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マスターズ初日。ウッズ、松山、暫定5位発進も、明日以降に待ち受ける試練

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
好発進を切った松山英樹、悲願のマスターズ初優勝を今年こそ達成してほしい(写真:ロイター/アフロ)

 「ゴルフの祭典」マスターズが7カ月遅れで、ついに開幕。「祭典」とはいえ、コロナ禍の影響でオーガスタ・ナショナルにギャラリーの姿はなく、ギャラリースタンドや看板も設置されておらず、代わりにあったものは静寂だった。

 初日は悪天候でスタートが2時間ほど遅れ、出場選手のほぼ半数が18ホールを回り終えることができずに日没サスペンデッドとなった。ハーフすら回れなかった選手もいたほどで、明日以降の不規則進行は必至となった。

 だが、百戦錬磨の選手たちにとって、それらは驚きではなかったはずだ。米ツアーが再開された6月以降、無観客試合をいくつも経験してきた彼らは、静寂の中でのプレーにすでに慣れている。

 もちろん、オーガスタ・ナショナルといとう特別な場所、マスターズという特別な大会で味わう「静寂プレー」には、多少の違和感はあるのかもしれない。しかし、それが初日のプレーの良し悪しを左右する要因になったとは考えにくい。

 今年のマスターズ4日間がストーム(嵐)に襲われるであろうことは、1週間以上前から予報が出されていた。スタートの遅延や不規則進行、降雨によってグリーンやフェアウエイがいつになくソフトになることも、ある程度は予想できていた。

 そうしたすべてをあらかじめ織り込んだ上で初日に挑むことは、世界のトッププレーヤーたちなら「当たり前のこと」。いちいち面食らったり、驚いたりするものではなかったはずだ。

【デシャンボーの挽回は驚きだった】

 それならば、ブライソン・デシャンボーの初日のプレーは、驚きだったのかどうか。

 開幕前の4週間をマスターズへの準備期間に充て、テキサス州の自宅で肉体作りやスイング調整、ギア調整に専念してきたデシャンボー。開幕前から米メディアは「長尺ドライバーでかっ飛ばし、4つのパー5すべてで2オンし、パー4を1オンしてオーガスタ・ナショナルを凌駕する」などと書き立て、世界の視線が彼に集まっていた。

 10番からスタートしたデシャンボーは、3番ウッドで着実にティオフ。次なる11番でドライバーを握ったが、いきなり左の林に打ち込み、早くもピンチ。ここは、ナイスセーブで切り抜けた。だが、13番では2打目をグリーン左のブッシュに打ち込み、アンプレアブル宣言後の次打はダフって数メートルしか進まず、ダブルボギー。

 そんな乱れぶりは、驚きかと言えば、マスターズ初制覇を目論んで力んで挑んだ注目選手にはしばしば起こる現象であって、これも大きな驚きではない。

 本当に驚いたのは、そのあとのデシャンボーの挽回ぶりだ。15番、16番、折り返し後の2番でバーディーを奪い、7番で唯一のボギーを喫したものの、上がり2ホールは見事な連続バーディーで締め括り、2アンダー、70でホールアウト。

 「体が硬くて、思い通りのスイングができなかった。でも、よく持ち直したと思う。8番、9番のバーディーは、その何よりの証。2連続バーディーで締め括った今日のプレーを僕は誇りに思う」と胸を張っていた。

【デシャンボーの小技も驚きだった】

 同組だったジョン・ラームは、デシャンボーの飛距離に驚き、とりわけ8番のデシャンボーのドライバーショットに唖然とさせられたそうだ。

「僕はナイスドライブだったけど、デシャンボーはトゥ気味の当たりだった。それでも彼は僕のはるか先を行っていた」

 しかし、ラームはデシャンボーの飛距離より、彼の小技にもっと驚いたという。

「どんなに飛ばしても、寄せは残るし、パットも必要。今日のデシャンボーは寄せワンでたくさん拾っていたし、何より、彼のショートゲームのレベルは驚異的に向上している」

 デシャンボーの力みが取れてスムーズにスイングできるようになったら、2日目以降、飛距離と小技のコンビネーションで彼が大躍進する可能性は大いにある。

【ウッズ、松山は好発進】

 ゴルフファンにとって、初日の一番の驚きは、今年不調続きだったタイガー・ウッズが4アンダーをマークして好発進したことかもしれない。

 悪天候でスタートが遅れていた間、食事を摂ったり、ストレッチして体をほぐしたりと、コンディショニングに努めていたウッズ。出だしの10番でフェアウエイからの第2打をいきなりひっかけたときにはヒヤリとさせられた。だが、それ以降は、まるで別人のように、いやいや、マスターズ5勝、メジャー15勝、通算82勝の王者らしい堂々のプレーぶりを披露。4バーディー、ノーボギーで回り、4アンダー、68で暫定5位に付けた。

「すべて良くできた。ティショットもアイアンもパットも上手く打てた。悪かったのは8番のセカンドだけだ」

 トップ10入りが8試合でわずか1度だけという今年の不調がウソのように、好プレーで好発進したウッズの表情は晴れやかだった。

 一方、ウッズと同じ4アンダー、68で暫定5位に並んだ松山英樹は、それでも「全体的には、かなり悪かった」と自己評価は厳しい。しかし、ストイックで冷静な彼の性格を考えれば、そんな感想もまったく驚きではない。

 松山にしてみれば、前週のヒューストン・オープンで2位に食い込んだ勢いに乗って、もっといいプレーができたはず、もっといいスコアが出せたはずという思いが強かったのではないだろうか。

 若干のミスショットもあった。短いパットもいくつか外した。そういうものを極限まで減らさなければ、悲願のマスターズ初制覇にはほど遠いと、彼は気を引き締めているのだと思う。

【待ち受けるのは我慢の勝負】

 リーダーボードに目をやれば、18ホールを終えた選手では、暫定ながらポール・ケーシーが7アンダーで首位に付け、ウエブ・シンプソン、ザンダー・シャウフェレといった堅実な選手が5アンダーで2位に並び、その後ろにウッズや松山が4アンダーで並んでいる。

 しかし、今大会はすでに不規則進行に突入しているため、初日を回り終えている彼らは、明日の金曜日は午後の遅い時間まで待たされた上で第2ラウンドをスタートし、ほぼハーフを土曜日へ持ち越すことになる。

 逆に、初日に18ホールのうちの半分ぐらいしか回れず、それでも上位に付けているジャスティン・トーマス(5アンダー、暫定2位)やマシュー・ウルフ、アダム・スコット(ともに4アンダー、暫定5位)らが、明日、好調なまま第2ラウンドでもスコアを伸ばしていったら、ケーシーもウッズも松山も、初日の上位選手全員がプレッシャーを感じながら第2ラウンド以降に臨むことになる。

 待ち時間が長くなる分、より一層の体調管理が必須となり、集中力や忍耐力を維持することが何より求められる。

 飛距離より小技。ボールのコントロールより、心身のコントロール。待ち受けるものは我慢の勝負。それもまた驚きではなく、むしろゴルフの真髄であり、今年のマスターズは、驚きのようで驚きではない「当たり前」の姿が多々見られそうな予感がする。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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