知っておきたい「お墓」のルール~お墓は「相続財産」ではない!?
一般的なお盆の期間は、8月13から16日です。そして、本日16日はご先祖様があの世に帰る「送り火」の日です。
そこで今回は、民法でお墓の引継ぎをどのように定めているのかをみてみます。実は、民法はお墓を、家や預貯金などの財産とは一線を画した引き継ぎ方法を定めています。
相続財産はどのように引き継がれるのか~相続財産承継の原則
お墓の引き継ぎ方をご紹介する前に、一般に、相続財産はどのように引き継がれるのかみてみましょう。
民法は、被相続人(亡くなった人)の財産について、原則として相続人が承継するものと定めています(民法896条)。
民法896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
「お墓」は「相続財産」ではない
このように、民法は、原則として相続人が承継するものと定めています。しかし、祭祀のための財産、たとえば、系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇仏具、神棚、十字架など)、墳墓(敷地としての墓地を含む)は相続財産とせず、次のように相続財産とは「別ルート」で引き継がせるように定めています(民法897条)。
897条(祭祀に関する権利の承継)
1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(筆者注:896条)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
このように、祭祀財産は、まず、慣習に従って「祖先の祭祀を主宰すべき者」(祭祀主宰者)が承継します。ただし、被相続人の指定がある場合には指定された者が承継します。なお、指定方法は特段決められていません。生前に口頭または文書でもできます。もちろん、遺言でもできます。
そして、被相続人の指定がなく、慣習が明らかでない場合は、権利を承継すべき者を家庭裁判所が定めることになります。
お墓の引継ぎに潜む「家」制度の発想
このように、897条1項は、祭祀財産を「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者」が承継するとしています。そして、「慣習に従う」という方法の根底には「『家』を継ぐ者が祭祀を承継する」という考え方が潜んでいると指摘されています。
その証として、民法は、「氏(姓)を同じくしない者は祭祀を承継できない」というルールを規定しています(民法769条1項)。
民法769条1項(離婚による復氏の際の権利の承継)
婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第897条1項(筆者注:前述の「祭祀に関する権利の承継」)の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。
たとえば、山田太郎が佐藤花子と結婚して佐藤太郎を称したとします(民法750条)。
民法750条(夫婦の氏)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
そして、花子の父の死亡後、佐藤家の祭祀を承継したとします。
ところが、太郎は花子と離婚して山田姓に復した(戻した)とします(民法767条1項)。
民法767条1項(離婚による復氏等)
婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
そうなると、太郎はもはや「佐藤家」の人間ではないので、「佐藤家」の祭祀を行うのはおかしい。したがって、改めて当事者間でだれが祭祀を承継するのかを協議しなければならない。以上が769条1項の理屈です。
実は、「姓の異なる者に祖先の祭祀を承継させることを避ける」という点で、「家」制度的な発想にとらわれたものであるとして769条には批判があります。
この769条は昭和22年の民法改正の際に新設されたもので、氏の異なった者を祭祀主宰者とし、祭祀財産を承継させ、祭祀を営ませることは国民感情にそぐわないとの理由で設けられたといわれています。
お墓は「特殊」な財産~お墓の引継ぎでもめないために
以上から、お墓が相続財産ではない理由は、お墓などの祭祀財産は、「家」や「姓」と密接に結びついた「慣習に基づく承継がなされる財産」だからと考えられます。
このように、お墓は「特殊」な財産といえます。お墓をめぐる争いになってしまったら、ご先祖様はお盆で帰ってきても落ち着いて過ごせないでしょう。そうならないためにも、お墓の引継ぎがあいまいなら、タイミングを見て、親子や兄弟姉妹の間で話題にしてみるのもよいかもしれませんね。