16歳美少女と中年おじさんが…太宰治が描いた「カチカチ山」の衝撃的な物語
第二次世界大戦前後、日本作家として数々の名作を誕生させた「太宰治」。
彼は思想活動の挫折で自殺未遂や薬物中毒を繰り返し過酷な人生を送った一方で、「走れメロス」や「人間失格」など現在の教科書にも採用される名作を次々に執筆しました。
今回は、太宰治が日本童話を独自に解釈した物語集「お伽草紙」より「カチカチ山」について紹介します。
※本記事の内容は様々な方に歴史の魅力を感じていただけるよう、史実を大筋にした「諸説あり・省略あり」でお届けしています。
・原作「カチカチ山」とは
原作「カチカチ山」は、徳島県三好市に伝わる狸伝説のひとつ。
悪いことをすると自分に返ってくるという「因果応報」の教訓を説いた物語です。
ある日の朝、老爺と老婆が目を覚ますと畑が狸に荒らされていました。
困り果てた老爺は畑に罠を仕掛けて狸を捕まえることにします。
まんまと罠に掛かり捕まった狸は、縄に縛られて老爺の家に連れて行かれました。
狸を捕まえた老爺は、一旦畑の仕事へ。
鍋を作りながら狸を見張るよう老爺にいわれていた老婆ですが、嘘泣きをはじめた狸を不憫に思い縄を解いてしまいます。
自由になった狸は周辺の鈍器で老婆の頭を殴り撲殺。作りかけの鍋に老婆の肉を入れ、老婆に化けた状態で、帰宅した老爺に「狸汁」とだまして「婆汁」を飲ませたのです。
後から真実を知った老爺が泣き崩れていると、何事かと様子を見にきた兎が事情を尋ねました。
事の顛末を知った兎は「わたしが老婆の仇を討つよ」と老爺を慰めます。
その後、狸を騙して枯草を背負わせた兎は狸の尻尾に火を付け、燃やしてしまうのです。
大火傷を負った狸は、兎に薬だと渡された激薬を体中に塗りたくり、その後も騙されて泥船に乗り溺死してしまうのでした。
最近の作品は子供向けにリメイクされたものも多いですが、本来は悪狸が老婆を撲殺したり、成敗を目的にしている兎が火傷を負った狸の傷口をえぐったり、泥舟で溺死させたりするなど、意外にもグロテスクな内容なのです。
・太宰治が解釈したカチカチ山
太宰治が解釈したカチカチ山は、原作の大筋通り「兎が老婆の仇を討つ」という物語なのですが、登場人物は16歳の美少女兎と彼女に恋をする醜男な中年狸という設定に書き換えられ、恋愛要素も盛り込まれています。
太宰治は「兎の女々しい復讐方法から女性説を思いつき、狸も何度も騙されて間抜けすぎるため、恋をして盲目になっていたのではないか」と解釈したのです。
そのため、太宰治が解釈したカチカチ山は「恋に落ちた狸男の哀れな顛末と彼の恋心を利用する兎少女の狡猾さ」に重点を置いて描かれています。
兎は拒絶反応を示しながらも、好意を伝えてくる狸の恋心を上手く利用。最後の最後まで兎の企みに気づけなかった狸は、泥船に乗せられて沈みゆくなか「惚れたが悪いか」と叫んで溺死してしまいます。
良い意味でも悪い意味でも、「女性の美しさや残忍性」「男性の純粋さや愚かさ」をテーマにした作品です。