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日本代表次期ヘッドコーチ問題。「誰を選ぶか」より大切なこと。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真左からジョセフ、藤井(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表のワールドカップフランス大会での戦いが終わった。現地時間10月8日のアルゼンチン代表戦を27―39で落とし、予選プールDでの戦績を2勝2敗の3位とし、2大会ぶりのグループステージ敗退となった。

「持っているものをすべて出し切って戦った。勝ちか負けかの責任は私にある。それは真摯に受け止め、次につなげていきたいです」

 こう語るのは藤井雄一郎ナショナルチームディレクター。同9日の一夜明け会見に応じた。

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチとは現役時代から親交が深く、2016年秋から続いてきた現体制を2018年から本格的に支援。最初の肩書はサンウルブズの要職。サンウルブズとは、2016年からの5シーズン、国際リーグのスーパーラグビーに参戦していた日本のチーム。代表強化に寄与した。

 今大会限りで解散するジョセフ体制の功績と今後の課題、次期ヘッドコーチ選考への思いを口にした。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——アルゼンチン代表戦後は。

「ホテルで夕食を摂り、お酒を飲み、です。遅くまで飲んでいた選手もいるかもしれないですけど。ここでいったん終わりなので、寂しい気持ちもありながら、わいわいやっていた感じがありました」

——ジョセフと直接、話したか。

「横に座って一緒に飲んで。サンウルブズから始まり苦労も、色んなこともありました。負けはしましたけど、十分持てる力を出し切ったと思うので、ラグビーをいい方向に向かせられたんじゃないかなという話をしました」

——印象的だったことは。

「特に大きい話はしてないですけど、部屋でたまたま2人きりになった時に、ありがとうという感じで、その時だけ涙を流していたと思うんですけど。人前ではなかなか泣かない男なので。それで、しんみりした感じのことはありました」

——改めて、ジョセフヘッドコーチの功績は。

「長い間、ワールドカップでも勝てず、2015年少し勝てるようになり、ベスト8まで行けるかというところまでいった(イングランド大会に3勝)。ジェイミーはその時の選手も使いつつ、若い選手も成長させた。(8強入りした日本大会から通算して)ワールドカップで6勝3敗。自分たちもできると示した。彼も日本が大好きだったのですが、彼は次に向けて進むことに。日本代表もこれから続いていく。レビューして、次にバトンを渡したいです。

 コーチ陣もスタッフもほぼほぼ変わらない。チームは絆という言葉を使っていましたが、本当にファミリー。ジェイミーはそれを目指していた。強い組織を作る。そのやり方は昔(前職のハイランダーズ時代)から変わらないです。チームとしてプラスアルファを出せるような文化ができた。それは他のコーチにはない一番の彼の強みです」

——日本大会と比べ大会登録メンバーが31名から33名に拡大。一方、大会中に試合に出られなかった選手の数は当時と同じ5名。7月の強化試合から固定メンバーで戦うことが多かった。日本大会時に課題となった選手層についてはどう考えるか。

「(出番のなかった選手も)最初(大会前)のイタリア代表戦、パシフィック・ネーションズカップなどで、使おうかなと思った選手がほとんどです。やはり主軸の選手すら試合数が少なかったので、彼らに試合経験を積ませたということ。勝っていたらまた違ったかもしれないですが(7~8月は1勝5敗)、そういう意味で、(選手起用の幅は)ちょっと前回と同じような感じになってしまったと。『〇〇に経験を積ませて…』というところまで余裕がなかったのが現状です」

——今回、アルゼンチン代表に敗戦しました。相手と比べて足りなかったもの、今後必要なものは。

「以前からずっと言っていますが、国際試合(の経験)です。(強豪との代表戦では)日本代表はベストのチームで戦わないといけないので、色んな選手にチャンスのある試合は組みにくい。スーパーラグビーやジュニアの代表で国際経験を積ませてあげられる環境を作ることが大事。これはもう、何年も言い続けていることなんですけど。

(点を)獲ったらすぐに獲られる(後半に2度、発生)。選手は皆、頑張っているんですけど、頑張らないといけない時に頑張れなかった。その辺の、勝負どころは、経験を積んでいかないと上っていかない。チーム内の競争を含め、層を厚くする必要はあると思います」

——理想的な国際試合への準備を、リーグワンの進行とどう両立させるか。

「これが難しくて。イタリアだとベネトン、ゼブラというチームから集まっていて、彼らは欧州の大会(強豪国のクラブ同士のリーグ戦)に出ていて、それ自体が強化に繋がっている。ただ我々は、全てがリーグワンから借りている選手。戻ったらゼロからのスタートになる。

 何よりチームに負担をかけているので、リーグワンの日程と代表のスケジュール(の兼ね合いは)は大切になる。私がどうこうというのは言えないですが――来年はテストマッチが増えると聞くので――選手の身体、ウェルフェアを鑑み、リーグと話していいスケジュールを組んでくれたら」

——若手の伸びも期待されるが。

「代表スコッドのなかで若手を使うことはできても、リーグ全体の底上げはジェイミーの仕事ではない。ジェイミーはいまいるスコッドを強化してどうやって勝つかを考えること。リーグの形、やり方は、日本協会(日本ラグビーフットボール協会)が腰を据えて考えないといけない。そこ(代表)にどういい選手を送り込むかの構造を作らないと。基本的にヘッドコーチはどんどん交代していく。そこで全てがヘッドコーチの責任になってしまうと…」

——選手個人で海外に挑戦することへの期待、もしくはその環境を整えることへの考えは。

「僕は以前から、『リーグワンとスーパーラグビーがほぼ同じ日程でやっているので、それぞれのシーズン終了後にチャンピオン同士のクロスボーダーマッチをやればいい』と話していた。いまはその時期に代表戦が入ったので難しいですが、チャンピオンシップの話もあります(日本代表の国際大会参加が議論されている件か)。もしその話があるのであれば乗っていけばいい。ただ、具体的なことは代表サイド(ジョセフら首脳陣)には降りてきていない。専務理事(日本協会の岩渕健輔氏)が考えることなのかなと思います」

 選手層の拡大を促す仕組み作りの重要性については、日本大会後から提言。その際のアイデアの多くは、コロナ禍もあってか前には進まなかった。

 今回、話題に挙げたスーパーラグビーとリーグワンによるクロスボーダーマッチも、かねて藤井が望んでいた計画のひとつ。こちらは今年までに連携を結んだニュージーランド協会、オーストラリア協会、さらにはリーグワン側が歩調を合わせながら、時間をかけて実現を目指している。

 ここからの話題は、日本代表の次期ヘッドコーチについて。

 日本協会はかねて、選考業務の一部をオジャーズ ベルンソン社に委託。国際的な指導者採用実績のある同社のもとで公募をおこない、リストアップされた面々を絞り込み、最終的には、ヘッドコーチ選考委員会、および日本協会の土田雅人会長、岩渕健輔専務理事が決断する。

 選考過程に公募を用いたことについては、日本協会は、「第三者の評価も交えつつ透明性・公平性をもってヘッドコーチの選考を進めること」を目的としていると説明。募集はすでに締め切っている。

 日本協会側が日本での経験、実績、指導者として残してきた結果などを求めるなか、土田会長によれば、オジャース ベルンソン社側はリーグワンで活躍する日本人指導者らに応募を打診。以後、選択肢に残ったのは、5名程度の海外出身者だという。

 日本協会の理事の一員にあってひときわジョセフ体制に近い立場の藤井は、どんな見解を示すか。

——次期ヘッドコーチには、どんな資質が求められるか。

「色々な噂も出ていますけど、協会がどういうコンセプトでヘッドコーチを連れてきているのか、選手、各チームに説明できる人でないといけない。委託業者に頼んだからという理由だけでは、選手もチームも納得しません。そんなことはしないと思いますが。

 しっかりとした理由のもとヘッドコーチを選べば、選手もついていくでしょうし、そのなかで必要なことがあれば私たちも皆、日本にいますので、サポートしていきたいなと思います」

 誰がヘッドコーチになるかより、その人がどうヘッドコーチになるかが重要との指摘だ。選手層拡大のための仕組み作りへの提言も、ヘッドコーチの人選を問う以前の課題という意味では共通する。

 藤井は、「噂」のひとつにまつわる問答にも応じてくれた。

——1シーズン以上ジョセフ組を支えたコーチ陣のうち、トニー・ブラウンアシスタントコーチだけが次の仕事を発表していません。希代の戦術家の次の進路について、おわかりのことは。

「基本的にはラグビーが大好きなので、必ずどこかでコーチングはする。中身は聞いていない。ただ、公募は、してないです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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