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中国、超大型ロケット長征5号復活。火星探査機打ち上げも可能に

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
出典:CCTV Web中継より

2019年12月27日21時45分(日本時間)、中国 海南省文昌市の中国文昌宇宙発射センターから、中国最大の衛星打ち上げロケット「長征5号」3号機が打ち上げられた。2017年の2号機打ち上げ失敗から2年5カ月ぶりの打ち上げは成功し、技術実証衛星「実践20号」を目標の軌道に投入した。

ロケット開発を行った中国航天科技集団(CASC)は、長征5号3号機打ち上げを「すべて成功」と発表している。

出典:中国航天科技集団(CASC)
出典:中国航天科技集団(CASC)

長征5号ロケットは、現在7種類が開発・運用されている中国の衛星打ち上げロケットで最大となる超大型ロケット。静止トランスファ軌道に13トンの衛星を投入する能力を持ち、日本の大型ロケットH-IIBロケット(静止トランスファ軌道に約8トン)よりも搭載能力が大きく、アメリカの超大型ロケット「Delta IV Heavy」と並ぶ。2016年に長征5号1号機が打ち上げられたが、2017年7月にエンジンの故障で2号機の打ち上げに失敗。原因究明と改良を進めていた。

故障の原因は液体水素・液体酸素を推進剤とする第1段のエンジンのターボポンプにあると発表され、設計変更を行って3号機の打ち上げとなった。打ち上げは予定通りの時刻に行われた。

補助ブースターの切り離しなど、飛行中の長征5号からの映像も配信された。出典:CCTV Web中継より
補助ブースターの切り離しなど、飛行中の長征5号からの映像も配信された。出典:CCTV Web中継より
飛行中の第2段。出典:CCTV Web中継より
飛行中の第2段。出典:CCTV Web中継より

搭載された実践20号衛星は、静止通信衛星の技術実証機。現在の通信衛星で使われている周波数よりもさらに大容量通信が可能となるQ帯、V帯の帯域で通信を行う目的で、成功すれば衛星通信で中国の衛星が一歩先んじることになる。

火星探査機、月サンプルリターン探査機を打ち上げ

長征5号の打ち上げ成功により、中国は開発中の火星探査機打ち上げが可能となった。2020年夏には「火星1号」探査機を打ち上げ、中国初の火星周回探査とローバーによる表面探査を実施する目標だ。火星へ探査機を送るには長征5号級の大きな打ち上げ能力が必要となる。長征5号の復活が遅れた場合、2020年中の目標が達成できず、2022年の新たな機会を待たなければならない可能性もあった。

2020年後半には、月探査機「嫦娥5号」による月面からのサンプルリターンも予定されている。このミッションでも長征5号の大きな打ち上げ能力を必要とし、嫦娥4号で月の裏側へ探査機を着陸させた技術と実績を、最終的に月の南極域から無人探査機によるサンプルリターンへと継承させる目標だ。

また、長征5号は中国が2022年ごろの完成、運用開始を目標としている独自の有人宇宙施設「中国宇宙ステーション(CSS:China Space Station)」の打ち上げにも使用される。低軌道への打ち上げ能力を強化した長征5Bロケットが使用される予定で、コアモジュールや実験モジュールを打ち上げる。

ロケットの応援キャラクターも登場した。出典:CCTV Web中継より
ロケットの応援キャラクターも登場した。出典:CCTV Web中継より

CSSでは参加を希望する国から実験の公募が行われており、日本を含め17カ国9件の宇宙実験が採択された。米NASAはCSSの完成で国際宇宙ステーション(ISS)への国際的な関心が低下することを懸念しており、地球低軌道の利用を拡大する方向だ。中国の大型宇宙ミッションの要となる長征5号ロケットが再び打ち上げ可能になったことで、2020年から2022年にかけて中国の大きな宇宙活動が注目される可能性がある。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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