アウディが5連覇!耐久レースの面白さが詰まった2014年のル・マン
トヨタ、ポルシェ、アウディがハイブリッドプロトタイプカーで対決した2014年の「第82回ル・マン24時間耐久レース」。クラッシュやトラブル続出のドラマチックなレース展開となった24時間レースを制したのは「アウディ」の2号車(マーセル・ファスラー/ブノワ・トレルイエ/アンドレ・ロッテラー組)。2位には昨年優勝のアウディ1号車(ルーカス・ディ・グラッシ/マルク・ジェネ/トム・クリステンセン組)が入り、アウディが貫禄の1-2フィニッシュを果たした。
速さでレースをリードしたトヨタ。優勝を逃す。
予選でポールポジションを獲得した「トヨタレーシング」7号車(アレクサンダー・ブルツ/中嶋一貴/ステファン・サラザン組)の好ダッシュで始まった今年のル・マン。序盤からトヨタ7号車はハイペースで逃げ、2番手以降を大きく引き離していった。
スタートから1時間半後、予報通りに雨が降り出した。その雨脚はかなり強く、高速のストレート区間(ユノ・ディエール)では水しぶきで前が見えない程に。アウディ3号車に乗るマルコ・ボナノミがたまらずスローダウンした所に後続のトヨタ8号車やGTクラスのマシンが多重クラッシュ。これでトヨタ8号車とアウディ3号車はガードレールにヒットし、大きなダメージを負う。トヨタ8号車は何とか再スタートを切り、ピットで懸命の修復作業を行い、レースに復帰した。
このアクシデントでセーフティーカーが13.6kmのロングコースに2台導入され、運良く2番手との差を大きく広げる事ができたのがトヨタ7号車。その後、さらにリードを広げ、トヨタ7号車はレース前半を制圧して夜間走行へ。
しかし、夜明けを迎える直前、スタートから13時間を経過した所で、トヨタ7号車がストップしたとの情報が舞い込む。中嶋一貴に変わったばかりの走行に入った7号車は電気系トラブルに見舞われてしまった。中嶋によると「何の予兆もなく突然止まってしまった」とのことで、絶好調だった7号車は痛恨のトラブル発生で無念のリタイアとなってしまう。
残された8号車(アンソニー・デビッドソン/ニコラス・ラピエール/セバスチャン・ブエミ)は淡々と周回を重ね、ポルシェ2台の脱落にも助けられて総合3位表彰台を獲得。サバイバル戦となった中でアクシデントを乗り越えるリカバリーを見せた。
それにしても、7号車のトップ走行中のトラブル発生は何とも悔やまれる。トラブル発生を予測しにくい電気系トラブルだけに無念としか言いようがない。悲願のル・マン制覇を目標にここまで速さでWEC序盤戦を2連覇してきたトヨタレーシングだが、勝てるポテンシャルを持ちながら夢のル・マン優勝は実現できなかった。
タラレバを言っても仕方が無いが、8号車もスピードは充分だっただけにあの不運なクラッシュが無ければと考えると、3位に食い込んだとはいえ残念。しかしながら、日本のファンが23年ぶりの日本車優勝という大きな期待を抱く事ができた攻めの姿勢は素晴らしかったと思う。なかなかル・マンの神様に味方してもらえないトヨタ。来年こそは、というファンの期待を背に受け、挑戦し続けてもらいたい。
耐久王ポルシェもトラブルに泣く
今年のル・マンの最注目株だったポルシェ。16年ぶりに総合優勝を狙う最高峰クラスに復帰し、耐久王らしいセンセーショナルなカムバックをル・マンファンの誰もが期待していた。
ポルシェ陣営は序盤からアウディやトヨタと激しく順位争いを展開しながらも、決して無理なプッシュはしない姿勢に見えた。14号車(ロマン・デュマ/ニール・ジャニ/マーク・リーブ組)は序盤に燃料系トラブルで後退。そして、20号車(ティモ・ベルンハルド/ブレンダン・ハートレー/マーク・ウェバー組)はじっくりとレースが動くときを待った。
チャンスが訪れたのは残り4時間を切ったところ。トップを走行していたアウディ1号車にトラブルが発生し、ポルシェ20号車がトップに。トラブルで後退して2位となっていたアウディ2号車追う展開に。ポルシェは予定より早いピットインを敢行し、元F1ドライバーのマーク・ウェバーに最後のドライブを託す。一方でアウディ2号車は既に4回連続走行を行っていたアンドレ・ロッテラーをそのままコースに戻し、好調なペースを維持しながら走る作戦に。アウディ2号車はトップに立ち、ポルシェ20号車がウェバーのドライブで追いかける。しかし、ポルシェ20号車は突然のスローダウン。パワーユニットのトラブルでピットに戻るもそのまま痛恨のリタイアとなる。さらにその直後、14号車もギアボックストラブルでピットイン。これも修復叶わず、ポルシェは2台共に完走を果たせなかった。
ル・マンを16回制した耐久王ポルシェも、初のハイブリッドプロトタイプカーでの挑戦はまさかのトラブルに泣かされた。予選こそトヨタやアウディと互角の速さを見せたものの、16年ぶりの再挑戦を学びの年と位置づけて戦ったポルシェ。その戦いぶりはまさに耐久王という名に相応しいものだった。GTクラスでの長年の挑戦やロードゴーイングカーを含めたGTカーの分野では抜群の信頼性で定評があるポルシェでさえも、ハイブリッドの新時代は難しいものだった。しかしながら、20時間以上に渡りレースを戦ったこの経験とデータは今後の挑戦に大きなものをもたらすだろう。ポルシェは来年、きっと勝ちにくる。
ヨースト初優勝から30年。耐久王の座にまた1歩前進
トヨタ、ポルシェがトラブルに泣くレース展開の中、自分たちも度重なるトラブルを抱えながら1-2フィニッシュを成し遂げたアウディの戦いぶりは感銘を受けるものがあった。3メーカーのハイブリッド対決の中で、アウディはエンジンを3.7Lから4Lに排気量アップを行ったものの、これまで2年連続で優勝を飾っているディーゼルハイブリッドマシン「アウディR18 e-tronクワトロ」のコンセプトをドラスティックに変えることなく、勝利への鉄則を貫き通した点は現代の耐久王らしいものがあった。
スピードでは確かにトヨタに対して勝てる要素が乏しかったが、ル・マンは24時間をどう戦い、最後をどう締めくくるかの競争。トラブルが起これば問題を修復、克服し、勝負の時を待つ姿勢は素晴らしいものがあったし、終盤のポルシェとの対決の局面ではロッテラーのドライブを続行させるなど、攻めの姿勢を見せたことも実に王者らしいものだった。
アウディワークスチームのレース活動を担うドイツの「ヨースト・レーシング」の経験や勘、そして長年の勝利へのノウハウはやはりダテではない。ヨーストは1984年にポルシェ956でル・マンを初制覇。それ以来、80年代にはポルシェのグループCカーで2勝。90年代にはオープン2シーターのポルシェWSC95で2勝。2000年代に入ってからはアウディとベントレーのレース活動を担い、11勝をあげた。初優勝の84年から数えても、31回のうち15勝というヨーストが刻んだ数字が全てを証明している。
トヨタは3年目の挑戦、ポルシェは復帰の初年度、そしてアウディは16年目。今年のアウディの勝ち方を見ていると、ル・マン24時間レースは長く挑戦し続けることが何より大事なのだと感じた。