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夏の甲子園も中止? いったい何が、問題なのか?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
「夏の甲子園中止へ」の報道があった。いったい何が一番の問題なのか?(筆者撮影)

 「夏の甲子園中止へ」。有力スポーツ紙に衝撃の見出しが躍った。センバツ中止に続くショッキングなニュースだ。初めに断っておくが、これは「決定」ではない。20日に開かれる大会の運営委員会で一定の方向性が示されるはずだった。ただ、追随する報道もあり、もはやあと戻りできない状況なのは間違いない。長引く新型コロナ禍で、通常開催は困難と覚悟していたが、実際に夏も中止となると、現在の3年生は「甲子園なし」の世代となってしまう。緊急事態宣言が39県で解除された直後で、好転の兆しも見え始めたタイミングだけに、いったい何が開催を阻む障害になったのだろうか?

「健康」だけで夏も中止?

 センバツ中止が決まった日(3月11日)の会見で、高野連の八田英二会長(71)は、「選手の健康を第一に考えての苦渋の決断」と理由を説明した。感染が広がり始めた時期でもあり、その後、1か月もたたないうちに「緊急事態宣言」が出されたことを考え合わせれば、正しい決断だった。そして現在はどうか。全国一律の宣言が、14日に39県で解除されたばかり。つまり、収束の兆しが見え始めているのだ。センバツ開催を阻んだ「健康第一」だけで、夏の開催も断念せざるを得ないものなのか?

地方大会が足並み揃えられず

 夏の大会は、実は非常に長い。甲子園の大会そのものは16日間程度だが、地方大会(予選)は、沖縄や南北の北海道などが例年なら6月下旬には始まるので、2か月以上の長丁場になる。全国的に長引く休校とそれに伴う部活動の停止で、大半のチームが練習もできていない。新入生の顔も知らないチームもあるだろう。宣言が解除されたからと言って、すぐに活動が始められるわけではない。本番までの「準備期間」があまりに短いのだ。感染者ゼロの岩手などは練習も再開していると聞く。しかし、加盟校が多い東京など首都圏と京阪神、それに北海道は、宣言も継続されたままで、練習再開のメドすら立っていない。49の地方大会が足並みを揃えるのは不可能に近い。準備期間が短すぎることが、最大のネックなのだろう。

夏休み短縮で学業優先

 休校の影響は、夏休みの短縮にも直結する。丸2か月の休校で遅れた学業は、夏休みを全部返上しても取り戻せない。すでに夏休みの短縮を打ち出している自治体もあると聞くが、夏の地方大会は、本来なら夏休みに入る7月中旬から本格化する。仮に、夏休みが2週間程度になれば、甲子園の大会そのものも日数オーバーになってしまう。高野連ホームページ上の日本学生野球憲章には、「部員の教育を受ける権利を妨げてはならない」とあり、「そのためには、大会の開催時期などに配慮しなければならない」(第2章『学校教育の一環としての野球部活動』から抜粋)とうたっている。学生(高校生)の本分である学業を優先させるのは当たり前と言える。すでに今夏の甲子園の開幕は8月10日と決まっていて、球場の使用期間は動かせない。

長距離移動など感染リスク

 そしてやはり、「健康問題」が立ちはだかる。野球はプレーそのものにおいては、比較的「密」な状態を回避しやすい競技だが、甲子園のある関西まで、飛行機や新幹線を使って遠距離移動しなければならない高校が、出場校の大半を占めている。実は、この長時間にわたる団体での移動が最も感染リスクが高く、センバツでも一番、問題視された。1試合ごとにベンチを空にして消毒する必要もあるようで、これは地方大会でも同じことだ。センバツが開催を模索している時期にも、「感染者が一人でも出たら、そこで大会を打ち切る」と言っていた。無観客開催を前提としても、「夏の2か月間に、選手だけでなく指導者や関係者に一人の感染者も出さない」と言い切れるだろうか。

開催可否は20日に結論

 プロ野球は6月19日の開幕をめざして準備している模様だ。全国のトップを切って、沖縄大会が翌20日に開幕することになっていた(その後7月開幕に日程変更)ため、「プロが始めます。明日からは、球児たちも頑張れ」とエールを送っているように思えた。それこそ球界一丸の表れだと、好意的に受け止めていた。もし、甲子園大会がなくなれば、プロ野球に与える影響も少なくない。選手たちは全員、甲子園をめざした高校球児だったからだ。開催の可否は来週20日にも判明する。このままだと今の3年生たちは、あまりにもかわいそうすぎる。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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