北朝鮮通貨の価値が半年で4分の1になり復活したモノ
北朝鮮でライターが普及し始めたのは、1990年代以降のことだ。それ以前は、国産のマッチを使うことが一般的だったが、未曾有の食糧難と経済危機「苦難の行軍」で、マッチ工場が稼働を中断した。
その穴埋めに中国から持ち込まれた大量のライターが出回ったことで、マッチを使う文化は消え去った。それが最近になって復活しつつあるという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、最近になって再びマッチが流通するようになった。その原因は通貨安だ。
道内の成川(ソンチョン)と殷山(ウンサン)では今月10日の時点で、1ドル(約153円)が3万3000北朝鮮ウォンから4万北朝鮮ウォンになった。デイリーNKの調査では、今年5月末までは1ドル8000北朝鮮ウォン代をキープしていたが、その後ウォン安が進み、現地では先月下旬、2万5000北朝鮮ウォンまで下がっていた。ウォン安がさらに進み、半年で4分の1になったことになる。
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なお、レートは地方差があり、値動きが激しいため、全国的にどこまでウォン安が進んでいるのか把握は難しい。
それに伴い、中国製のライターが2000北朝鮮ウォンだったのが5000北朝鮮ウォンに、ライターの石は300北朝鮮ウォンが1000北朝鮮ウォンに、ガスの充填が500北朝鮮ウォンから2000北朝鮮ウォンにそれぞれ大幅値上げした。
軍需工場の成川郡乾電池工場は、これを商機と見て、生産指標(計画)にないマッチの生産を始めた。マッチは火薬と木くずさえあればすぐにでも生産できるため、軍需工場にはもってこいの商品だ。これに負けじと日用品工場も火薬を購入してマッチの生産に入った。
ライターの主な使い道はタバコやかまど、オンドル(床暖房)だが、慈江道(チャガンド)の情報筋は、「最近は金持ち以外、価格の高いライターではなく、マッチでタバコやかまどに火を付ける」と述べた。
苦難の行軍以降は、細々と国が主催する宴会で使うものと、備蓄用の戦争予備物資を少量だけ生産してきた前川(チョンチョン)マッチ工場は、フル稼働でマッチ生産を行うようになった。なお、宴会では安全上の理由からライターが使用できないことになっている。
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慈江道には軍需工場が密集しており、原料の火薬の調達には困らない。他の工場もこれを機にマッチ生産を開始し、国営商店や商人に安く卸している。
平安南道(ピョンアンナムド)と咸鏡南道(ハムギョンナムド)の市場では、小さな箱入りマッチが2000北朝鮮ウォン、大型が5000〜6000北朝鮮ウォンで売られている。