G20と「人民の声」の狭間で――中国、硬軟使い分け
王毅外相は「訪日」したのではないとして笑顔を見せることも報道も禁じながら、二階幹事長には笑顔を見せ、谷内局長の訪中は大々的に報道する。追い詰められ硬軟使い分ける中国は、北朝鮮非難声明にまで賛同した。
◆笑顔を見せるか否かはネットユーザーの声に支配されている
尖閣諸島沖で漂流していた中国漁船の船員の命を日本の海上保安庁に救助された中国政府は、ネットユーザーの非難の声に追い込まれ、ようやく日本の功績を認めた。そのような面目丸つぶれの中、王毅外相が訪日することは「売国行為」に等しく、中国は対応に苦労した。そこで日中韓外相会談開催の日程調整発表を延期するなど苦しい抵抗を試みたものの、結局、8月24日に東京で開催された。
9月4日から中国の浙江省杭州市で開催されるG20に対する悪影響を避けるためである。
それでもなお、中国の外交部をはじめ中国政府系サイトは一律に「王毅外相は“訪日”などしていない。日本がどうしても日中韓外相会談開催のために日本に来てくれと頼んでくるので、仕方なく、“その用件を果たすために日本に行った”だけである」と書いた。
日本のメディアが「習近平政権はじまった以来、初めての訪日」と書いたことに対しても、「日本のメディアは“訪日”でないことを、分かっているのか?!」などと、実に苦しい批判をしていた。
このような状況だから、もし王毅外相が岸田外務大臣などに笑顔でも見せようものなら、どれだけ「売国奴」として叩かれるかわからない。そこで中国政府全体の方針として、笑顔を見せてはならない場面と見えてもいい場面を使い分けたのである。
二階幹事長に笑顔を見せたのは、二階氏は中国では強烈な親中派と位置付けられているからだ。
特に2015年5月に当時総務会長だった二階氏が3000人からなる訪中団(財界や日中友好団体の関係者らで構成)を率いて訪中し習近平国家主席と面談した際、握手した習主席の手を高々と掲げて見せたことがある。
このとき習主席は二階氏率いる訪中団の一行を「正義と良識のある日本人」などと褒めたたえた。
そんなこともあり、二階氏に会う時は笑顔を見せてもいいし、また「日本語を話しても許される」のである。
王毅外相はもともと駐日本国の中国大使を務めていた人。そのころは親日的態度で、日本語もペラペラ。しかし中国にとっては、「(歴史を反省しない)敵国日本の言葉を使うことは、日本にへつらったに等しい」。したがって習近平政権誕生以来、日本の要人と会う際に日本語を使うことはご法度となっている。それでも親中派とされている二階氏に対しては、「日本の中に敵と味方を形成する」という習近平政権のの戦略においては、許可されているのである。
それだけではない。
王毅外相の「訪日」に関しては、中国の中央テレビCCTVは、ただの一秒間も報道しなかった。
◆谷内局長訪中は大々的に報道
一方、谷内国家安全保障局長が訪中して李克強国務院総理(首相)と会ったことに関しては、CCTVが大きく報道した。それは日本が中国を訪問して「G20における日中首脳会談の実現を中国に頭を下げてお願いしに来た」という位置づけができるからだ。
日本が朝貢外交のために「北京詣で」をしたという形で、ネットでも書き立てていた。
中国共産党機関紙「人民日報」の日本語版も伝えており、李克強首相の表情からも読み取れよう。本当はニコリとしたいが、日本に笑顔を見せてはならない中国の「国情」がにじみでている。
言論の自由がない中国では、ネット言論が持つ力は尋常ではない。
インターネットというのは、日本とは位置づけが異なる。
世界でも最もネット言論を気にしているのは中国だと言っても過言ではないだろう。
こうまでしてでも、日中韓外相会談で強がりを見せたり、谷内局長の訪中を誇大報道したりする背景には、万一にもG20 で中国包囲網が形成されるのを恐れるからである。
◆北朝鮮非難報道声明に賛同した中国
その証拠に、あそこまで抵抗していた北朝鮮を非難する国連安全保障理事会の報道声明に対し、中国は8月26日、賛同の意を表するに至った。
中国が報道声明に難色を示していたのは、アメリカが韓国にTHAAD(地上配備型迎撃システム「終末高高度防衛」)ミサイルを配備することに対して強烈に反対していたためだったが、G20のためには「一時休戦」という道を選んだものと思われる。
その意味で、「こわがっている」のは中国政府の方で、怖がっている相手は国際社会と、何よりも自国のネット言論なのである。