分成り立つだろう。

しかし、保育を無償化するというのは、本当にタダにすることなのだろうか。

道路はタダ

私たちは、舗装された道路をタダで歩いている。

しかしそれがタダでないことを、私たちは知っている。

私たちの支払った税金が、めぐりめぐって道路に使われている。

だから、道路を歩くのはタダだが、道路はタダではない。

義務教育も同じだ。

公立小学校、中学校の授業料はタダだが、タダではない。

保育は「準義務教育」?

なんでこんなわかりきったことをわざわざ言うのかといえば、何を「タダ」にして何を「タダにしない」のかの線引きが、私たちの社会の選択だからだ。

道路はタダだが、高速道路はタダではない。

小学校・中学校はタダだが、保育はタダではなかった。

それを今回、保育も道路や義務教育の側に入れようとしている。

だから加藤勝信・厚労大臣は、先日、保育園を含む幼児教育を「準義務教育」だと言ったのだった。

加藤勝信厚生労働相は24日の衆院厚労委員会で、幼児期の教育について「準義務教育的なものとしての位置づけ」と述べ、義務教育の小・中学校とほぼ同じ重要性があるとの認識を示した。

立憲民主党の吉田統彦氏が保育の必要性への認識を質問したことに答えた。

政府は保育園を含む幼児教育を無償化する方針だが、待機児童の解消を優先するべきだとの批判もあり、加藤氏は政策の正当性を強調したとみられる。

(朝日新聞、2017年11月25日)

支払い方の違い

保育を義務教育の側に入れるべきではないという主張は、十分にありえる。

私は保育無償化に賛成だが、その線引きを日本社会として選択すべきでないという主張は、十分に成り立つ。

でもそれは、「タダにすると人をダメにする」という話とは、違うように思う。

私たちは義務教育をタダで受けて育った。道路もタダで歩いている。

たしかに使用料は払っていないが、税という別の形で支払っている。支払い方が違うだけだ。

私たち自身の「線引き問題」として

すべての公共サービスは、どれだけを税(公費)でまかなって、どれだけを自己負担(私費)とするのか、その線引きの検討対象になっている。

ただどちらも、出元は私たちの懐だ。

病院にかかるとき、ふだんから税や保険料を支払っていて、その代わり窓口負担が低い方がいいのか、それとも窓口負担は高くても、ふだんは税や保険料を支払わない方がいいのか。

何をどこまで「みんなの負担」とし、何をどこまで「(サービスを直接受ける)個々人の負担」とするのか。

道路は自己負担なし、高速道路は自己負担あり、義務教育は自己負担なし(給食費などは別だが)、保育は自己負担あり、

という線引きに私たちは慣れているから、その線引きの変更には戸惑いや疑問が生まれ、議論が生じる。

それは当然のことだし、望ましいことだ。

同時に、今までの線引きが完璧だという保証はないし、時代の変化とともに見直されてよいものでもある。

仕組みは複雑で、考えるのは面倒だ。が、政治家や官僚任せにせず、私たち自身の「線引き問題」として引き受けていきたい。

社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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