わが家の危険を調べる方法 「まさかこんな場所に家があったなんて」と後悔しないために
「ハザードマップ」という言葉は誰でも一度ぐらいは聞いたことがあるだろう。
河川が洪水したときなどの浸水の範囲や深さ、あるいは土砂災害の危険がある地域を示した地図ということは皆さんもご存知の通り。しかし、それだけではない。
津波や高潮の浸水区域や深さ、浸水が継続する時間や浸水時の通行止め箇所、さらには地震による液状化の危険がある地域、過去に大きな災害があった地域など、その種類は多岐にわたる。そして、それらをインターネット上で簡単に見られるのが国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」。ここ数年、その機能は大きく進化している。実際に使ってみれば、知らなかったわが家の危険が明らかになる可能性も! 災害が起きてから「まさかこんな場所に家があったなんて」と気付くのでは遅い。ハザードマップポータルサイトに近年加わった新機能について、その概要と使い方を解説する。
まずは、インターネットで国土交通省の「ハザードマップポータルサイト~身のまわりの災害リスクを調べる~」にアクセスをしてほしい。基本的な使い方は、動画などで分かりやすく解説されているので、興味のある人は参考に。
トップ画面には、「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」の2つの大きな表示があるが、重ねるハザードマップは、GIS(地理情報システム)によって、1つの地図上でさまざまな危険を重ねながら統合的に見ることができる。これに対してわがまちハザードマップは市町村が作成しているハザードマップへのリンクをまとめたもので、データ元でもある。
「重ねるハザードマップ」はいろいろな危険を一度に見ることができるため分かりやすいが、オリジナルのデータ元でもある「わがまちハザードマップ」の方が詳しいデータが載っていることもある。
個人的な感想だが「重ねるハザードマップ」の方が初心者には使いやすい。そこで、重ねるハザードマップに、まずは自宅の住所を打ち込んでみよう。
新機能1 高潮ハザードマップ「都内23区の3分の1が浸水!」
住所を打ち込むと付近の地図が表示される。画面左に現れた小窓の中から、調べたい災害のアイコンをクリックするか、もしくは左のツールボックスから「危」の字をクリックし、カーソルで調べたい場所に持ってくると、調べたい災害を選ぶことができる。いずれにしても、地図上に危険な地域が示されるわけだが、今回、まず紹介したいのが今年1月14日に公開された高潮のハザードマップ。
高潮ハザードマップが表示されるのは、2021年2月1日時点で、千葉県、東京都、兵庫県、福岡県の4都県だけにとどまっているが、高潮による氾濫が発生した場合に浸水が想定される区域と水深が示されている。
実は、東京都では2018年に、東京湾周辺が巨大台風に襲われた場合の高潮による浸水想定図を初公表したが、東京都港湾局のホームページから該当地区の画像データをダウンロードして調べる、など少し使いにくい面もあった。今回は国交省のGIS(地理情報システム)により、自宅の場所や他のリスクなども重ねて見ることができるようになった。
ちなみに、高潮による都の浸水想定は、海外沿いだけにとどまらず、東京湾につながる河川の水面も上昇し、23区の3分の1に相当する約212平方キロが浸水するとされており、水が1週間以上も引かない地域も少なくない。
高潮だけに限った機能ではないが、ここに、避難場所を表示したり、あるいは地図の背景を写真で表示することもできる。画面右のツールボックスで、自宅から避難所までの場所を計測したり、地図上に線を引き印刷することもできるため、オリジナルの避難地図も簡単に作製できる。
新機能2 浸水の継続時間がわかる
洪水や高潮のハザードマップでは、浸水の範囲や深さが示されていることは説明した通りだが、もう1つ是非知っておいてほしいのが、浸水がどのくらいの間、継続するか。数日間、あるいは1週間以上も長期化するような区域は救助が遅れることが想定される。「マンションの高い階層に住んでいるから大丈夫」と思っても、2週間も浸水が継続する地域なら、水や電気、トイレが使えない、買い物にも行けない状況でそれだけ生活し続けられる準備をしておく必要がある。
この機能は、昨年6月から利用可能となったもので、まだ、利用できるのは一部河川にとどまるが、「重ねるハザードマップ」に表示されなくても、市町村のハザードマップに表示されているケースもあるので、「わがまちハザードマップ」も併せて確認することをお勧めする。浸水時間に加え、川の氾濫や堤防の決壊により家屋の倒壊などの危険がある氾濫想定区域(氾濫流)や、河岸の侵食による危険がある地域なども表示される。
新機能3 地震による液状化の危険度が分かる
昨年12月には、液状化の危険度分布図が公開された。液状化とは、地震によって砂地盤などが激しく揺られると、地面がまるで液体のように一時的にやわらかくなる現象のこと。建物などを支える力を失い大きな被害をもたらす。2018年の北海道胆振東部地震では広範囲により液状化が発生し家が大きく傾いた。
新機能4 過去の代表的な災害事例も
このほか、過去に起きた代表的な災害を地図上に表示する機能も加わった。実際の浸水推定図や災害当時の画像や動画が地図上に表示される。身近な地域でどのような災害が起きたのかを知る、あるいは過去の災害を振り返ってみるのに役立つ。
また、従来からの機能ではあるが、1945年からの土地の空撮画像を地図に重ね合わせることができる。昔、川だった場所が埋め立てられていることもあるので、過去の地形を確認することは極めて重要だ。
ハザードマップは万全ではない
ここまでハザードマップを詳しく紹介しておきながら、言いにくいことではあるが、ハザードマップは完璧ではない。むしろ、ハザードマップでは見えていない危険の方が多く存在する。今回紹介した重ねるハザードマップも、まだ一部の地域で使えるだけの機能が多いし、そもそも全てのリスクを地図上に表示するというのは現実的ではない。
街全体で水害を防ぐ「流域治水」関連法案が2月2日に閣議決定され、国は、水防法の改正により、都道府県に対して中小規模の河川についても浸水が想定されるエリアを示した地図を作成することを義務付けるが(関連記事)、実際にこれらがハザードマップ上に反映されるのはまだ先になる。さらに、仮に反映されたとしても、危険箇所を網羅することなどできない。ただし、災害を具体的に想定する上では非常に役立つツールなので、「定期的」にハザードマップで危険を調べてみることが大切だ。
近年では、小さな用水路さえ、あふれ出て大きな被害になるケースも増えている。できれば、地域を家族や近所の方と一緒に歩いて、街中に存在する危険を調べてみた方がいい。その際、①地理、②歴史、③物理、④環境、⑤多角性という5つの視点で街や我が家を見直してみることをお勧めする。
たとえば、①地理なら、地域で特に低い場所はないか、川が近くにないか、用水路はないか、断層はないか。②歴史なら、過去に大きな災害はなかったか、過去に川や沼地だった場所はないか。お年寄りの方が一緒なら思わぬ発見もあるだろう。③物理なら、揺れなどで上から落ちてきそうな物や倒れそうなものはないか、あるいは浸水したときにどのくらいの高さまで水がくるのか。地域の工務店や建設会社の方と一緒に回ってみれば、さまざまな専門的な知見が得られるかもしれない。④環境は、最近大きく開発されたような場所はないか(あれば、それにより交通量が増えたり、高齢者が増えたりしていないか)、あるいは朝から夜になり危険が増すと考えられような場所はないか。子供に聞けば、大人の知らない意外な危険が浮かび上がる。最後の⑤多角性は、「自分」という立場だけでなく、他の目線でも地域を見てみること。子供ならどうか、高齢者ならどうかと、さまざまな角度から見てみることが大切だ。