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点滴中、腕には針が刺さっているわけではない話

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
知っていましたか、実は点滴って針が刺さっているわけではないのです(提供:アフロ)

以前、患者さんに点滴で治療をしていたところ、こんな風に言われたことがあります。

「先生、点滴中は針がささっていて危ないから腕は動かさない方がいいですよね」

私はお腹の手術をする外科の医者です。お腹を切るときにはだいたい患者さんに点滴をします。私が担当するほぼ全員の患者さんに、点滴での治療をしているでしょう。

しかし実は点滴について、あまりこれまで患者さんにくわしく説明をしたことがありませんでした。この記事では、絵を使いわかりやすく説明したいと思います。

結論から言えば、

点滴中は体に針がささっているわけではありません。ささっているものはプラスチック製の、柔らかくて非常に細いストローのようなもの

なのです。

それでは、点滴の管がどう入るかを実況中継してみましょう。

それでは、点滴が入ります

絵で説明します。まずこの赤いのが血管、青が点滴専用の針です。針の根元には白い「つつ」のようなものがあります。

画像はすべて筆者作成
画像はすべて筆者作成

(1) 針を血管に刺しましょう。刺す方の医者やナースは、ここで集中します。

針が血管に入った
針が血管に入った

イタタ!ちょっと痛みます。針が血管に入ると、針のおしりからは血が出ます。医者やナースはここで血が出ると、「よし、ちゃんと血管の中に針の先が入ったな」とひと安心します。

そして、次は・・・

(2) 「つつ」だけを進める

白い「つつ」だけが進んだ
白い「つつ」だけが進んだ

白い「つつ」だけが前に進んで、血管の中に入りました。この「つつ」は尖っていないので、血管をやぶることなくツルッと血管の内側を滑ります。この時、抵抗がないと「うまくいったな」と思います。抵抗があるときはたいてい失敗です。

(3) 針だけを抜く

青い針を抜きます
青い針を抜きます

ここで、「つつ」がブレないように注意しながら針だけをそっと抜きます。

白い「つつ」のおしりから血が出る
白い「つつ」のおしりから血が出る

針を全部抜きます。すると、今度は「つつ」のおしりから血が出てきます。

(4) 点滴のバッグと接続する

白い「つつ」のおしりを点滴とつなぎます
白い「つつ」のおしりを点滴とつなぎます

最後に点滴のバッグとつなげたら完成です。

以上見てきたように、血管や体の中には針は残っていません。白い「つつ」はプラスチックで出来ていて、ストローよりも柔らかくちょっと力を入れるとポキッと曲がってしまいます。

ですから、腕に点滴が入っていても基本的には腕を動かしても大丈夫です。ただ例外として、肘や手首に入っている場合は要注意。曲げると点滴の「つつ」が折れ曲がりすぐに中が血液で詰まってしまったり、「つつ」が抜けてしまったりします。

ちなみにこの記事では「つつ」と書いていますが、病院では「外筒」(がいとう)と呼んでいます。

たまに針で点滴をすることも

しかし例外として、針を血管の中に入れたまま点滴をすることがあります。これは入院する病院ではなく、クリニックなどで30分だけ点滴をするなどの場合に使われます。こんな見た目です。

トンボ針、医療機器販売のTCBホームページより引用
トンボ針、医療機器販売のTCBホームページより引用

通称「トンボ針」、トンボみたいな形をしています。正式には「翼状針(よくじょうしん)」といいます。このトンボの羽の部分をさす人がつまんで持てるように、こんな構造になっています。

この針は採血のときにもよく使われますが、ちくっとさしてこの針からそのまま点滴を短時間投与することもあります。

使い分けは?

では、このプラスチックの点滴とトンボ針、どう使い分けているのでしょうか。ざっくり言えば30分以内の点滴であればトンボ針、それ以上の長時間の点滴はプラスチック製と言えると思います。病院によって違いますので、心配な方は「これ、トンボ針ですか?」と看護師さんや医師に聞いてみるといいでしょう。

以上、点滴のお話でした。

(謝辞)

本記事はそもそもツイッターで話題になっていたテーマを、許可を得て筆者が記事化したものです。

ご快諾をいただきました@Invesdoctor先生に御礼申し上げます。

※参考文献など

テルモ ホームページ

医療機器販売のTCBホームページ

(追記 2017.8.27)

読者の方にご指摘いただいた点を追記致します。

医療関係者の方へ、保険医療上の算定用件としては、以下のようになっています。

「プラスチックカニューレ型静脈内留置針は、おおむね24時間以上にわたって経皮的静脈確保を必要があると判断した場合や6才未満の乳幼児、ショック症状またはショック状態に陥る危険性のある患者のうち翼状針による静脈留置が困難な場合に限り算定できます。」

(よくわかる点数表の解釈【上】 108ページより引用)

本記事内では、あくまで保険診療上の定義ではなく実際の医療の現場でどのように使い分けをされているかを説明しています。

また、翼状針との使い分けについて、「明確な基準はありませんが、」とありましたが、この表現は誤りであったため削除しました。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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