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ベンツ初の電気自動車、EQCを試乗

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真は全て筆者撮影

 いままでのどのメルセデス・ベンツよりもメルセデス・ベンツらしい。

 メルセデス・ベンツ初の電気自動車であるEQCを試乗して、図らずも最初に浮んだのはそんな言葉だ。付け加えるならその乗り味走り味は、フラッグシップサルーンであるSクラスと同等か? と思えるほどの緻密さや濃密さが存分に感じられた。

 電気自動車はそもそも内燃機関を搭載したクルマに比べ、「静かで滑らかで力強い」特性がある。それはモーターを用いて走るからで、騒音や振動が極めて少なく、継ぎ目のないシームレスな加速があり、アクセルを踏むと全くタイムラグなしで瞬時に最大トルクを得られるモーターの特性が、そんな印象を走りに与えるからだ。

 EQCはそうしたモーターの特性を、メルセデス・ベンツが130年以上に渡って培ってきた経験やノウハウが存分に活かされた「走る曲がる止まる」に見事融合していた。結果それが冒頭の言葉の通りの印象を筆者に与え、思わず深く唸ってしまったほどだ。

 今年の初めに発表されたメルセデス・ベンツ初の電気自動車であるEQCは、同社が販売するDセグメントのSUVであるGLCと基本部分を共有する。とはいえGLCとは85%は違う部品を使う。生産に関してもGLCと同様にドイツのブレーメン工場となり、同じラインを流れる。

 基本部分は共通だが床下には80kWhという容量のリチウムイオンバッテリーを搭載。重量650kgとなるこのバッテリーは、衝突時に影響が及ばないよう強固なアルミ押し出し材のフレームで囲われる構造となっており、この点はGLCとは大きく異なる部分だ。

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 3サイズは全長4761mm×全幅1884mm×全高1624mmでホイールベースは2873mm。GLCと比べるとEQCは全長で約90mm長く、約20mm低い。このフォルムは空力性能を追求したことによるもので、アンダーフロアもフラットな構造としてCD値で0.27を実現。テスラ・モデルXの0.25につぐなかなか優秀な数値といえる。

 インテリアはダッシュボード周りとドアトリム周りが新しい。目の前には巨大な液晶パネルが横たわる新世代のそれで、加えてエアコンの吹き出し口周りは、これまで見たことのない新たなデザインが採用される。また随所にカッパー(銅)色でアクセントが入るのが特徴だ。

 今回の国際試乗会はノルウェーのオスロで開催された。この地が選ばれた理由は欧州随一の”エレクトリック・シティ”であるため。水資源が豊富なノルウェーは、国の電源構成比で水力発電が約95%を占め、電気自動車にすればCO2の排出量は発電の段階からゼロになる。だからこそ、ここが試乗会場に選ばれたわけだ。

 実際に試乗した印象は動画を参照してもらえればと思う。

 それにしても、EQCを試乗して感じたのはやはりドイツの自動車メーカーらしく、これまでの自動車作りのノウハウを最大限に活かした電気自動車を作ってきたな、ということ。事実走らせるほどに丁寧な作り込みがなされていることを確信できる仕上がりの良さだ。

 バッテリーの容量80kWhは、ライバルに比べると控えめ。I-PACEの90kWhやe-tronの95kWhと比べると数値的には見劣りする。しかしながら最高出力は、前後のアクスルに一つずつ備わる合計2つのモーターで300kWと、I-PACEやe-tronと同じ出力を発生する。一方最大トルクは760Nmと、e-tronの664NmやI-PACEの696Nmを遥かに凌ぐ。さらに航続距離はNEDCで445〜471km、WLTPでは約417kmとされ、電費はNEDCで20.8〜19.7kWh/100km、WLTPで18.7kWh/100km。一方のI-PACEはWLTPモードで470kmの航続距離で電費は22.0kWh/100km。e-tronはWLTPモードで417kmの航続距離で電費は26.2〜22.6kWh/100km。つまりEQCは電費でアドバンテージがある。0−100km/h加速タイムの5.1秒は、e-tronの5.7秒を凌ぐものの、I-PACEの4.8秒には及ばない。が、オーバーオールで動力性能や燃費を見ると、ライバルと比べてパワーは同等、トルクは最も太く、電費も優れる、とかなりの商品力を備えている。

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 動画でも言っている通り、EQCの走りはその優れたスペック以上に、乗るほどに体にじんわりと染みてくる、メルセデス・ベンツらしい良さが存分に詰まったものだった。しかもそうしたメルセデス・ベンツらしい良さは、バッテリーとモーターによってこれまでのどのメルセデス・ベンツよりも緻密かつ濃密に感じるものに仕上げられており、かつてから素晴らしいフィーリングに支えられたメルセデス・ベンツの世界観がある意味究極的に表現できたといっても良いあdろう。

 気になる価格は、ドイツにおいて71281ユーロで、導入時記念モデルのEQC Edition 1886は84930.30ユーロと、日本円換算で約870〜1000万円程度となっている。日本でも年央には発表がなされるとアナウンスされており、年内には上陸を果たしそうだが、日本でメルセデス・ベンツは新型車導入時には導入記念モデルをまず設定するのが常。そう考えると導入時の記念モデルでは1000万円は確実に超えるだろう。この辺りは購入時のハードルとしては高い。

 しかしながら、試乗レポートとしての締めの言葉を記すとするならば、

 「電気自動車になってもやっぱりメルセデス・ベンツ」

 といえる1台だったし、これまでのどのメルセデスよりもメルセデスらしい、といえる1台だった。 

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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