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「大迫半端ないって」。名言が生まれる前から半端なかった男・大迫勇也

安藤隆人サッカージャーナリスト、作家
コロンビア戦で決勝ゴールとなる『半端ない』ヘッドを決めて歓喜のダッシュ!(写真:ロイター/アフロ)

「大迫半端ないって」―。

ロシアW杯の日本の開幕戦となったコロンビア戦で、FW大迫勇也が日本を勝利に導く2ゴールすべてに絡む大車輪の活躍を見せて、この試合のマン・オブ・ザ・マッチに輝いた。

この活躍にネット上で大きな話題となったのが、この「大迫半端ないって」という言葉だ。

この発言が出たのは、第87回全国高校サッカー選手権大会準々決勝の鹿児島城西VS滝川第二の試合後のロッカールームだった。

これはすでに多くのメディアで紹介をされており、周知の事実になっているが、この試合で2−6の大敗を喫した滝川第二のキャプテン・中西隆裕が涙を流しながら、「大迫半端ないって、アイツ半端ないって、後ろ向きのボールめっちゃトラップするもん。そんなんできひんやん、普通」と叫んだことが放送されたことで、一気に高校サッカーファンの間では『名セリフ』となったのが発端だ。

すでに日本代表の試合が行われるスタンドでは、中西氏の顔と言葉がプリントされたゲートフラッグは『名物』として知られており、もはや大迫の『代名詞』となっている。『大迫半端ないってTシャツ』も大きな話題となった。

それがW杯初戦のド派手な活躍で、大迫を表すこの『キラーワード』は一気に日本列島を駆け巡り、今年の流行語大賞の最有力候補にまでもなった。

この発言が飛び出した第87回全国高校サッカー選手権大会は、まさに『大迫の大会』だった。初戦から大会史上初となる4試合連続2得点を達成し、準決勝・前橋育英戦でも1得点、決勝の広島皆実戦でも1得点と、1大会最多得点記録を更新する10得点を叩き出した。

この『大迫半端ない伝説』は選手権大会の前から既に存在していた。

鹿児島城西高1年時からストライカーとしてレギュラーを掴んでいた彼は、U-16日本代表に選ばれるなど、知る人ぞ知る存在だった。

高2の冬になると、Jクラブのスカウト達の注目の的になり、高3の春の時点で『高校ナンバーワンストライカー』との呼び声が高かった。

筆者も当時から大迫の評判を聞きつけ、彼が高1のときから取材を重ねていた。

その中で筆者が最も「大迫半端ない」と思った試合が、選手権大会の3ヶ月半前の高円宮杯全日本ユース(現・高円宮杯プレミアリーグ・チャンピオンシップ)のガンバ大阪ユース戦だ。

ひたちなか陸上競技場で行われたこの試合で、大迫勇也は度肝を抜く活躍をしてみせた。

対戦相手のG大阪ユースには西野ジャパンでチームメイトの宇佐美貴史がおり、他にも大森晃太郎(現・FC東京)、岡崎建哉(現・栃木SC)、内田達也(現・東京ヴェルディ)、田中裕人(現・愛媛FC)らもいた優勝候補だった。

この強敵を相手に12分にいきなり大迫の右足が火を噴いた。鹿児島城西は自陣中央でFKを得ると、左サイドに流れた大迫に山なりのロングキックが届いた。

大迫は自らの目の前でワンバウンドしたボールに回り込むように落下地点に入ると、ボールの落ち際を右足ハーフボレー。鋭い一振りから放たれた弾丸は、GKの指の先をすり抜け、ゴール右上隅に突き刺さった。

その後、33分に宇佐美のアシストで同点に追いつかれ、56分には宇佐美のゴールで一度は試合をひっくり返されたが、62分に同点に追いつくという白熱の展開に。

試合は2−2のまま延長にもつれ込むと、96分に大迫がまさにあのフレーズにぴったりな衝撃的なゴールを決める。

左サイドのスペースに走り込んだ大迫に、中央からライナー性の縦パスが届く。大迫はゴールに向かって走り出したため、このボールは彼の背後から低い弾道で飛んで来た非常に難しいボールだった。

「これは正直トラップするのは難しいか」とエンドライン付近で写真を撮っていた筆者が思った瞬間、大迫は後ろを向くこと無く、軽くジャンプをしながら一瞬だけ身体を開いて、ワンタッチでライナーのボールを完璧にコントロールすると、そのままスピードを殺すこと無く一気に縦に抜け出した。

このプレーで勝負は決した。並走していたDFは寄せる時間も無いまま、GKと1対1になって行く大迫の背中を見つめるしかなかった。

そしてトップスピードでペナルティーエリア内左に侵入した大迫は、折り返しを警戒して、相手GKが少し開けたニアのスペースを見逃さなかった。角度のない位置から、迷うことなく左足一閃。強烈な一撃は、GKのニアサイドをぶち抜き、ゴールに突き刺さった。

圧巻だった。まさに「後ろ向きのボールめっちゃトラップするもん。そんなん出来ひんやん、普通」だった。

このゴールこそ、筆者にとって大迫の歴代ゴールの中でのベストゴールだった。プロになってからも彼のゴールを見て来たが、あれを越える衝撃はまだない。

大迫の一撃で逆転し返した鹿児島城西は、試合終了間際の109分(延長戦は10分ハーフ)、右FKをファーサイドで受けた大迫が、足裏で巧みにコントロールすると、再び角度のない位置からニアサイドをぶち抜く左足シュートを豪快に突き刺した。

G大阪ユースを相手に圧巻のハットトリック。この直後に1点を返されるが、4−3のスコアで鹿児島城西は準決勝進出を果たしたのだった。

鹿児島城西VSG大阪ユース。内田達也と競り合う高3の大迫勇也。圧巻のゴールショーを見せ、ハットトリックで強豪撃破の主役として大暴れをした。(安藤隆人撮影)
鹿児島城西VSG大阪ユース。内田達也と競り合う高3の大迫勇也。圧巻のゴールショーを見せ、ハットトリックで強豪撃破の主役として大暴れをした。(安藤隆人撮影)

「3点とも狙い通りでした。トラップを凄く意識して、あとはいかにスピードを落とさないでシュートまで持ち込めるか。イメージ通りでした」。

試合後、そう自信溢れる表情で語る大迫が印象的だった。話を聞きながら、「やっぱりとんでもない選手だな」と興奮を抑えきれなかったことをはっきりと覚えている。

G大阪ユース戦後、インタビューに答える大迫勇也。半端ない男にはまだ初々しさが残る。(安藤隆人撮影)
G大阪ユース戦後、インタビューに答える大迫勇也。半端ない男にはまだ初々しさが残る。(安藤隆人撮影)

そして、G大阪ユース戦から10年後、ずっと『半端なかった』男は、ロシアの地で日本の多くの人々がそう思う男にまでなった。

最後にあの選手権大会で大迫率いる鹿児島城西は、決勝で広島皆実に2−3で敗れて準優勝に終わっている。この試合で広島皆実のキャプテンでCBだった松岡祐介は大迫についてこう振り返っている。

「決勝のプランは大迫がボールを持ったら太刀打ち出来ないので、いかに大迫にパスが入らないように僕は常に彼を見て、ボランチを大迫のパスコースに立たせることに集中した。それでも1得点1アシストをされてしまった…。本当に次元が違いました」。

現在は地元・広島の大学職員をしている松岡は、コロンビア戦を市内のスポーツバーで観ていた。そこで大迫の決勝ゴールとなるヘッドを見て、思わず「大迫、半端ない!」と思ったという。

「実はあの決勝戦で、一つだけ彼が『半端だった』シーンがあったんです。それは後半に相手の左CKのときに、大迫に飛び込ませてしまったのですが、彼は若干僕らのチームのDFに触れたことで、ちょっと体勢がよろけてヘッドを上手くミート出来ず外してくれたんです。その時は『助かった』と思ったのですが、コロンビア戦ではあの時とまったく同じような左CKからのシーンだったのですが、彼は相手に身体が触れても体勢をよろけることなく、着実にボールを頭にミートして決めてみせた。やっぱり半端ないなと」。

続くセネガル戦でも日本列島をあの言葉で埋め尽くさせることが出来るのか。半端ない男の新たな伝説が生まれることを期待したい。

サッカージャーナリスト、作家

岐阜県出身。大学卒業後5年半務めた銀行を辞めて上京しフリーサッカージャーナリストに。ユース年代を中心に日本全国、世界40カ国を取材。2013年5月〜1年間週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』連載。Number Webで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。全国で月1回ペースで講演会を行う。著作(共同制作含む)15作。白血病から復活したJリーガー早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯27試合取材と日本代表選手の若き日の思い出をまとめたノンフィクッション『ドーハの歓喜』が代表作。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼務。

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