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世界に取り残される日本を象徴。日本~アメリカ路線は満席でも日本に入国しない外国人が9割以上という実態

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
ロサンゼルス空港のANAチェックインカウンターには長い行列(5月4日、筆者撮影)

 世界は次々に観光や短期のビジネス渡航での入国を再開しているなか、日本は訪日外国人観光客(インバウンド)の入国を認めていない。日本人は欧米や東南アジア、オセアニアなど観光でも行ける国が増えており、今年のGWは2年以上ぶりに海外へ渡航した旅行者の姿が羽田空港や成田空港などで見られた。

 ハワイ便などは日本人の利用が多かったが、GW期間中に日本~アメリカ、日本~東南アジアのANA・JAL便を利用した日本人、特に成田発着便の利用者から多く聞こえてきた声が「飛行機は満席だけど日本人は10人くらいしかいなかった」「乗っている人の9割以上が成田空港で国際線同士の乗り継ぎだった」という声だ。

特に成田空港発着のANA・JALのアメリカ便・東南アジア便では9割以上が外国人の乗り継ぎ需要

 筆者自身も4月10日にANAのロサンゼルス→羽田、5月3日には同じくANAのロサンゼルス→成田の便を利用したが、両便ともにエコノミークラスとプレミアムエコノミークラスは満席だった。4月10日にロサンゼルスから羽田行きを利用した際には2割程度は日本人及び日本に入国できるビザ保有の外国人でそれ以外は羽田空港でアジア各都市へ乗り継ぎする外国人であったが、5月3日に成田行きを利用した際には搭乗者の9割以上が成田空港で入国せずにそのまま乗り継ぎで東南アジアへ向かう外国人だった。特にベトナムへの乗り継ぎ客が多いように感じた。

ロサンゼルスのANA成田行きの搭乗ゲート前では、待っている乗客のほとんどが外国人だった(5月3日、筆者撮影 以下全て筆者撮影)
ロサンゼルスのANA成田行きの搭乗ゲート前では、待っている乗客のほとんどが外国人だった(5月3日、筆者撮影 以下全て筆者撮影)

満席なのに日本に入国する日本人は15人以下だった

 現在、羽田空港や成田空港に到着する便では、「日本に入国しない国際線同士の乗り継ぎ旅客」と「日本に入国する旅客」に分かれて飛行機から降りる措置が取られている。便によってどちらを先に降機させるかは異なるが、5月4日に成田空港に到着した筆者が搭乗した便では国際線乗り継ぎの旅客が先に飛行機を降りた。その段階で機内に残ったのが日本に入国する人(その多くは日本人)だったが、その数は15人弱しかいなかった。200人近く乗っているなかで、1割弱という状況である。

 同時期に日本に帰国した人の情報を総合すると、日本人の帰国は羽田便利用者の方が多いようで、成田に到着するアメリカや東南アジアからの便の多くが乗り継ぎで、ANAやJALなど日本の航空会社の便で日本人が1割程度もしくは1割以下という便が多くあったようだ。

エコノミークラスの機内の様子。この日はエコノミークラスとプレミアムエコノミーは満席だった。
エコノミークラスの機内の様子。この日はエコノミークラスとプレミアムエコノミーは満席だった。

成田空港では、国際線乗り継ぎ客と日本入国者が交わらないように、それぞれを分けて飛行機から降ろす措置が取られている(5月4日、成田空港第1ターミナル南ウイングで撮影)
成田空港では、国際線乗り継ぎ客と日本入国者が交わらないように、それぞれを分けて飛行機から降ろす措置が取られている(5月4日、成田空港第1ターミナル南ウイングで撮影)

東南アジアの入国緩和が追い風に4月から状況は一変

 取材を進めてみると、4月に入ってから状況が変わったようだ。昨年から観光目的でもワクチン2回接種以上など一定の条件を満たすことで観光やビジネス渡航などでの短期滞在でも入国が認められていたアメリカやヨーロッパ各国に加え、今年に入ってからはタイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドなど東南アジアやオセアニアの多くの国でも観光やビジネス渡航が可能となった。

 その中でも大きく変わったのがタイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピンなど東南アジア各国の入国制限が大きく緩和されたことだ。特に4月以降、アメリカと東南アジアを移動する人が急増していることが背景にある。ANAやJALのアメリカ路線及び東南アジア路線は新型コロナウイルスの感染拡大以降、ガラガラの状態が続き、昨年までは多くの便でエコノミークラスでも3席もしくは4席を1人で使って横になることができたが、今はエコノミークラスを中心に満席に近い便が続出している。

 これは10年近く前からANAやJALが進めてきた「3国間流動」を強化していた成果とも言える。筆者が昨年(2021年)8月にロサンゼルス→羽田を利用した際には、東南アジアも厳しい入国制限を実施していたこともあり、飛行機はガラガラだった。

3国間流動の意味は?

 この「3国間流動」という言葉の意味は、日本の航空会社においては、成田空港や羽田空港で日本に入国せずに国際線同士を乗り継ぐもので、主にアジアと北米の流動を日本経由で利用してもらうことによって、日本~アジア、日本~北米の両方の搭乗率に貢献することになる。

 日本人の海外旅行者は年間2000万人程度であり、今後微増はしても激増する可能性はそれほど高くなく、それよりもインバウンド(訪日外国人観光客)、更にアジア~北米間の需要を取り込む方が航空会社にとっても利用者増に繋がるということで、ANAやJALでは時間帯によって成田乗り継ぎと羽田乗り継ぎの両方で3国間流動の需要をコロナ前から強化していた。

 ANAはユナイテッド航空、JALはアメリカン航空とそれぞれ共同事業(ジョイントベンチャー)を実施することで、ユナイテッド航空やアメリカン航空でアメリカから日本に飛んだ乗客を、ANA・JALの東南アジア便へスムーズに乗り換えられるサービスを実施したことも大きかった。

インバウンドの入国を認めない日本、今のANA・JALの国際線は貨物と3国間流動が支えている

 コロナ禍で外国人の観光目的での入国が認められず、1つの国際線の柱であるインバウンド需要はゼロ状態の中、東南アジアにおける入国制限緩和を追い風に3国間流動の取り込みに成功して満席便が続出している状態にあるが、筆者も実際に搭乗して感じたが、「世界は動き始めている中で日本は遅れを取っている」ことは明確だった。

 現在のANA・JALの国際線は、価格が高騰している貨物需要と3国間流動が支えており、日本の入国制限緩和が限定的であるなかで、自助努力で厳しい環境のなかで健闘していると言える。現在、1日あたりの入国者数の上限は1万人であるが、3国間流動で日本に入国しない場合は人数にカウントしないことから、航空会社にとっても満席になるまで予約を受けることが可能となっている。

 3国間流動について、ANAホールディングスの芝田浩二社長は4月28日の決算会見の中で「今の国際線は羽田も成田もそうですが、3国間流動のお陰で潤っている。これは水際対策の日本の厳しさがあり、(入国者の上限対象にならないことで)キャパシティに空きがあり、気持ちとしては需要があるところは全て取りに行くという思いで3国間流動を積極的に取ってきた。アメリカと東南アジアは足元で急速に回復している」と話した。

 JALも5月6日の決算会見の中で3国間流動について、菊山英樹代表取締役専務執行役員は「コロナ前は10%程度だったが、2021年度は約45%程度の需要があった」と話し、現在は更にその率は高いという見解を示すなど、確実にANA・JAL両社の国際線を支えていることは明確である。

4月28日の決算会見で3国間流動について話すANAホールディングスの芝田浩二社長
4月28日の決算会見で3国間流動について話すANAホールディングスの芝田浩二社長

6月以降にインバウンド受入再開の可能性もあるが課題も

 一部報道では、今月にも少人数のツアーに限って訪日外国人観光客の入国を認める方向で検討という記事が出ているが、世界でこのような実験的な措置をしている国は聞いたことがない。6月以降に本格的なインバウンドの受け入れを再開する可能性も高まっているが、現在、1日あたりの入国者数の上限は1万人としており、これを拡大しないことにはインバウンドの受け入れは難しく、日本人の帰国需要にも対応できなくなる。

 PCR検査についても日本に入国する場合には現地出発72時間前以内の陰性証明書が求められるが、日本に入国しない乗り継ぎ客においては最終目的地の国が陰性証明書を求めない国であれば、日本発着便でも搭乗前のPCR検査は不要であるという矛盾もある。

筆者が4月上旬のロサンゼルス渡航の帰国前に受けたロサンゼルス空港内のPCR検査場(4月9日撮影)
筆者が4月上旬のロサンゼルス渡航の帰国前に受けたロサンゼルス空港内のPCR検査場(4月9日撮影)

日本帰国時の手続きをスムーズにする「ファストトラック」利用にあたり、「My SOS」アプリの登録が必要
日本帰国時の手続きをスムーズにする「ファストトラック」利用にあたり、「My SOS」アプリの登録が必要

アプリの登録が終わり、数時間以内に審査がオンラインで行われ、緑の「審査完了」の画面が出れば、帰国便の現地でのチェックイン手続き時の書類チェック及び日本到着時の手続きが楽になる。
アプリの登録が終わり、数時間以内に審査がオンラインで行われ、緑の「審査完了」の画面が出れば、帰国便の現地でのチェックイン手続き時の書類チェック及び日本到着時の手続きが楽になる。

GWに海外旅行へ出かけた日本人からは帰国前のPCR検査が一番面倒だったという声が多数

 GWに旅行をしていた日本人旅行者の多くからは、帰国前の現地でのPCR検査は、コストはもちろん、検査の為に時間を割かなければならず、非常に面倒という声が多かった。ワクチン3回目接種しているのであれば不要にして欲しいという声が多く聞かれた。日本は島国であり、入国者は基本的に飛行機での入国になることから、新しい変異株が出た場合には空港検疫を強化することによって水際で止められる可能性は高く、実際にオミクロン株の流入のタイミングも遅らせることができたと言われている。今後も一定の水際対策は必要である。

 そういった点からも、羽田空港や成田空港での入国者全員に求められる抗原検査は、唾液を採取してから結果が出るまで約1時間を要するが、費用も個人負担はないことから、一定の理解を示す日本人旅行者も多い。ただ入国者の総数を増やした際に待ち時間が長くなってしまうのではないかという懸念もある。

 最近、日本人で海外渡航した人からは、少なくてもワクチン3回目接種者については帰国前のPCR検査を免除して欲しいという声が強く、実際の渡航した人からの声も考慮した上で水際対策の緩和内容について議論して欲しい。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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