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「英国で最も嫌われた女性」から「クイーン」への道 王室で成功したカミラ王妃という生き方

木村正人在英国際ジャーナリスト
チャールズ国王とカミラ王妃の戴冠式を欠席するメーガン夫人(写真:ロイター/アフロ)

■チャールズ国王と並んで戴冠するカミラ王妃

[ロンドン発]チャールズ英国王の戴冠式が5月6日に迫ってきた。慈善活動家ら2000人以上の国内外ゲストが招待され、日本からは秋篠宮ご夫妻が参列する。インフレによる生活費の危機の中、国民生活への影響を最小限にしたい国王の意向でパレードは故エリザベス女王の戴冠式(1953年)の8キロメートルから2キロメートルに短縮される。

チャールズ国王と故ダイアナ元皇太子妃のダブル不倫、離婚、元妃の交通事故死で1990年代に「英国で最も嫌われている女性」と呼ばれたカミラ王妃は当日、ウェストミンスター寺院で国王と並んで戴冠する。1911年に戴冠したメアリー王妃の王冠を改良し、インドで「植民地時代を思い起こさせる」と物議を醸したダイヤモンドは取り除かれた。

70年に国王と出会ったカミラ王妃がその時結婚できなかった理由はチャールズが若すぎるから、彼女が十分に貴族的ではなかったから、皇太子妃に相応しいように見えなかったから、処女でなかったからと、さまざまな理由が取り沙汰される。真偽は分からないが、処女でないから皇太子の愛人になるのは構わないが、妃になるのはダメとされたという説もある。

■「クイーン・コンソート」から「クイーン」に

彼女が困難を乗り越えて王妃になれた理由について、英紙ガーディアンのコラムニスト、ゾーイ・ウィリアムズ氏は「インタビューに答えない、あまり語らないからだ。つまり善行と従順。カミラを対象として時にひどく微細なディテールが報道されるが、決して彼女は主語にはならない。『主体』ではなく『客体』になることに徹した」と書く。

昨年2月、在位70年を迎えたエリザベス女王は、チャールズが国王になるのに併せてカミラが王妃(クイーン・コンソート)になることを「心から願う」と表明し、「コーンウォール公爵夫人」から「王妃」への道を確定させた。同年9月、エリザベス女王の死去でチャールズ国王が即位し、カミラは王妃になった。

戴冠式の招待状でカミラの称号は「クイーン・コンソート」から「クイーン」に“格上げ”された。エリザベス女王(クイーン)の死後すぐは混乱を避けるためカミラ王妃を「クイーン・コンソート」と呼んで区別した。女王が他界して時間が経った今、カミラ王妃を「クイーン」と呼んでも混乱は生じないと判断したとみられる。

■「クイーン・カミラは既定路線」

英大衆日曜紙サンデー・エクスプレス時代にヘンリー公爵とメーガン夫人の交際をスクープした保守系英紙デーリー・テレグラフ政治・王室担当のカミラ・トミニー副編集者は18日、ロンドンの外国人特派員協会(FPA)で特派員の取材に応じ、「クイーン・カミラは既定路線だ」と語った。

英紙デーリー・テレグラフ政治・王室担当のカミラ・トミニー副編集者(筆者撮影)
英紙デーリー・テレグラフ政治・王室担当のカミラ・トミニー副編集者(筆者撮影)

「チャールズ国王はこれまでにもカミラがクイーンとして認知されることを願っていることを示唆してきた。故エリザベス女王が生前の声明でカミラ王妃(クイーン・コンソート)の道筋を示し、前もってクイーン・カミラという概念が英国や世界で広く受け入れられるよう入念に計画してきた」(トミニー氏)

「カミラがクイーン・コンソートからクイーンと呼ばれることに慣れれば、より親しみが増していく。2005年に国王と結婚してからカミラ王妃は国王の活動をサポートする一方で、レイプや暴力の被害者支援、読書の普及や識字率の向上など、自分自身の活動にも力を注いできた。だからクイーンと呼ばれる資格は十分にある」(同)

■ヘンリー公爵の攻撃に心を痛めるカミラ王妃

トミニー氏は「90年代後半から2000年代前半にかけてのメディアの扱いを今と比較すると、彼女のイメージは随分、回復した。しかし国宝級にまでなったというのは言い過ぎかもしれない。意地悪な継母のように言われることも、ほとんどの人は自分の人生で直面するのと同じ問題を国王と王妃が抱えていることにより親しみを覚えるはず」と語る。

ヘンリー公爵は回想録『スペア』でカミラ王妃が自分のイメージを高めるために王室に関する話をメディアにリークしたと主張する。ウィリアム皇太子とヘンリー公爵が、カミラ王妃が「意地悪な継母」になることを恐れて、チャールズ国王に結婚しないよう懇願したことも明かしている。カミラ王妃はこうした攻撃に心を痛めているとされる。

トミニー氏は「自分に不利なブリーフした情報源は王室に違いないというヘンリー公爵の思い込みはいかがなものか。多くの人が誰に対してもブリーフすることができる。彼らは王室の意向で動いていないかもしれないし、カミラ王妃やチャールズ国王と連携していないかもしれない。私たちは双方の言い分に耳を傾ける必要がある」と話す。

■「メーガン夫人が戴冠式に来ないのは家族の決定だ」

メーガン夫人が戴冠式を欠席することについては「子どもも戴冠式に招待されていたので、彼女が来ないのは明らかに家族の決定だ。メーガン夫人は出席しても自分のプラスにはならないと判断したと考えている。その日は息子の4歳の誕生日で、自分にとって最も重要な肩書きである母親の役割を優先させたのだろう」とトミニー氏は解説する。

メーガン妃の欠席で戴冠式ではキャサリン妃によりスポットライトが当たる。「王室の中で最も重要なのはキャサリン妃だ。未来の国王の妻として、未来の国王の母として、最も興味深い人物の1人だ。私の女友だちや私たちの視聴者にとってもキャサリン妃は確かに興味深い存在だ。彼女は非常にとらえどころがなく、あまり彼女の肉声を聞く機会がないからだ」(トミニー氏)

「キャサリン妃はクイーン的と言えるだろう。不可解な存在で、それが彼女を面白くしている。メーガン夫人との間には大きなコントラストがある。1人は外向的で、もう1人は内向的。1人は自分の道を進み、もう1人は自分が属する組織の一部になることを決意している。女性としてとても興味深い」とトミニー氏は言う。

あなたなら王室に嫁いだ4人の女性、ダイアナ元妃、カミラ王妃、キャサリン皇太子妃、メーガン夫人のうち誰の生き方を選びますか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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